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2007年1月8日設置 サイト→http://warakosu.syarasoujyu.com/
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あるところに下山咲(しもやまさき)という場所がございまして・・・

そこでは人間達の生活の傍ら、小さなキノコ達が日々、生き生きと暮らしているのでございます。

・・・

・・・ですが、中にはそう小さくないキノコもおりまして。



菌曜連続ドラマ
キノコな僕ら
第二話「オニの目の涙」


「ドクツルタケなんか嫌い!さよならっ!」

そう言い捨てて、菌糸も千切れんばかり駆け出したシロフクロタケでしたが、急なこととてどこに行くというアテも無かったのです。
傘の向くまま走って走って、辿りついたのは湿っぽい土と草の広がる緑地公園でありました。

「シロフクロタケぇぇぇっ!」
「!?うわわわっ!?」

そこで彼女を呼びとめたのは、巨大なまん丸真っ白のキノコ。
ときに径50cmを超えるとも言われるホコリタケ科の奇塊、オニフスベでございます。

「オ、オニフスベっ!?び、びっくりした、急に生えてるから・・・!」

バレーボール大の白玉がある日突然住宅地に群生し、不審に思った人間が役所に通報することもあるとかないとか・・・
実際は無害なキノコでございます。幼菌は食用にもなるのでございます。
今この時シロフクロタケと出会ったオニフスベは、まるい顔をさらにまるく膨らませて、しくしく泣いておりました。

「シロフクロタケぇ・・・おいどんは、おいどんは・・・!」
「ど、どうしたんだオニフスベ。何かあったの?」
「おいどんは、ベニナギナタタケさんに振られたでごわす!」
「えっ!」

シロフクロタケは色々な気持ちを込めて「えっ!」を言いました。
オニフスベはその深いところには気づきません。あまりに大きくまるいからでしょう。

「おいどんは情けないでごわす!惚れたキノコ一本守れない、駄目なホコリタケ型でごわす!」
「そんな、落ち着いてオニフスベ、一体何があったの?」
「カエンタケでごわす!あいつが悪いんでごわす!あいつは猛毒菌のくせにベニナギナタさんの側に生えて、わざと誤食を誘発しているんでごわす!ベニナギナタさんはそれを苦にしてすっかり色も褪せなすって・・・じゃっどん、逃げることもできんと毎日泣き暮らしているんでごわす!あんな綺麗なキノコが可哀想で可哀想で、おいどんはベニナギナタさんを自由にしてあげたくて、おいと一緒に逃げようと言ったんでごわすが・・・ベニナギナタタケさんはそれはできないと。カエンタケと別れるのが怖いと言うんでごわす!カエンタケに脅されているに違いなかでごわす!」
「カエンタケ・・・っ!」

シロフクロタケの傘に色素がのぼりました。

「噂には聞いていたけど、あの猛毒菌め!かよわいキノコを脅すなんて!菌類の風下にも置けない、なんて酷い奴なんだ!」
「シロフクロタケ、人間はなんでカエンタケとベニナギナタタケの見分けがつかんでごわすか?なんで毎年毎年間違って食う奴が出るんでごわすか?ベニナギナタタケさんは昔っからシロソウメン科ナギナタタケ属のキノコでごわす。それに比べてカエンタケは、ついこの間までニクザキン科だったのが今はボタンダケ科でごわす。ツノタケ属がいつのまにかトリコデルマ属でごわす。得体のしれない奴でごわす!ナギナタタケとトリコデルマ、全然ちごっとに、人間はなんで見分けがつかんでごわすか!」

オニフスベは白いはんぺん状の体から黄色い涙を分泌し、憤懣やるかたなく慟哭いたしました。
このまま放っておきますと、いずれ褐色になって胞子を飛ばすようになるのです。
・・・が、今は今。
彼の前にいるシロフクロタケは、気の毒なキノコを放っておく事など決してできない菌でした。

「オニフスベ!私が行ってくるよ!」

彼女は柄をまっすぐ伸ばして傘を振るいあげました。

「行って、ベニナギナタタケと話をしてくる!カエンタケがどんなに猛毒っていったって、怖がる事なんかないんだ!」
「シロフクロタケ・・・!」
「彼女をきっと連れ出してくる!カエンタケのことなんて、さっぱり忘れさせてあげよう!」
「シロフクロタケ、恩に着るでごわす!カエンタケのことを忘れたら、ベニナギナタタケさんもきっとおいどんの事を・・・!」
「それは保証しない!じゃ、行ってくるよ。元気出してね、オニフスベ!」

シロフクロタケは嘘のつけないキノコなのでございました。

まこと、キノコの世界にも色々な性質があるものでございます・・・


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キノコドラマを10年待ってて下さった方々、ありがとうございます。
当時のキャラクターや心に残った台詞まで覚えてて下さって、書き手としてこんなに嬉しい事はないです。

私はここ数日キノコを検索しまくったせいでしょうか、ついに怪しい業者からアガリスク茸のDMが届くに至っております。
なんでキノコを調べただけでメールアドレスが把握されてしまうのか。そしてなぜキノコに興味があるなら熊の肝にも興味があるだろうみたいな扱いを受けなければならないのか。
私はキノコをそういう目でみてはいない。

ていうか私が調べてたのドクツルタケとカエンタケとその他もろもろの毒キノコばっかなんですけど、このラインナップから導き出された健康食品って大丈夫なのか本当に。

医学的に証明されないにも関わらず、歴史上キノコが薬になると信じられてきたのは、やはりキノコそのものが神秘的な存在だからなんでしょうね。







キノコドラマ第一話より。
シロと会えるのが嬉しいから早く来て、シロと喧嘩別れしたくないから遅刻されても怒らなかったが、別れるどころか自分たちがつきあってすらいなかった事を知り、硬い松葉に柄を貫かれるようなショックを受けるドクツルタケの図。
ちなみに、松の木の根元はドクツルタケが好んで発生する場所なんだそうです。

リメイクにあたり、色つきで絵を描いてみたんですけどね、私は思いましたよね、なんで主人公二菌をどっちも白いキノコにしてしまったのかなって。
華がねぇー!差し色がねぇー!!
なんかもっとありませんでしたかね10年前の私よ!

いやーでもねー難しいんですよ。ドクツルとシロだからこういう話になったわけで、これがシロじゃなくてニオイワチチタケ(匂輪乳茸)とかだったら方向性がだいぶ変わってくるじゃないですか。絶対巨乳じゃないですかこのキノコ。ドクツルが食われてしまう。違う意味で。

深夜ドラマ枠にもいけるなんて、キノコは万能ですね。
あるところに、下山咲(しもやまさき)という場所がございまして・・・

昔はマムシ森などと呼ばれた雑木生い茂る土地でございましたが、いつからか、幾度か、人間達が少しずつ崩しては均しまして、田を作り家を作り、そのうち小さい集合住宅なんぞも建てて、ささやかな町となったのでございます。

けれど今のそれのようによく考えられて作られた町ではありませんでしたから、人間の手入れをした以外のところは森や林がぽかりぽかりとそのまま残りまして、人間はそこにやっつけの木道などを取りつけて、自分たちの町の気の利いた自然公園のように考えたのでした。

これはそんな下山咲に住む人々のお話・・・

・・・ではなく。

人間よりももっと小さな小さな、ある生き物たちの物語でございます。






菌曜連続ドラマ
キノコな僕ら

第一話「白い関係」


「ドクツルタケ!おはよう!」

今、向こうから走って来た可愛らしい白いキノコは、シロフクロタケです。
ウラベニガサ科フクロタケ属、可食。
人間とは動作が違いますが、キノコも時によってはよく走るものなのでございます。

「おはよ。・・・つってももう遅いけど」

松の木の下で彼女を待っていたのはドクツルタケ。
テングタケ科テングタケ属。人が食べたら死ぬキノコでございます。

「急ぐぞ。お前、開園待ちしたいって言ったくせに、もう絶対に間に合わな・・・」
「待ってその前に!君に聞きたい事がある!」
「・・・何?」
「ドクツルタケ。君が、君が毒キノコだって本当なの!?」

・・・・・・

「・・・え?」
「答えて!」
「いや、そりゃ俺『ドク』ツルタケって言うぐらいだし」
「はぐらかさないで!」
「はぐら!?はぁ!?今更何言ってんだ、俺は毒だよ、当たり前だろ!?」

シロフクロタケは、傘の裏がほとんど褐色になるほどショックを受けたようでした。

「そんな・・・そうなんだ、やっぱり・・・やっぱり君は毒キノコなんだ・・・っ!」
「お前そんなことも知らなかったの?」
「知らなかったよ!だってドクツルタケ、自分のこと名前ぐらいしか教えてくれてないじゃないか!」
「名前教えれば十分だろ俺の場合。っていうか、今まで結構長い間一緒にいたし、いろんなところ二菌(ふたり)で行ったし、フンギーランドだって今日で何回目?ってくらいなのに、お前俺の事名前しか知らないみたいな・・・」
「知らないもの!でも、友茸だと思ってた!」

「友茸」とは、人でいうところの「友達」でございます。それ以上でも以下でもありません。

「・・・。俺は友茸のつもりなかったけど」
「!?ドクツルタケは私の事、友茸だと思ってなかったの?あんなに一緒に遊んだのに?ひどい!」
「・・・・・・・俺もひどいと思う。違う意味で」

シロフクロタケは大きな目をいっぱいに開いて白い傘を震わせています。
ドクツルタケはため息をつきました。

「お前、どこで俺が毒だって聞いたの?」
「聞いたんじゃないよ。昨日の朝、公園のとこで生えてたら人間が新聞を捨ててって、それに書いてた」
「・・・あんまそういうの拾うなよお前」
「ドクツルタケを食べて死んじゃう人間がいるって・・・内臓の細胞を破壊する致死率の極めて高い猛毒菌だって・・・内臓って何だか知らないけど、とにかく君は殺すんだ。しかも!君の見た目が私にそっくりだから人間は私と間違えて食べてしまうって!君も私も白いから!」
「乱暴だろ仕分けが。よく見ろよ。俺は首に膜状のツバがあるけどお前には無い。お前の柄は根元の方が太いけど俺は上から下まで同径。お前の傘の裏は成長するに従ってピンク色になるけど俺はずっと白いまま。だいぶ違うだろ」
「知らないよそんな細かいとこ!白くて大体同じ大きさだったら人間は全部同じに見えるんだ!知ってた?フグっていう魚はね、テトロドトキシンっていう猛毒を持ってて、1~2mgで人間の致死量なんだけど、でも部位や季節によって毒の含量にムラがあるから、実際フグをどれだけ食べたら死ぬのかなんてはっきりわからないんだって。でも、君は一本食べたらもう死ぬって!」
「お前俺のことは全然知らないのになんでフグのことはそんな詳しいの?・・・もしかしてランドよりシーの方が好きなのか・・・?」
「フンギーランドはもういいよ!」
「ひっで・・・」
「ドクツルタケ。毒キノコ、やめてよ」
「はぁ!?」

ドクツルタケが驚いたのも無理のないことでございました。

「やめてってお前」
「やめてよ毒なんか!カエンタケと同じになっちゃうよ!」
「ならねえよキノコが全然違うんだから」
「カエンタケのせいでベニナギナタタケがすっごい辛い思いしてるんだよ!知ってた!?」
「いや知らないし知ってたとしても俺いま自分の事で手一杯で他菌のこと考えてる余裕ない。お前のせいで」
「ドクツルタケっ、ねえっ」

シロフクロタケは激昂と興奮のあまりもうほとんど泣きそうでございます。

「君だって・・・君だってっ。本当は、毒なんて嫌なはずなんだ・・・っ」
「は?お前何言って・・・」
「だって君は外生菌根菌じゃないかっ・・・!君は本当は、自然に優しいキノコなんだっ」

外生菌根菌とは、生きた植物と栄養を分かち合って共生する菌のことでございます。
ちなみにシロフクロタケは腐生菌で、これは死体を食べてバラすタイプの菌なのでした。

「シロ・・・」
「どうしてっ・・・自然に優しいのに・・・人間には全然優しくないんだっ」
「・・・・・・・」
「ドクツルタケっ」
「・・・あのさ、シロ」

ドクツルタケはまた深々とため息をつきました。

「もし俺が毒をやめたら、お前はどうなるわけ?」
「?どうなるって?うれしくなる」
「そうじゃなくて。人間はお前と間違えて俺を食うんだろ?見分けつかないんだろ?っていうことは、逆に考えれば、俺がいるからお前が乱獲されないで済んでるってことじゃないのか」
「!」
「お前は食キノコだから人間を喜ばすの好きかもしれないけどさ、人間の中には見境なく菌糸ごとむしりとっていくような野蛮な奴らもいるんだぞ。俺がいなかったらどうやってお前、自分を守るんだよ」
「!!」
「少し考えろよ。色々さ」
「・・・そんな・・・じゃあ、ドクツルタケが毒なのは、私がいるから・・・?」
「いや違うと思うけど。生まれつきだけど。けど、お前の役に立つなら俺はそれでいいし。だから俺はお前のそばにい・・・」
「じゃあ!じゃあやっぱり、私はドクツルタケと一緒にいちゃ駄目なんだ!」
「!?はあ!?」
「私のせいでドクツルタケが毒になるなら、もう一緒にいれない!」
「それは違うっつったろ!聞いてた!?俺の話!」
「聞いてたよ!ドクツルタケは、私のこと友茸だと思ってなかった!」
「それは・・・言ったけど、お前もそこだけ聞いてたみたいだけど、でもお前わかってない!全然わかってない!」
「もういい!私は友茸だと思ってたけど、そんな風に思ってたなんて、もう知らない!ドクツルタケなんか嫌い!さよならっ!」
「ちょ・・・シロ!シロっ!!」

こうしてシロフクロタケはキノコのように走り去り、後には乱れた松葉の上、白々とただ一本きり、ドクツルタケが取り残されたのでございました。

まこと、キノコの世界にも色々なことがあるのでございます。・・・

キノコドラマリメイク版、後ほど第一話アップします。
文は書けたんだけどね。絵がね。

10年前は妄想語りから発展してったのでキャラが初回とクライマックスで大分性格変わっていたのと、今回はまともなナレーション(?)をつけてみたのもあり、台詞を大分変えました。それに従って性格も若干初回比べでは変わっています。シロは最初からアホの子になりました

あと、10年のうちにキノコの研究も進みまして、特にスギヒラタケの解釈がまったく変わってきています。さらに、DNA解析が進んでいる為、キノコに限らず植物の分類は大幅に変わったところがあるので、これらもできるだけ最新の情報を反映できたらなと思っています。
単に10年前に私が勘違いしていただけの記述もあったし

とはいえ、あくまで娯楽作品ですので、キノコの目線に寄り過ぎた表現や、キノコでそれは絶対ありえないだろという表現も随所にあります。
すべからく御笑覧いただければと思います。


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