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2007年1月8日設置 サイト→http://warakosu.syarasoujyu.com/
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ドク「・・・・・・静かになったな」
シロ「みんな帰っちゃったからね」
ドク「お前はいいの?」
シロ「もう少しここにいる」
ドク「そう・・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・・

シロ「・・・・。寝ていいよ?」
ドク「・・・お前がいると寝らんない」
シロ「そうか。帰った方がいいかな」
ドク「・・・・・もう少しここにいろ」
シロ「うん。・・・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・・

シロ「・・・・ドクツルタケ」
ドク「ん?」
シロ「ごめんなさい」
ドク「いい。お前がケガするよりマシ。お前の場合、一発で致命傷食らいそうで怖い」
シロ「・・・それもだけど。ドクツルタケに毒やめろって言ったこと、本当にごめん」
ドク「・・・・そっちか。それももういい。もう謝ってもらったし」
シロ「え?いつ?誰に?」
ドク「昨日。お前に」
シロ「うそ!?」
ドク「・・・・なんで嘘つかなきゃなんねぇんだよ。昨日お前わんわん泣きながら謝ってきたくせに、覚えてねえの?」
シロ「・・・・・全然覚えて無い」
ドク「俺が言ったことも忘れたわけ?」
シロ「ど、ドクツルタケに怒られたのは覚えてるよ!・・・なんとなく」
ドク「・・・・。怒られたことだけ?」
シロ「・・・・・他に何か言った・・・?」
ドク「・・・・・・・もういい」
シロ「・・・・・ごめん」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ドク「・・・・・どういう意味だ?」
シロ「?え?」
ドク「今の『ごめん』ってどういう意味だよ」
シロ「えっ。どういう、って、覚えてなくてごめん。の意味」
ドク「だよな。・・・・・・・・・焦った」
シロ「???」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

シロ「あのさ」
ドク「うん」
シロ「私、もう少し頑張ってみる。裏っ側だけじゃなくて、傘の表もちょっとなら色変えられるかもしれないし。条線とか入れられるかもしれないし。そうしたら人間も誤食しなくなるだろう?」
ドク「・・・・・。思うんだけどさ」
シロ「うん?」
ドク「俺の方が背が高いし。俺にはツバついてるし。俺の方がツボもちゃんとしてる。だろ?」
シロ「うん」
ドク「だったら・・・」
シロ「ドクツルタケはテングタケ科の一族なんだもんね。キノコらしいキノコだよね」
ドク「・・・・。誰から聞いた」
シロ「えっ?」
ドク「俺の家の話。誰から聞いた」
シロ「ええと・・・・スギヒラタケから」
ドク「・・・・・・」
シロ「ごめん。テングタケ科だって知らなくて、毒やめろなんて言って・・・・ドクツルタケは、毒キノコの名門のキノコなんだもん、そんなこと言われたって困るよね」
ドク「だからそれはもういいって!家は関係ねえだろ、しらねえよテングタケなんて!」
シロ「ご、ごめ・・・・!」
ドク「ああもう、そうじゃなくて!俺が言いたいのは!俺の方がスタイルも頭も良くてお前の方が全般的にマヌケなんだから、そこまで違ったらもうそれは別のキノコだろってことなんだよ。わかったか!」
シロ「・・・・マヌケ・・・・」
ドク「俺もお前も変わる必要なんてねえだろ!これ以上変わったらますます足首太くなるぞお前!」
シロ「!」
ドク「ったく・・・・」
シロ「・・・・・・・」
ドク「おい」
シロ「・・・・・・・」
ドク「シロ」
シロ「・・・・・・・足首太くて悪かったな」
ドク「・・・・・・・・。悪い。言いすぎた」
シロ「・・・・別にいい。本当に太いし。どうせ」
ドク「拗ねるなよ。おい。おいって。足首なんかどうだっていいだろ」
シロ「・・・・よくない」
ドク「いいって。俺は気にしてないし・・・」
シロ「私は気にしてる!ドクツルタケは関係ない!」
ドク「・・・・・ああそう?俺関係ねえ?・・・・あっそ」

・・・・・・・・・・・・・・・・

ドク「・・・・・・・シロ」
シロ「・・・・・ん」
ドク「スギヒラタケ、どうした?」
シロ「・・・カエンタケが逃がしてくれた」
ドク「そっか。・・・・お前、もしかしてどこかであいつ見たらさ」
シロ「うん」
ドク「俺は怒って無いって言ってやってくれるか。あと、警察沙汰にするのはごめんだからって」
シロ「うん、わかった。・・・・ふふ」
ドク「・・・なんだよ」
シロ「ドクツルタケやさしーい」
ドク「あのな・・・・・警察沙汰は本気でやばいんだよ。家に連れ戻されかねないだろ」
シロ「家に帰るのそんなに嫌なのか?」
ドク「嫌だから言ってんだ」
シロ「そっか。・・・・スギヒラタケさ、きっと今頃、どうしていいかわからなくなってると思う」
ドク「・・・・・・・・」
シロ「彼女、私のこと嫌いだって言ってたけど、ドクツルタケのことは好きだって。ドクツルタケから言ってあげなよ。私探して来るよ、スギヒラタケ」
ドク「や・め・ろ。絶対やめろ」
シロ「?なんで?」
ドク「お前に任せるとロクなことが無い。俺が入院してる間は一人で突っ走るようなことするな。頼むから」
シロ「・・・・・・はい」
ドク「約束だからな」
シロ「うん。約束する。・・・・ねえ、ドクツルタケはスギヒラタケのこと好き?」
ドク「・・・・・は?」
シロ「好きかな」
ドク「なんで」
シロ「好きだったらいいと思って」
ドク「・・・・・なんで」
シロ「スギヒラタケ、皆に自分が嫌われてると思ってた。ドクツルタケに好かれてるって知ったら、きっと嬉しいよ。ね?」
ドク「・・・・・・・・・・・・・」
シロ「すぐじゃなくてもいいけどさ」
ドク「・・・・・・・・・・・・・・・・・お前それ本気で言ってる?」
シロ「うん。・・・そりゃ、ドクツルタケを怪我させたのはスギヒラタケだから、ドクツルタケにしてみればすぐに許せないのはあるかもしれないけど、でも怒ってないんだろ?それなら・・・・」
ドク「そうじゃなくて。俺、好きな奴別にいんだけど」
シロ「たくさんいたっていいだろ」
ドク「・・・・・・・・・」
シロ「ね?」
ドク「・・・・・・もうお前わけわかんねぇ・・・・」
シロ「???」
ドク「・・・・寝るわ。俺。頭痛くなってきた」
シロ「大丈夫?」
ドク「お前にだけは言われたくない。おやすみ」
シロ「?・・・・うん、おやすみ」
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『どうしたお嬢さん。泣きそうな面してるぜ、美菌が台無しだ』
『!あの』
『うん?』
『実は、鼻緒が切れてしまって・・・もし何かお手持ちの物があれば』
『ああ、歩けねえのか。見せてみな。ついでやる』
『申し訳ありません』
『いいってことよ。肩つかまってな』
『は、はい。失礼いたします。・・・・・・・・・・・・・・・・・』
『・・・・・・・・・・・・・。そら、これでいいだろう』
『ありがとうございます。お急ぎのところお手間をとらせまして申し訳ありませんでした』
『別に急ぎの用があるわけじゃねえ。あんた見かけない色だな。この辺のもんかい』
『いいえ、その・・・昨日、山から風に運ばれて参りました』
『迷子じゃねえか。アテはあるのか?・・・無さそうだな』
『・・・・・・・・・・』
『来な。こんなところで生えてたら人間に踏み倒される。俺が面倒見てやれるわけじゃあねぇが、宿くらいは見つけてやるさ』
『あ、ありがとうございます。・・・・あの、私はベニナギナタタケと申します』
『ベニナギナタか。いい名だな。あんたに似合ってる』
『よろしければあなた様のお名前もお聞かせくださいませんか』
『あなた様はよせ。俺ぁカエンタケだ』
『カエンタケ様』
『カエンタケ』
『?カエンタケ、様』
『様をよせっつってんだ。カエンタケでいい』
『カエンタケ・・・・さん』
『・・・・。まあ、そのうち慣れてくれりゃあいいさ。よろしく頼むぜ、ベニナギナタ』
『は、はい。こちらこそよろしくお願いいたします』



カエ「・・・・・あれから随分経ったもんだな」
ベニ「・・・はい」
カエ「なんだかんだで俺と一緒に住むことになっちまったが、よくまあ今日まで堪えてきたもんだ」
ベニ「堪えるだなんて、そんな」
カエ「あのあばら家はそんなに居心地がいいかい」
ベニ「・・・はい。私にとっては、とても」
カエ「そうかい。・・・・・・・・」
ベニ「・・・・・・・・・。今、カラカサタケさんがお留守番をしてくださっているのです」
カエ「カラカサタケ?あいつが来てるのか」
ベニ「はい」
カエ「よく置いてこれたな、お前ぇ」
ベニ「雨が降ってまいりましたから傘を・・・・」
カエ「傘なんざ」
ベニ「それと。私はカエンタケに、話したいことが、あるのです」
カエ「・・・・・・聞こう」
ベニ「はい。・・・・・・・・」
カエ「・・・・・・・・・」
ベニ「・・・・・・カラカサタケさんが仰っていました。カエンタケは昔からずっと変わらないと。面倒見がよくて頼りになって、そういう良いところは何も変わらないと」
カエ「・・・・・・・・・」
ベニ「わ、私もそう思いました。ドクツルタケさんが怪我をされたと聞いたとき、色を変えて飛び出して行ったあなたを見てそう思いました。気づいたのです。あなたは、私が初めて逢った時からずっと、何も変わっていなかったのだと・・・・・ただ私が、人間の動揺に惑わされ、勝手にあなたを見損なってしまっていただけなのだと・・・・」
カエ「・・・・街の人間はキノコにゃ不慣れだ。毒が一本ありゃ大騒ぎする。別にお前ぇのせいでもないだろうさ」
ベニ「いいえ、いいえ、私が至らなかったのです。私はあなたのために悩むようなフリをして・・・・その実、私のそんな振る舞いこそがずっとあなたを苦しめていたのです。そのことが今ようやくわかりました。・・・・本当に、私は馬鹿なキノコ・・・・」
カエ「泣くな。お前ぇを悪いと思ったことは一度もねえよ」
ベニ「・・・・カエンタケ・・・・」
カエ「むしろ感謝してるくれえさ。そうまで悩みながらよく俺と居てくれた。馬鹿というよりゃ酔狂なキノコだお前ぇは」
ベニ「・・・・・・・・・」
カエ「・・・・・・・・・」
ベニ「・・・・・ふふ」
カエ「・・・・ん?」
ベニ「やっぱり、あなたは優しいのですね、カエンタケ」
カエ「どうだかな」
ベニ「そうですよ。あなたは優しいキノコです」
カエ「そうかい」
ベニ「そうです。だから・・・・・だから私、その優しさに甘えているようではいけないと」
カエ「・・・・・・・・・」
ベニ「いつまでもあなたの温もりの上に菌糸を張るような真似をしていてはいけないと・・・・そう思いました」
カエ「・・・・そうか」
ベニ「はい。私は、心を決めました。・・・・・カエンタケ」
カエ「ああ」
ベニ「長い間、お世話になりました。私は山へ帰ります」


カエ「・・・・・決めたのか」
ベニ「はい」
カエ「そうだな。いい面になった、お前ぇ」
ベニ「・・・・・はい」
カエ「山じゃさぞかし綺麗に咲くだろう。どんな花もかなわねえぐらいに咲くさ。一時でも街で暮らした女はいい艶が出るもんだ」
ベニ「・・・・・・・・はい」
カエ「泣くなよ。手前ぇで決めといて手前ぇで泣いてりゃ世話ねえぞ」
ベニ「・・・・・はい・・・っ・・・・」
カエ「・・・・・・・・・・・・」
ベニ「・・・・・・・・・・・・」
カエ「・・・・・・ベニナギナタよ」
ベニ「・・・・はい」
カエ「もう少しこのまま歩かねえかい」
ベニ「・・・・・・・!」
カエ「明日になりゃ身支度だなんだで忙しくなるだろう。このまま日のあるうちに昔語りも悪くねえ。・・・・カラカサの奴ぁほっといてもいいさ」
ベニ「い、いいのでしょうか」
カエ「いいさ。お前ぇは歩きたくねえかい」
ベニ「あ、歩きたいです!」
カエ「だろう。決まりだ。来な。・・・・鼻緒が切れたらついでやる」
ベニ「!はい・・・!」



・・・・・主役カップルより気になる脇役カップルがドラマには必ずいる。こいつらがまさにそれだ。
上の絵はカエンタケがベニナギナタの方に傘を差しかけているんだが傘描くとベニが見えなくなるので適当にきりました。そして右上に傘のてっぺんのとこを描いて傘の存在を出そうとしたんですが、和傘のてっぺんのところってそれだけ描いたらどうしても、どうあがいても乳首に見えてな。本当にそのまんま乳首にしか見えなくてな。そうするともう傘っていうか乳なわけよ。
それで結局、カエンタケが変な棒持ってるみたいになりました。合掌。
           
■ベニ
恋しい男の物ならば傘すら愛しい。
料理も掃除も洗濯も、カエンタケが喜ぶと思えばそれだけで楽しみ。
我侭を言わずただ静かに家で待ち、雨が降ればそっと傘を抱いて迎えに参ります。
・・・という女性像は男も女も一度は憧れてみる夢だが。
幸せになりやすいのはシロの方だろう。



銀爺「・・・・最後にお前さんがここに来たのはいつだったかねえ、カエンタケ」
カエ「さあな」
銀爺「ベニナギナタタケだったか。綺麗なキノコを背負ってきたのを覚えとるよ。あの子は元気かね」
カエ「・・・ああ」
銀爺「ということは今もこっちにおるのじゃな。一緒に住んどるのか?ん?所帯でも持ったか」
カエ「馬鹿なこと言うんじゃねえ。あれぁ山のキノコだ。近いうち山に帰す。おい爺さん、やたら染みるぜこの薬」
銀爺「お前さんには染みるくらいで丁度いい。懲りたらケンカをせんことじゃ」
カエ「ケンカじゃねえ。俺ぁここしばらくゴタゴタにゃあ傘つっこまねえことにしてるさ。・・・・今度のは外から面倒が飛び込んできたんだ」
銀爺「前とは毛色の違う面倒のように見えるがの。お前さんにあんなに友茸がいたとは驚いた」
カエ「別に友茸ってわけじゃあねえ」
銀爺「良い良い、友茸にしておけ。ああいう連中と付き合ってるうちはお前さんも無茶せんだろう」
カエ「・・・むこうが無茶しやがるからな」
銀爺「ベニナギナタタケを連れて来た時からお前さんは少し変わった。守るものがおるとキノコは変わるもんじゃ。歳のせいもあるかもしれんが」
カエ「まだそんな歳じゃねえよ俺ぁ。それに昔からそう変わったわけでもねえ。やたらとケンカばかりしてたように言われんのは心外だぜ銀爺よ」
銀爺「しかし怪我する回数は減ったな」
カエ「減ったも何も俺が手前ぇからケガなんぞでここ来たこたぁねえはずだ」
銀爺「怪我菌つれてくる回数も減った」
カエ「そういう場所を出歩かなくなっただけだ。ベニナギナタ連れて菌楽街を歩けるわけぁねえだろう」
銀爺「フッフッ、やはり変わったじゃないか」
カエ「何とでも言え」
銀爺「どうしてあの子を嫁にせんのだ?似合いの夫婦じゃないか」
カエ「ロクに見てねえのに何でわかる」
銀爺「窓の外に来とるよ。お前さんの後ろの」
カエ「!?」
銀爺「雨が降ったから迎えに来たんじゃろう。良い子だの。それに随分綺麗になった」
カエ「・・・・耄碌したかい。あいつぁここに来たときが一番綺麗だった。山じゃもっと綺麗に咲くだろうよ。俺ぁもう行くぜ。・・・・ほっときゃまた随分大袈裟にしてくれたもんだな。なんだこの包帯」
銀爺「外すなよ。2、3日はそうしとけ。でないと今度はもっと染みる薬を用意せにゃならん。その時になって泣いても遅いぞ」
カエ「・・・敵わんねえ。爺さんにかかっちゃ俺も幼菌扱いか。まあ礼は言っとくさ。それじゃあな銀爺」
銀爺「フッフッ」


ベニ「カエンタケ・・・・傘を持ちました」
カエ「・・・悪ぃな。この程度の雨なら濡れてもどうってこたぁねえ。次から気に・・・・・いや、いい」
ベニ「・・・・・・。あの、ドクツルタケさんは」
カエ「ん?ああ、野郎なら寝てる。シロフクロタケがついてるから今行っても邪魔になるさ。あいつらはしばらく二本でそっとしてやった方がいいんだ、でなきゃドクツルタケが気の毒だ」
ベニ「?」
カエ「行くか」

ツマ「ちょっとぉぉぉぉぉぅ!!!」

カエ「!今度は何だ・・・・」
ツマ「途中まで行ったら雨降ってきちゃったのよーぅっ!このままじゃグレバが落ちちゃうでしょーぅ!?傘借りようと思って戻って来たんだけど病院に置き傘無いって言うのよーぅ。アンタたち、ちょっと店まで入れてってくんない?」
カエ「図々しい野郎だな。お前ぇのグレバなんざ知ったこっちゃねえよ。そのひでぇ臭いがなくなるだけマシじゃねえのかい」
ツマ「ひっどーぃ!ひっどいわぁカエンタケちゃん!うちのお店が繁盛してる理由わかってないわよーぅっ!この臭いが虫ちゃん達を惹き付けるのーっ!これがアタシの魅力なのよーぅッ!」
カエ「うるせえうるせえ、俺ぁテメエと歩くのだけぁごめんだ。ほらよ、傘一本やるから失せろい」
ツマ「あらッ?いいのッ?アンタたちどうする気ッ?あ、でも愛アイ傘してけば平気ねッ?そういうコトねッ?」
カエ「おい。へし折られてえのか」
ツマ「こっわぁーい!冗談じゃないのよーぅ!じゃあゴメンナサイねぇ、借りてくわねーぇ?ああもう早くしないとお店始まっちゃうわよーぅ!」

・・・・・・・・・・・

カエ「・・・・・・・さて、と」
ベニ「!あ、あの、わたくし、傘をもう一本借りて参りま・・・」
カエ「今ツマミタケが言ってただろう。ここにゃねえよ」
ベニ「あ・・・・・」
カエ「俺と一つ傘が嫌かい」
ベニ「!そ、そんなことは・・・」
カエ「なら行くぜ。貸しな。傘ぁ俺が持つ」
ベニ「でも・・・その怪我」
カエ「すり傷に闇雲に包帯巻かれただけだ。いいから貸しな」
ベニ「あ・・・」
カエ「行くぜ」
ベニ「・・・・・はい」
ツマ「んもーぅ、あの爺ぃ大した事ないなんて言ってーぇ・・・2、3日入院なんて十分大したことじゃないのぉ、ねーぇ?」
シロ「うん・・・・でも手術したんだから、やっぱりそのくらいは病院にいないといけないんだよきっと。ドクツルタケ、痛い?大丈夫?」
ドク「・・・・・別に。体は平気・・・・だけど」
シロ「けど?けどどこか具合わるいのか?」
ドク「・・・・・・・・・・・・心が・・・・・」
シロ「え?」
ドク「・・・・・・・・なんでもない。眠い」
シロ「そっか・・・うん、ゆっくり眠って。そばにいていい?」
ドク「・・・・・・・ああ」
シロ「じゃあここにいるね」
カエ「・・・さて、と。俺ぁ帰るぜ。ツマミタケも、お前ぇは店があんじゃねえのかい」
ツマ「あ、そうね、そうだったわーぁ!お料理の仕込みしなきゃぁ!じゃ、アタシ帰るから、シロちゃん、ドクツルちゃんのことヨロシク頼むわね!ゆっくりしてってあげなさいね!」
シロ「うん。ありがとう、ママ。カエンタケも、本当にありがとう」
カエ「もう面倒起こすんじゃねえぞ。じゃあな・・・・・」
シロ「!カエンタケ!?」
カエ「あ?」
シロ「手!怪我してるじゃないか!」
カエ「ケガ?ああこいつぁ、スギヒラタケから得物取り上げたときにちっと刺しちまっただけ・・・・」
シロ「ちょっとじゃないよ!汁が滲んでるじゃないか!ちゃんと手当てしなきゃ。銀先生のとこ行こう」
カエ「よせ。こんなもんケガのうちに入りゃしねえよ。俺ぁ帰・・・・」
シロ「だめっ!ケガなんかして帰ったらベニナギナタタケが心配する!早く先生のとこ行こう!早く!」
カエ「・・・お前ぇドクツルタケについてるって言ったろう。俺を引っ張ってる場合じゃねえはずだ」
シロ「ドクツルタケのそばにいるのは後でもできる!」
ドク「・・・・・あとでも、って・・・・・」
シロ「とにかく銀先生に手当てしてもらおう。ね!」
銀爺「呼んだかの。いつまでもうるさくしとると病室から叩き出すぞ」
シロ「銀先生!先生、あのね、カエンタケが怪我してるんだ!」
カエ「してねえ・・・・」
シロ「してる!ほら、手!見て先生」
銀爺「んん?・・・カエンタケ、お前はまた何かやらかしたのか。こんなケンカ傷作って」
カエ「これぁ成り行きだ。ケンカってわけでもねえ」
シロ「先生、手当てしてあげて?痛そうだよ」
銀爺「痛そうだと。お前も心配されるようなキノコになったわけだの、カエンタケ」
カエ「・・・・・銀爺、場所移すぜ。ここで昔話はごめんだ」
銀爺「フッフッ、まあ消毒ぐらいはしてやろう。今日は雨のせいか迷惑な患者は一人で暇なようじゃ。シロフクロタケのお嬢ちゃん、そばに居てやってもいいが、静かにしてドクツルタケは寝かせといてやるんじゃぞ」
シロ「うん。静かにしてる」
ドク「・・・・・・・・無理だろ・・・・」
シロ「無理じゃない」
ドク「・・・・・・・。こういうのだけ聞こえるんだな・・・・」
ツマ「お大事にね、ドクツルちゃん。・・・・頑張るのよ!」
ドク「・・・・・・俺は頑張ってるけどな」
シロ「何か言った?」
ドク「・・・・・・別に」

              

■あの茸は今
カエンとベニの別れ話もスギの事件も何も知らない平和なカラカサ。
シロちゃんは家に帰れたかしら、心配だからカエンタケに聞きに行ってみようかな、そうだせっかくだからベニちゃんにお土産でも買っていこうそうしよう。
何の憂いも無い晴れやかな笑顔で買い物をする彼の頭には、
「女の子→甘いもの→ショートケーキ
というエリンギを割ったようなまっすぐな構図しか無かった。
・・・吉野家と女は同じ世界に存在しないと思っている夢見る男の一人である。



・・・・・

ベニ「・・・そうですか。ドクツルタケさん・・・良かった!」
カラ「こんにちはあ」
ベニ「あ、どなたかいらっしゃったみたい・・・はい、お大事にとお伝え下さい。失礼いたします・・・」

チン。

カラ「カエンタケえ、いるかい?シロちゃんあのあと無事に・・・・あ。」
ベニ「こんにちは。カラカサタケさんでしたか」
カラ「!ベニちゃんごめ・・・!電話中だった!?よね!?」
ベニ「い、いいえ、いいえ。もう終わるところでした。カエンタケからでしたから大丈夫ですよ」
カラ「あれ?カエンタケ留守?どこに行ったの?」
ベニ「今はまだ病院に」
カラ「病院!?」
ベニ「はい・・・」
カラ「な、何があったんだベニちゃん!!カエンタケは昨日はあんなに元気で!!」
ベニ「え?あ、あの、カエンタケは別になんともな・・・・」
カラ「カエンタケはなんともない・・・?じゃあ・・・・シロちゃん!?シロちゃんに何かあったんだねっ!!?」
ベニ「!」
カラ「もしかしてお酒のせいで具合悪くしたんじゃないかい!?俺思ったんだよ昨日、いくらなんでも飲みすぎだって!カエンタケが病院に連れてくなんてそんなよっぽどひどいんじゃないか!?ひどいのかい!?」
ベニ「お、落ち着いて下さい、カラカサタケさん・・・!」
カラ「ベニちゃん話してくれ!一体、俺の知らない間に何があったのか!」
ベニ「は、話します、話しますから落ち着いて・・・・!おねが・・・・!」



ベニ「・・・・・ということがあったのです」
カラ「スギヒラタケにドクツルくんが・・・・なんてことだ・・・」
ベニ「この家に運ばれてきた時には意識がありませんでしたが、ここから病院に運ばれて手術をされて、一命は取り留められたそうです。傷も思ったほど深くなく、菌床をあたたかくして少し湿らせておけばまたお元気に生えられるでしょうとのこと。本当に、不幸中の幸いでございました。ほんとうによかった・・・!」
カラ「そうだね、大事にならなくてほんっっとうに良かったね!シロちゃんもほっとしてるだろうな。いや、心配してるのかな?両方か!とにかくもう大変だったねベニちゃんも!」
ベニ「私は何もできませんでした。カエンタケが・・・カエンタケがいなければどうなっていたことか。ドクツルタケさんを運んだのも、傷口の液止めも、救急茸を呼ばせたのも、全てカエンタケなのです。彼がみんなしてくれたのです。私はただ見ているだけで・・・怖くて動くことすらできずに・・・・」
カラ「普通はそうだよ。カエンタケが怖いもの知らずなんだよ。あいつは昔っから頼りになるキノコだし、かっこつけてるけど何だかんだでキノコの面倒見るの嫌いじゃないし」
ベニ「ええ、ええ」
カラ「俺だってショウジョウバエから助けてもらったし、ベニちゃんだって山から出てきたとこ拾われたし。そういうとこまったく変わってないんだな。きっと変わらないもんなんだろうね、キノコの良いところって」
ベニ「ええ・・・・」
カラ「ああいう奴だからちょっとわかりづらいところもあるけどね。あはは。でもいい奴だよ本当に」
ベニ「・・・・・・・」
カラ「まだ病院かあ。ケーキ3つ買ってきたんだけどどうしよう。あいつ遅くなるって言ってた?ベニちゃん」
ベニ「!あ、いいえ、もうすぐ帰るからと」
カラ「じゃあ待ってようかな。いい?俺ここ居て」
ベニ「もちろんです。すぐにお茶をおいれしますから、どうぞお楽になさってください」

ぽつ。

カラ「ん?」

ぽつ。ぽつ。

カラ「雨だ」
ベニ「!・・・雨・・・・」
カラ「梅雨に入ったからね。よく降るなあ」
ベニ「・・・・・・わたくし」
カラ「ん?」
ベニ「私・・・カエンタケに傘を持っていかなければ」
カラ「あ!俺行ってこようか?」
ベニ「いいえ、いいえ、カラカサタケさんはここに居てください。私が参ります」
カラ「そう?」
ベニ「はい」
カラ「・・・そっか。じゃあひどくならないうちに行ってきたほうがいい。お茶は俺、自分でいれられるからさ」
ベニ「・・・申し訳ありません」
カラ「いいんだよ、そんなの。気をつけて行って来て。カエンタケをよろしく」
ベニ「はい。行ってまいります」

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