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2007年1月8日設置 サイト→http://warakosu.syarasoujyu.com/
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■ベニ
恋しい男の物ならば傘すら愛しい。
料理も掃除も洗濯も、カエンタケが喜ぶと思えばそれだけで楽しみ。
我侭を言わずただ静かに家で待ち、雨が降ればそっと傘を抱いて迎えに参ります。
・・・という女性像は男も女も一度は憧れてみる夢だが。
幸せになりやすいのはシロの方だろう。



銀爺「・・・・最後にお前さんがここに来たのはいつだったかねえ、カエンタケ」
カエ「さあな」
銀爺「ベニナギナタタケだったか。綺麗なキノコを背負ってきたのを覚えとるよ。あの子は元気かね」
カエ「・・・ああ」
銀爺「ということは今もこっちにおるのじゃな。一緒に住んどるのか?ん?所帯でも持ったか」
カエ「馬鹿なこと言うんじゃねえ。あれぁ山のキノコだ。近いうち山に帰す。おい爺さん、やたら染みるぜこの薬」
銀爺「お前さんには染みるくらいで丁度いい。懲りたらケンカをせんことじゃ」
カエ「ケンカじゃねえ。俺ぁここしばらくゴタゴタにゃあ傘つっこまねえことにしてるさ。・・・・今度のは外から面倒が飛び込んできたんだ」
銀爺「前とは毛色の違う面倒のように見えるがの。お前さんにあんなに友茸がいたとは驚いた」
カエ「別に友茸ってわけじゃあねえ」
銀爺「良い良い、友茸にしておけ。ああいう連中と付き合ってるうちはお前さんも無茶せんだろう」
カエ「・・・むこうが無茶しやがるからな」
銀爺「ベニナギナタタケを連れて来た時からお前さんは少し変わった。守るものがおるとキノコは変わるもんじゃ。歳のせいもあるかもしれんが」
カエ「まだそんな歳じゃねえよ俺ぁ。それに昔からそう変わったわけでもねえ。やたらとケンカばかりしてたように言われんのは心外だぜ銀爺よ」
銀爺「しかし怪我する回数は減ったな」
カエ「減ったも何も俺が手前ぇからケガなんぞでここ来たこたぁねえはずだ」
銀爺「怪我菌つれてくる回数も減った」
カエ「そういう場所を出歩かなくなっただけだ。ベニナギナタ連れて菌楽街を歩けるわけぁねえだろう」
銀爺「フッフッ、やはり変わったじゃないか」
カエ「何とでも言え」
銀爺「どうしてあの子を嫁にせんのだ?似合いの夫婦じゃないか」
カエ「ロクに見てねえのに何でわかる」
銀爺「窓の外に来とるよ。お前さんの後ろの」
カエ「!?」
銀爺「雨が降ったから迎えに来たんじゃろう。良い子だの。それに随分綺麗になった」
カエ「・・・・耄碌したかい。あいつぁここに来たときが一番綺麗だった。山じゃもっと綺麗に咲くだろうよ。俺ぁもう行くぜ。・・・・ほっときゃまた随分大袈裟にしてくれたもんだな。なんだこの包帯」
銀爺「外すなよ。2、3日はそうしとけ。でないと今度はもっと染みる薬を用意せにゃならん。その時になって泣いても遅いぞ」
カエ「・・・敵わんねえ。爺さんにかかっちゃ俺も幼菌扱いか。まあ礼は言っとくさ。それじゃあな銀爺」
銀爺「フッフッ」


ベニ「カエンタケ・・・・傘を持ちました」
カエ「・・・悪ぃな。この程度の雨なら濡れてもどうってこたぁねえ。次から気に・・・・・いや、いい」
ベニ「・・・・・・。あの、ドクツルタケさんは」
カエ「ん?ああ、野郎なら寝てる。シロフクロタケがついてるから今行っても邪魔になるさ。あいつらはしばらく二本でそっとしてやった方がいいんだ、でなきゃドクツルタケが気の毒だ」
ベニ「?」
カエ「行くか」

ツマ「ちょっとぉぉぉぉぉぅ!!!」

カエ「!今度は何だ・・・・」
ツマ「途中まで行ったら雨降ってきちゃったのよーぅっ!このままじゃグレバが落ちちゃうでしょーぅ!?傘借りようと思って戻って来たんだけど病院に置き傘無いって言うのよーぅ。アンタたち、ちょっと店まで入れてってくんない?」
カエ「図々しい野郎だな。お前ぇのグレバなんざ知ったこっちゃねえよ。そのひでぇ臭いがなくなるだけマシじゃねえのかい」
ツマ「ひっどーぃ!ひっどいわぁカエンタケちゃん!うちのお店が繁盛してる理由わかってないわよーぅっ!この臭いが虫ちゃん達を惹き付けるのーっ!これがアタシの魅力なのよーぅッ!」
カエ「うるせえうるせえ、俺ぁテメエと歩くのだけぁごめんだ。ほらよ、傘一本やるから失せろい」
ツマ「あらッ?いいのッ?アンタたちどうする気ッ?あ、でも愛アイ傘してけば平気ねッ?そういうコトねッ?」
カエ「おい。へし折られてえのか」
ツマ「こっわぁーい!冗談じゃないのよーぅ!じゃあゴメンナサイねぇ、借りてくわねーぇ?ああもう早くしないとお店始まっちゃうわよーぅ!」

・・・・・・・・・・・

カエ「・・・・・・・さて、と」
ベニ「!あ、あの、わたくし、傘をもう一本借りて参りま・・・」
カエ「今ツマミタケが言ってただろう。ここにゃねえよ」
ベニ「あ・・・・・」
カエ「俺と一つ傘が嫌かい」
ベニ「!そ、そんなことは・・・」
カエ「なら行くぜ。貸しな。傘ぁ俺が持つ」
ベニ「でも・・・その怪我」
カエ「すり傷に闇雲に包帯巻かれただけだ。いいから貸しな」
ベニ「あ・・・」
カエ「行くぜ」
ベニ「・・・・・はい」
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