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2007年1月8日設置 サイト→http://warakosu.syarasoujyu.com/
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上図:在りし日のカエンタケとベニナギナタタケ


ベニ「うっ・・・・うっ・・・・」
シロ「ベニナギナタタケ・・・・」
ベニ「!・・・・シロフクロタケさん・・・・」
シロ「オニフスベから聞いたよ。カエンタケに脅されてるって」
ベニ「・・・・・・・・」
シロ「逃げよう、ベニナギナタタケ。カエンタケは最悪のキノコだ。彼の傍にいたら、君まで危険なキノコとして人間に敬遠されてしまう。汁物に入れたり、マヨネーズで和えたり、君はとっても美味しいキノコなのに」
ベニ「・・・・・・・・」
シロ「逃げるんだ、ベニナギナタタケ。あいつがいない、今のうちに!」
ベニ「・・・・・・・・私は、行けない」
シロ「ベニナギナタタケ!」
ベニ「ごめんなさい、シロフクロタケさん。だけど・・・だけど私は行けません!私はカエンタケの傍にいたい!」
シロ「ベニナギナタタケ!カエンタケは危険なんだ!あいつは猛毒菌で、人間を殺す為に君を利用しているんだ!」
ベニ「違う!カエンタケは何も悪くない!悪いのは私!みんな私が悪いんです・・・!うっ・・・ううっ・・・・」
シロ「君が悪い、だって?」
ベニ「・・・・・・・・・」
シロ「どういうこと?教えて!話してベニナギナタタケ!」
ベニ「・・・・カエンタケは・・・カエンタケは、己を毒だと知らなかったのです」
シロ「・・・え?」
ベニ「カエンタケも昔は優しかったのです。・・・森育ちで都会のことなど何も知らない私に、どこに菌糸を伸ばせば良いか、どう養分を取ればいいか、街での暮らし方を教えてくれたのは、カエンタケなんです。彼は頼もしくて、あの焔のような紅が美しくて、私、カエンタケの様になりたかった・・・カエンタケに憧れて、彼に寄り添っていたのは私の方なんです」
シロ「そんな・・・だって、だってカエンタケは猛毒の・・・!」
ベニ「カエンタケが猛毒だと知られたのはほんの10年ほど前のこと。それ以前、彼は食毒不明のキノコでした」
シロ「ええ!?あいつが、食毒不明キノコ!?」
ベニ「江戸時代の本草図譜には毒キノコらしいと記されているだけで、きちんと証明されてはいませんでした。彼自身もわかっていなかったのです。それが1990年代に入り、中毒事故が頻繁に起こったため、人間達は彼を猛毒菌として警戒し始めたのです。本来であれば、彼の様な美しいキノコは観賞用として十分に愛され得たはず・・・それが毒キノコの烙印を押されてしまったのは、私という存在が食用として知られてしまったため。そして私が彼と共に生きようとしてしまったため。カエンタケは何も悪くは無いのです。この私こそが、彼を狂わせてしまった張本菌なのです・・・!」
シロ「・・・・・・・・」
ベニ「己を毒だと知り、人間を無残な死に至らしめてしまったと知ったカエンタケは、まるで菌が変わったかのように残酷な性格へ変じて行きました。私はどうすることもできずに・・・今年も多くの犠牲者を・・・・っ」
シロ「ベニナギナタタケ・・・・今からでもあいつと袂を分かったらどうなんだ?君らが一緒にいるから誤食が生まれるんだ。住むところを違えれば間違われることも・・・・」
ベニ「いいえ、いいえ、シロフクロタケさん。それは違います。人間は比べてみなければ理解しないもの。私とカエンタケが別の場所に生えていては、永遠に区別ができず被害が増すばかりでしょう。それならばいっそ、私はこの世の果てまでもカエンタケに添い遂げ、共に危険なキノコとして人の世に知られましょう」
シロ「そんな!そんなことをしたら、君は誰にも食べられないじゃないか!」
ベニ「構いません」
シロ「!」
ベニ「秋の山で、私を見つけて喜ぶ人の顔が好きだった・・・・。お吸い物の彩として季節を味わってもらうのが楽しかった・・・・。それでも、カエンタケの為なら、そんなことを犠牲にしても惜しくは無いと、私は思ってしまっている。きっとあの燃えるような紅に魅せられてしまったのでしょう。・・・初めて、出逢った時から」
シロ「ベニナギナタタケ・・・・・」
ベニ「私はスギヒラタケのように毒に転じるキノコにはなれない。もはや望みはただ一つ。食にも毒にもならず、今一度キノコの歴史に埋もれ、食毒不明の奇妙な焔として山に咲くことだけなのです」
シロ「・・・・・・・・」
ベニ「心配してくれてありがとう、シロフクロタケさん。そして・・・・あなたはドクツルタケさんを守ってあげて。私のように、カエンタケのようにならないで」
シロ「・・・・・・・・・・・っ!」
ベニ「さようなら・・・・あなた達の幸せを、祈っています」
シロ「!ベニナギナタタケ・・・・ベニナギナタタケーっ!!」

取りすがろうとしたシロフクロタケのその前で、ベニナギナタタケは淡いろうそくの炎のごとく、風に崩れ去っていったのであった。。。。


・・・・まあ、キノコなんで、またそのうち出てくるんですがね。
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