2007年1月8日設置
サイト→http://warakosu.syarasoujyu.com/
あるところに下山咲(しもやまさき)という場所がございまして・・・
森があり、林があり、野原があり、川があり、人間の町のある場所にしてはよく自然が残っておりましたが、その自然のあちこちにキノコ達が生えては楽しく暮らしておりました。
キノコはどうして生えるのでしょう?
彼らは人が植えたわけではありません。どこからともなくやってきて、いつのまにかそこにいるのです。
人間の中には、雨が多いとキノコが生えるように思う者もいるようです。
しかし、本当にそうでしょうか。
雨がキノコを呼ぶのか、あるいは・・・・
菌土曜連続深夜ドラマ
キノコな僕ら
第八話「雨とキノコ」
「オニフスベ!!」
シロフクロタケを追いかけて来たドクツルタケは、やがて色だけ同じで全然違うキノコと鉢合わせ、腹立ち紛れに大きな声を上げました。
辺りはだいぶ日も落ちました。遠目に白い塊はどうにも紛らわしかったのです。
「な、な、な、なんでごわすか」
可哀想に、オニフスベは大きな体を緊張に膨らませてあきらかに挙動不審になりました。
猛毒菌に怒鳴られて怖かったのでしょう。
「こっちにシロフクロタケ来なかったか!?」
「し、しろ、シロフクロウ?はぁ、おいどんにはなんのことだかさっぱりでゴワス」
ドクツルタケはじっと彼を見上げました。
「・・・こっちに来たと思うんだけど。絶対見ただろ」
「!?み、見てないでごわす!フクロウなんておいどん、知らんでごわす!」
「フクロウじゃない、シロフクロタケ。知り合いだろ、なんでそんな不自然な聞き間違えするんだよ」
「へ?や、いやあ、シロフクロタケでごわすか!シロフクロタケならもちろん知り合いでごわす!ふ、不自然と言われるのは心外でごわす、ドクツルタケがいきなり怒鳴るから、何のことだかわからなかっただけでごわすど!」
「・・・・・。まあいい。シロフクロタケ、どっち行った?」
「ど、ど、ど、どっち?どっちって、どっちでごわす?」
「俺が聞いてんだよ!さてはあんた、シロに口止めされただろ!」
「いやいやいやいやおいどんは何も知らんでごわす!本当でごわす!ドクツルタケ、おいどんの目を見るでごわす!」
ドクツルタケはオニフスベの目を睨みました。
オニフスベはまたたくまに視線を逸らしました。
「逸らしてんじゃねーか!」
「こここここれは違うでごわす!ドクツルタケががっつい怖いで思わず逸らしただけでごわす!カエンタケより怖いでごわすど!」
「知らねえよ!くそっ!」
珍しく激昂して地面を蹴ったドクツルタケです。
オニフスベは怯えるあまり、体中に黄色い汗を浮かべています。さらにだんだん茶色くなってきました。
「おい!あっちか!?」
「し、知らんでごわす・・・」
「じゃ、こっちか!?」
「わからん、わからんでごわ・・・」
「じゃあそっちか!?」
「!!そそそそっちではないと思うでごわ」
「そっちだな!サンキュ、オニフスベ!」
荒げた声のままお礼を言って、ドクツルタケは駆け去って行きました。
緊張から解き放たれたオニフスベは、膨らみきった体を音を立ててしぼませていきました。
それと同時に煙のような胞子が彼の体から舞上がり、さらに背中の陰から、
「けほっ、げほえほっ・・・・ありがとう、オニフスベ。けほっ」
咳き込みながらシロフクロタケが現れたのでした。
「怖かった・・・怖かったでごわす・・・」
オニフスベは放心状態です。胞子だけに。
「ごめんね、急に隠れさせて欲しいなんて無理言って。でも、そこまで怯えなくても・・・胞子もこんなに飛ばさなくても」
シロフクロタケは言いましたが、ホコリタケ科のキノコの胞子が多いのは仕方がないことです。オニフスベはシロフクロタケの一万倍の胞子を作るのです。そういうキノコなのです。
気の毒なキノコは茶色醒めた顔で、それでもいくらか落ち着いたのか心配そうにシロフクロタケを見やりました。
「ドクツルタケは行ってしまいもしたが・・・じゃっどん、本当にこれで良かったでごわすか。おいどんが言うのもなんでごわすが、二菌でしち話しあった方が」
「嫌だ!」
「シロフクロタケ・・・」
「言ったよね?あいつは私を毒にしようとしてたんだ!」
「それはどっか誤解があって・・・」
「毒になるくらいなら乱獲される方がマシだ!あんなキノコだと思わなかった!ドクツルタケなんてもう、傘も見たくないっ!」
「・・・・・」
「隠してくれてありがとう、オニフスベ。もう行くね。・・・あ、それと、ごめん。ベニナギナタタケのこと、力になれなくて」
「!い、いいんでごわす。ベニナギナタタケさんは、やっぱりおいどんには過ぎたキノコでごわす。カエンタケが・・・カエンタケが相応しいとも思わんけんども・・・」
「うん・・・ごめんね。元気出して?」
「はぁ、シロフクロタケも」
「・・・うん」
こうして、シロフクロタケはオニフスベと別れ、また一本きりになって、今度はとぼとぼと歩き始めました。
日がすっかり落ちてもまだ歩いておりました。
森を抜けて、野原に出てもまだまだ歩いておりました。
その頃には自然と彼女の傘も俯きがちになって、独り言が増えておりました。
「・・・ドクツルタケなんか」
ぽつ。
「ドクツルタケなんか。こっそりスギヒラタケに会いに行くくらいなら、面と向かって私に言えばいいじゃないか。毒になれって。そりゃ、言われたらその場で張り倒すけど。でも、あんなこそこそするなんて!ドクツルタケの馬鹿!馬鹿キノコ!」
ぽつ、ぽつ。
「大体、何のために毒にならなきゃいけないのさ。そんなに私に間違えられて誤食されるのが嫌なのかな?二菌揃って毒になって誤食を無くそうってこと?そんなの間違ってる!食から毒に変わるなんて危険だし!気がつく前に人間は絶対食べちゃうじゃないか!」
ぽつ、ぽつ、ぽつ。
「友茸じゃないからって毒にまでしようとするなんて。ドクツルタケなんてもう知らない!ドクツルタケなんて・・・」
サァァァァ・・・
「・・・雨?」
シロフクロタケはようやく気づきました。
雨です。真っ暗な空から、砂でも落とすような音を立てて、柔らかく雨が降って来ています。
彼女は先ほど無数に空へと舞い上がって行ったオニフスベの胞子を思い出しました。
おそらくあれが上空数百メートルまで登り、バイオエアロゾルとなって低高度凍結、雨を呼んだものでしょう。
雨がキノコを育てるだけではありません。キノコが雨を育ててもいるのです。
「・・・・・」
シロフクロタケはぼんやりと見上げるばかりでした。
キノコとしていつもは嬉しい恵みの雨も、なぜか今日ばかりは湿っぽすぎるように感じました。
そしてそんな彼女のすぐそばに、また一本の傘が近づいてきていたのでした。
まこと、キノコとは天候までも左右する生き物なのでございます・・・
森があり、林があり、野原があり、川があり、人間の町のある場所にしてはよく自然が残っておりましたが、その自然のあちこちにキノコ達が生えては楽しく暮らしておりました。
キノコはどうして生えるのでしょう?
彼らは人が植えたわけではありません。どこからともなくやってきて、いつのまにかそこにいるのです。
人間の中には、雨が多いとキノコが生えるように思う者もいるようです。
しかし、本当にそうでしょうか。
雨がキノコを呼ぶのか、あるいは・・・・
菌土曜連続深夜ドラマ
キノコな僕ら
第八話「雨とキノコ」
「オニフスベ!!」
シロフクロタケを追いかけて来たドクツルタケは、やがて色だけ同じで全然違うキノコと鉢合わせ、腹立ち紛れに大きな声を上げました。
辺りはだいぶ日も落ちました。遠目に白い塊はどうにも紛らわしかったのです。
「な、な、な、なんでごわすか」
可哀想に、オニフスベは大きな体を緊張に膨らませてあきらかに挙動不審になりました。
猛毒菌に怒鳴られて怖かったのでしょう。
「こっちにシロフクロタケ来なかったか!?」
「し、しろ、シロフクロウ?はぁ、おいどんにはなんのことだかさっぱりでゴワス」
ドクツルタケはじっと彼を見上げました。
「・・・こっちに来たと思うんだけど。絶対見ただろ」
「!?み、見てないでごわす!フクロウなんておいどん、知らんでごわす!」
「フクロウじゃない、シロフクロタケ。知り合いだろ、なんでそんな不自然な聞き間違えするんだよ」
「へ?や、いやあ、シロフクロタケでごわすか!シロフクロタケならもちろん知り合いでごわす!ふ、不自然と言われるのは心外でごわす、ドクツルタケがいきなり怒鳴るから、何のことだかわからなかっただけでごわすど!」
「・・・・・。まあいい。シロフクロタケ、どっち行った?」
「ど、ど、ど、どっち?どっちって、どっちでごわす?」
「俺が聞いてんだよ!さてはあんた、シロに口止めされただろ!」
「いやいやいやいやおいどんは何も知らんでごわす!本当でごわす!ドクツルタケ、おいどんの目を見るでごわす!」
ドクツルタケはオニフスベの目を睨みました。
オニフスベはまたたくまに視線を逸らしました。
「逸らしてんじゃねーか!」
「こここここれは違うでごわす!ドクツルタケががっつい怖いで思わず逸らしただけでごわす!カエンタケより怖いでごわすど!」
「知らねえよ!くそっ!」
珍しく激昂して地面を蹴ったドクツルタケです。
オニフスベは怯えるあまり、体中に黄色い汗を浮かべています。さらにだんだん茶色くなってきました。
「おい!あっちか!?」
「し、知らんでごわす・・・」
「じゃ、こっちか!?」
「わからん、わからんでごわ・・・」
「じゃあそっちか!?」
「!!そそそそっちではないと思うでごわ」
「そっちだな!サンキュ、オニフスベ!」
荒げた声のままお礼を言って、ドクツルタケは駆け去って行きました。
緊張から解き放たれたオニフスベは、膨らみきった体を音を立ててしぼませていきました。
それと同時に煙のような胞子が彼の体から舞上がり、さらに背中の陰から、
「けほっ、げほえほっ・・・・ありがとう、オニフスベ。けほっ」
咳き込みながらシロフクロタケが現れたのでした。
「怖かった・・・怖かったでごわす・・・」
オニフスベは放心状態です。胞子だけに。
「ごめんね、急に隠れさせて欲しいなんて無理言って。でも、そこまで怯えなくても・・・胞子もこんなに飛ばさなくても」
シロフクロタケは言いましたが、ホコリタケ科のキノコの胞子が多いのは仕方がないことです。オニフスベはシロフクロタケの一万倍の胞子を作るのです。そういうキノコなのです。
気の毒なキノコは茶色醒めた顔で、それでもいくらか落ち着いたのか心配そうにシロフクロタケを見やりました。
「ドクツルタケは行ってしまいもしたが・・・じゃっどん、本当にこれで良かったでごわすか。おいどんが言うのもなんでごわすが、二菌でしち話しあった方が」
「嫌だ!」
「シロフクロタケ・・・」
「言ったよね?あいつは私を毒にしようとしてたんだ!」
「それはどっか誤解があって・・・」
「毒になるくらいなら乱獲される方がマシだ!あんなキノコだと思わなかった!ドクツルタケなんてもう、傘も見たくないっ!」
「・・・・・」
「隠してくれてありがとう、オニフスベ。もう行くね。・・・あ、それと、ごめん。ベニナギナタタケのこと、力になれなくて」
「!い、いいんでごわす。ベニナギナタタケさんは、やっぱりおいどんには過ぎたキノコでごわす。カエンタケが・・・カエンタケが相応しいとも思わんけんども・・・」
「うん・・・ごめんね。元気出して?」
「はぁ、シロフクロタケも」
「・・・うん」
こうして、シロフクロタケはオニフスベと別れ、また一本きりになって、今度はとぼとぼと歩き始めました。
日がすっかり落ちてもまだ歩いておりました。
森を抜けて、野原に出てもまだまだ歩いておりました。
その頃には自然と彼女の傘も俯きがちになって、独り言が増えておりました。
「・・・ドクツルタケなんか」
ぽつ。
「ドクツルタケなんか。こっそりスギヒラタケに会いに行くくらいなら、面と向かって私に言えばいいじゃないか。毒になれって。そりゃ、言われたらその場で張り倒すけど。でも、あんなこそこそするなんて!ドクツルタケの馬鹿!馬鹿キノコ!」
ぽつ、ぽつ。
「大体、何のために毒にならなきゃいけないのさ。そんなに私に間違えられて誤食されるのが嫌なのかな?二菌揃って毒になって誤食を無くそうってこと?そんなの間違ってる!食から毒に変わるなんて危険だし!気がつく前に人間は絶対食べちゃうじゃないか!」
ぽつ、ぽつ、ぽつ。
「友茸じゃないからって毒にまでしようとするなんて。ドクツルタケなんてもう知らない!ドクツルタケなんて・・・」
サァァァァ・・・
「・・・雨?」
シロフクロタケはようやく気づきました。
雨です。真っ暗な空から、砂でも落とすような音を立てて、柔らかく雨が降って来ています。
彼女は先ほど無数に空へと舞い上がって行ったオニフスベの胞子を思い出しました。
おそらくあれが上空数百メートルまで登り、バイオエアロゾルとなって低高度凍結、雨を呼んだものでしょう。
雨がキノコを育てるだけではありません。キノコが雨を育ててもいるのです。
「・・・・・」
シロフクロタケはぼんやりと見上げるばかりでした。
キノコとしていつもは嬉しい恵みの雨も、なぜか今日ばかりは湿っぽすぎるように感じました。
そしてそんな彼女のすぐそばに、また一本の傘が近づいてきていたのでした。
まこと、キノコとは天候までも左右する生き物なのでございます・・・
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ならたけ にボコられたタマウラベニタケ。
*ナラタケ総称とナラタケ曹長が紛らわしいので、総称を平仮名表記することにしました。
樹木に寄生しともすれば枯死させる ならたけ ですが、彼らの犠牲は木だけでは無かった。
なんと罪も無いキノコにまで寄生し、ひどいめに合わせるという。
その犠牲者がイッポンシメジ科のキノコ、タマウラベニタケである。
彼は本来いかにもキノコらしい傘と柄のあるハラタケ型のきれいな姿なのだが、ならたけに寄生されると奇形化し、ボコボコした丸い団子の塊のようになってしまう。
2000年5月の記録によれば、ワタゲナラタケ、クロゲナラタケ、コバリナラタケ、キツブナラタケによる寄生が知られているとあった。
ボコボコが集まってくっついて溶岩状になった姿は、ならたけ贔屓の私ですらややドン引いたほどグロかった。ならたけ・・・お前ら・・・
タマウラベニタケの名前は、その団子というか「玉」の形状からつけられたものである。思わずタマウラ・ベニタケで切りたくなるが、タマ・ウラベニタケである。注意。
正しい幼菌か何かと誤解されて名前につけられたくらいなので、彼は発見されるたび、いつもボコられた状態でいるわけだ。なんで彼ばっかり。
ならたけは本当に正義の軍隊なのであろうか。おなじキノコまでこんな目に合わせるとはいくらなんでも酷くはないか。
もしかしたら森を守るための仕方のない犠牲なのかもしれないが・・・・しかしタマウラベニタケ、可哀想に・・・・
・・・・と、思われていたのだが。
近年の研究により、寄生されているのはならたけの方であり、タマウラベニタケだと思われていた奇形も、実は彼に侵されたならたけのなれの果てだったことが判明。
お前怖すぎだろうタマウラベニタケ。
ならたけどころではない完璧なキノコへの寄生菌で、ならたけの犠牲者のフリをしながらならたけを食っていたのである。こんな邪悪なキノコがいていいのか。
コロシテ・・・コロシテ・・・というならたけの呻きが聞こえてきそうである。
しかもそうすると何か?お前のその名前は結局お前自身の姿ではなく、お前の犠牲者の姿からつけられた名前だったということか?
どこの蟹座のデスマスクだよ。
キノコと聖闘士がとんでもないところでシンクロしたよ。なんでだよ。全ては蟹に通じる呪いでもかかっているのか私に。
植樹を滅ぼされナラタケに対し悪いイメージを持っていた人間は、樹にあんなことするならキノコにだってこんなことぐらいするだろう、とばかりならたけ側が加害者であると誤認してしまっていた。先入観というものがいかに恐ろしいかを本件は教えてくれる。
だがしかし、人類も愚か者ばかりではない。
山歩きを旨とする方の中には、実際に目で見たタマウラベニタケとナラタケの菌糸のあり方に違和感を覚え、「・・・ナラタケがタマウラベニタケに寄生していると言われているが、実は逆ではないかと私は疑っている」などブログに書き残した慧眼の士もおられた。
バイオハザードの日記か何かのようで、書き手の身を案じずにはいられない。
その一方で、ならたけを侵害するタマウラベニタケを見て、「こいつを上手く利用すればナラタケ病への抑止になるかもしれない」というキノコ研究者の記述もあった。
なんだかとても人類滅亡フラグの匂いがする。
大丈夫?ほんとに大丈夫?人間は本当にこんな邪悪なキノコを操れるの?
いやちょっと気になってるんですけどね、前述の通り、2000年5月の資料ではタマウラベニタケに寄生する(と見せかけて寄生されている)ならたけは、ワタゲナラタケ、クロゲナラタケ、コバリナラタケ、キツブナラタケなんですよ。
病原性の強いナラタケとナラタケモドキにはタマウラベニタケとの関係が記載されていないんです。
ということはですよ・・・・
もしかしたら、タマウラベニタケは病原性の強いならたけには寄生が難しいっていうことかもしれないじゃないですか。
で、さらにもしかしたら、タマウラベニタケに寄生されたくないがためにナラタケが病原性を強めた可能性もあるじゃないですか。
敵の敵は味方では無い。
タマウラベニタケによって色んな意味で操られているんじゃないのか、ならたけ。
そんな恐ろしいキノコを人間が手中に収めようとしても、はたして上手く行くのだろうか。タマウラベニタケが暴走して人類に寄生する事故とか起きないか。
心配でならない。
なお、タマウラベニタケにしろ ならたけ にしろ可食キノコなので、どっちがどうでも人間的には美味しく食べられる。
奇形になったのも、食感が変わっていてオツだと言う。
まあ・・・美味しいならいいか。別に。
その他のナラタケ達。
■コバリナラタケ
このままではナラタケ軍がおっさんばっかりになってしまうという危惧から、ようやく女性士官一名。ハルニレの腐った木に生えるナラタケ。全体的にサメ肌な見た目で、柄が折れやすい特徴がある。
作戦実行中にしょっちゅう折れるので曹長はキレ気味。
■ナラタケモドキ
モドキとついても立派なナラタケ属。ナラタケ曹長に劣らぬ強力な病原性を持ち、「ナラタケ病」と並ぶ「ナラタケモドキ病」の原因。優秀な青年士官だが、味は曹長より劣る。
曹長に憧れて名誉ナラタケ(謎)を目指しているが、ツバが無いので容易く見分けられてしまう。
■ホテイナラタケ
名前の通り、しもぶくれのナラタケ。柄の下部分がふくらんでいる特徴を持つ。日本のほかアメリカ、カナダ、コロンビアに広く分布するが、ヨーロッパにはいない。
気のいい脇役として重宝したい。
他、クロゲナラタケ、キツブナラタケ、ヒトリナラタケなど。
にぎやかだな、ナラタケよ・・・
オニナラタケ参謀総長。現在の「世界最大の生物」記録保持者。
米国オレゴン州で1998年に発見・2003年に確認された彼は、一個体でなんと面積965ha(9.65k㎡=965万㎡)、推定重量6615t、推定年齢2400歳。
ちなみに東京都千代田区の面積が11.66k㎡である。オニナラタケ一菌で行政機関から警視庁および皇居まで制圧できると思うと胸が熱い。
そんな恐るべき彼であるが、ナラタケ属の中では病原性は弱く意外な穏健派。
広範囲に菌糸を張るのは攻撃よりも情報戦のためであろう。
考えてみれば、9.65k㎡という広さは生物というより最早インフラに近い。自らの体を使った通信網でこの世の全てを盗聴している。そう考えても不思議は無い。
味は不味い。ナラタケなので生で食べると消化不良、火を通しても食べ過ぎれば中毒を起こす。その上彼は固いので食感が悪い。そこまで揃ったらもうそれは可食ではなく食不適とすべきだという意見があるほどである。
勢いで葉巻を咥えさせてしまったが、ナラタケ達はほとんど匂いのしないキノコなので、実際はたぶん吸わない。実際って何だ。
あるところに下山咲(しもやまさき)という場所がございまして・・・
人間達が人間らしく住んでおりますその一方で、キノコ達がキノコらしく暮らしておりました。
「キノコらしく」というのがどういうことか、人間はあまり知らないようですが・・・
例えば、キノコらしく走ったり、キノコらしくしゃべったり、
キノコらしく愛したり、キノコらしく報われなかったり。
そんな事でございます。
菌曜連続深夜ドラマ
キノコな僕ら
第七話「もつれる関係」
ドクツルタケとスギヒラタケが軋む会話をかわしていたその杉林に、今また一本のキノコが近付きつつありました。
シロフクロタケでございます。
「ドクツルタケ・・・どこだろ」
手入れの悪い杉林は木も落葉もあらかた腐っております。
シロフクロタケは腐生菌でしたが、木よりも草の枯れたのの方が好きな性質でございましたので、墓標のように立ち枯れた木々の光景はどうにも居心地悪く感じました。
日も沈みかけております。
ここは手っ取り早く、「ドクツルタケ」と声を上げて呼んでみたほうが良いかもしれません。
「どく・・・」
彼女が言いかけた、その時でした。
左手の木の後ろから、キノコの声が聞こえました。
「・・・でも、どうしてそんなこと、知りたかったの?」
初めて聞く高い声でした。
シロフクロタケはそっとそちらへ行ってみました。
「スギのことが知りたかったから?そうなのね?」
木の陰から覗いてみると、ふうわりと白く傘を重ねた可愛らしいキノコがおりました。
そして彼女が笑顔で身を寄せて話しかけているのは、こちらにだいぶ背中を向けてはいますが、確かにドクツルタケなのでした。
彼は何か言ったようでした。可愛いキノコの笑顔が宙ぶらりんのようになりました。
シロフクロタケは柄を固くして息をひそめました。なんとなく、そうしなければいけないような気がしたのです。
「・・・違うの?じゃあなんで?なんで毒になる方法なんて聞くの?聞いてどうするの?」
「別に、どうもしない」
「嘘だよ」
ドクツルタケが少し身じろぎしたのが見えました。相手は、けれどすぐに前以上にくっついたようでした。
「だってそうじゃなきゃこんなとこに来ないでしょう?ね?・・・それとも、本当にスギに会いたかっただけなのかな?そうだったら嬉しいな。スギねえ、ドクツルタケが大好きなの。とってもとっても、だあい好きなのよ」
「・・・それはさっきも聞いた」
「何度だって言うよ。ドクツルタケが嬉しいって笑うまで言うよ。スギはドクツルタケが好き。大好き。大好き。大好き。大好き。好き好き好き好き好き好き・・・」
「やめろ」
「すきすきすきすきすきすき」
「やめろって」
「すきすきすき!!じゃあドクツルタケも言ってよ!嬉しいって笑って、スギのこと好きだって言って!なんでそんな顔してるの?スギに会いに来たんでしょう?スギのこと聞きにきたんでしょう?スギのこと好きだからなんでしょう?そうだよねえっ!?」
「・・・・・・」
「なんで黙るの?スギのこと嫌いなの?スギが毒になったから嫌いなの?じゃあ昔は好きだった?スギのこと好きだった?ねえドクツルタケ、答えて?ねえ、ねえ、ドクツルタケ、ねえっ!」
「・・・・・・」
「ドクツルタケぇっ・・・!」
こんな状況に傘をつっこめるキノコはおりません。比較的基部の図太いシロフクロタケであっても、さすがにそれは無理でした。
しかし、ツバの外れたようにドクツルタケに訴えている声は、甘いようで、なのにとても必死な怖い響きを持っていたのです。シロフクロタケは思わず身震いしました。菌糸の先まで震えました。
それがいけなかったのでしょう。
彼女の足元の落ち葉が、がさりと音を立てました。
「!だあれ?」
可愛いキノコがこちらを向きました。ドクツルタケも振りむきました。
隠れる暇などありません。
シロフクロタケはおずおずと、木の陰から出て行くしかありませんでした。
「あの・・・こん、にちは」
「・・・・・・」
ドクツルタケが何とも言えない顔をしてなにかを言いかけました。
が。
「こんにちは。スギだよ。スギヒラタケっていうの。あなた、だあれ?」
スギヒラタケの方がわずかに早くシロフクロタケとの会話を取ってしまいました。
「私は、シロフクロタケ」
「シロフクロタケ。ふうん?初めまして。どうしたの?スギに会いに来たの?」
「いや、私は、ドクツルタケがこっちに来たって聞いたから・・・いるかなって」
「いるよ。ここに」
「うん、いるね・・・」
「・・・シロ。お前何しに来た」
「えっと、話すと長いんだけど」
「聞くから手短に話せ」
「え!?え、ええと、うん、じゃあええと・・・」
シロフクロタケは話しました。
松の木の下でドクツルタケと別れてから、まずはオニフスベに会った事。
彼の話を聞いてカエンタケに怒り、ベニナギナタタケに会いに行ったこと。
けれどベニナギナタタケの話を聞いて、カエンタケに対する怒りがぐらついてしまったこと。
その後ツマミタケに会ったこと。
そしてツマミタケの話を聞いて、ドクツルタケを止めに来たこと・・・
「俺を止める?なんで」
「え?なんでって・・・それは・・・・・・」
「・・・・スギのせいでしょ」
と、言葉を濁したシロフクロタケをにこにこ眺めながらスギヒラタケが言いました。
「スギに会うのがダメだって言われたんでしょ。わかるよ、今はスギのこと皆そういうから」
「あ、いや・・・」
「でももう遅いよ。ドクツルタケはスギに会っちゃったもん。帰さないよ。ドクツルタケ『が』スギに会いに来てくれたんだよ。スギのことが好きなの。そうね?ドクツルタケ?」
「・・・・・・・」
「また黙るの?・・・・・。あー、そっかぁ。スギ、わかっちゃったあ」
スギヒラタケはわざとらしくクスクス笑って、シロフクロタケを横目で見ました。
シロフクロタケはまた少し震えました。
「な、なに?」
「うふふ、そっかぁ。そうなんだぁ」
「なに?なんなのかな。言いたい事あるなら、はっきり言ってよ」
「シロフクロタケのためね?ドクツルタケ、そうね?」
「え?ドクツルタケ、何が?何の話?」
「・・・・なんでもない」
「なんでもないって・・・」
「スギが教えてあげる!あのねえ、ドクツルタケはスギのところにお話聞きにきたんだよ。スギがどうやって毒キノコになったのかって。毒になる方法が知りたかったんだよねえ?」
「・・・やめろ」
「それってシロフクロタケのためなのね?シロフクロタケ、食キノコでしょう?毒の感じがしないもん。ドクツルタケはもう毒キノコなのに、なんで毒になる方法を知りたいんだろうって、スギちょっと不思議だったの。でも、シロフクロタケのためだったのね。シロフクロタケを毒に変えたいんだよね。そうね?」
「違う」
ドクツルタケは即座に否定しました。しかし。
「・・・・・・え?」
シロフクロタケは既に、杉の枝で傘を殴られたような衝撃を受けてしまっておりました。
「どういうこと・・・?」
「おい、違うぞ。俺はそんなこと思ってない」
「スギねえ、教えてあげたよ。毒になるには悪い物をいっぱいいっぱい食べるの。だからドクツルタケは、これからシロフクロタケに悪い物をい~~~~~っぱい!食べさせるよ。そうねえ?」
「違う!」
「そんな・・・ドクツルタケが私にそんなこと・・・嘘、だよね?ドクツルタケ」
「当たり前だ、嘘に決まってるだろこんな!」
「信じない・・・そんなこと、絶対信じない・・・」
「シロ?おいシロ。ちょっと落ち着いて話聞けよ。俺がここに来たのは」
「絶対絶対信じない!!ドクツルタケの馬鹿キノコーーーーっ!!」
「思いっきり信じてんじゃねえか!!!待てよ!待てって!!お前、他菌の言うこと全部聞いてここまで来たくせに、何で俺の話だけ聞かねえの!?待てってシローーーっ!!」
シロフクロタケは待ちませんでした。
ドクツルタケは追いかけようとしましたが、スギヒラタケがすがりついて離れないので止まるしかありませんでした。
「だめだよドクツルタケ。もう行っちゃったよう。追いかけても無駄だよ。ね?スギと一緒にいよう?」
「っ!離せよ!!」
「シロフクロタケなんてほっとこうよ。シロフクロタケはドクツルタケのこと好きじゃないよ。信じてもいないよ。ね?スギはドクツルタケが好きだし、ドクツルタケのこと信じてる。スギのこと好きだって信じてる。だからそばにいて?好きって言ってそばにいて?」
「言わねえし!そんなに言って欲しきゃツクツクボウシにでも頼め!」
「スギはドクツルタケじゃなきゃ嫌!」
「俺だってあいつじゃなきゃ嫌だ!」
「!・・・・」
「なんだよ。悪いかよ!」
「シロフクロタケが好き?」
「別にっ」
「じゃあ、じゃあね、いいよ、スギ手伝ってあげる。シロフクロタケを毒にするの、手伝ってあげるよ。それでいいでしょ。だから一緒にいて?行かないで?スギ、ドクツルタケのしたいこと全部叶えてあげる!だから一緒にいて!もうひとりにしないでよう!」
「俺がいつあいつを毒キノコにしたいっつった!?するわけないだろ!っつーか無理!あんな菌髄反射で動くキノコが毒とか絶対無理だから!!」
「毒キノコにしたくないの?じゃあ、なんで・・・」
「毒にする方法があるなら、毒やめる方法もあるかもしれないと思ったんだよ!ああもう、離せ!」
ドクツルタケはスギヒラタケを振り切って走り去りました。もうとうに、シロフクロタケの傘は見えなくなっておりましたが、彼は必死に追いかけるのでした。
とりのこされたスギヒラタケは、呆然と立ちすくんでおります。
「毒、やめるって・・・なんで・・・ドクツルタケが毒やめたい、の?そんな・・・嘘だよ。だってそれじゃあスギは・・・スギは・・・・・・・」
まるでややこしい菌糸のように、キノコ達の関係はもつれ絡まるばかり。
まことキノコとは愛憎渦巻く生き物でございます・・・
人間達が人間らしく住んでおりますその一方で、キノコ達がキノコらしく暮らしておりました。
「キノコらしく」というのがどういうことか、人間はあまり知らないようですが・・・
例えば、キノコらしく走ったり、キノコらしくしゃべったり、
キノコらしく愛したり、キノコらしく報われなかったり。
そんな事でございます。
菌曜連続深夜ドラマ
キノコな僕ら
第七話「もつれる関係」
ドクツルタケとスギヒラタケが軋む会話をかわしていたその杉林に、今また一本のキノコが近付きつつありました。
シロフクロタケでございます。
「ドクツルタケ・・・どこだろ」
手入れの悪い杉林は木も落葉もあらかた腐っております。
シロフクロタケは腐生菌でしたが、木よりも草の枯れたのの方が好きな性質でございましたので、墓標のように立ち枯れた木々の光景はどうにも居心地悪く感じました。
日も沈みかけております。
ここは手っ取り早く、「ドクツルタケ」と声を上げて呼んでみたほうが良いかもしれません。
「どく・・・」
彼女が言いかけた、その時でした。
左手の木の後ろから、キノコの声が聞こえました。
「・・・でも、どうしてそんなこと、知りたかったの?」
初めて聞く高い声でした。
シロフクロタケはそっとそちらへ行ってみました。
「スギのことが知りたかったから?そうなのね?」
木の陰から覗いてみると、ふうわりと白く傘を重ねた可愛らしいキノコがおりました。
そして彼女が笑顔で身を寄せて話しかけているのは、こちらにだいぶ背中を向けてはいますが、確かにドクツルタケなのでした。
彼は何か言ったようでした。可愛いキノコの笑顔が宙ぶらりんのようになりました。
シロフクロタケは柄を固くして息をひそめました。なんとなく、そうしなければいけないような気がしたのです。
「・・・違うの?じゃあなんで?なんで毒になる方法なんて聞くの?聞いてどうするの?」
「別に、どうもしない」
「嘘だよ」
ドクツルタケが少し身じろぎしたのが見えました。相手は、けれどすぐに前以上にくっついたようでした。
「だってそうじゃなきゃこんなとこに来ないでしょう?ね?・・・それとも、本当にスギに会いたかっただけなのかな?そうだったら嬉しいな。スギねえ、ドクツルタケが大好きなの。とってもとっても、だあい好きなのよ」
「・・・それはさっきも聞いた」
「何度だって言うよ。ドクツルタケが嬉しいって笑うまで言うよ。スギはドクツルタケが好き。大好き。大好き。大好き。大好き。好き好き好き好き好き好き・・・」
「やめろ」
「すきすきすきすきすきすき」
「やめろって」
「すきすきすき!!じゃあドクツルタケも言ってよ!嬉しいって笑って、スギのこと好きだって言って!なんでそんな顔してるの?スギに会いに来たんでしょう?スギのこと聞きにきたんでしょう?スギのこと好きだからなんでしょう?そうだよねえっ!?」
「・・・・・・」
「なんで黙るの?スギのこと嫌いなの?スギが毒になったから嫌いなの?じゃあ昔は好きだった?スギのこと好きだった?ねえドクツルタケ、答えて?ねえ、ねえ、ドクツルタケ、ねえっ!」
「・・・・・・」
「ドクツルタケぇっ・・・!」
こんな状況に傘をつっこめるキノコはおりません。比較的基部の図太いシロフクロタケであっても、さすがにそれは無理でした。
しかし、ツバの外れたようにドクツルタケに訴えている声は、甘いようで、なのにとても必死な怖い響きを持っていたのです。シロフクロタケは思わず身震いしました。菌糸の先まで震えました。
それがいけなかったのでしょう。
彼女の足元の落ち葉が、がさりと音を立てました。
「!だあれ?」
可愛いキノコがこちらを向きました。ドクツルタケも振りむきました。
隠れる暇などありません。
シロフクロタケはおずおずと、木の陰から出て行くしかありませんでした。
「あの・・・こん、にちは」
「・・・・・・」
ドクツルタケが何とも言えない顔をしてなにかを言いかけました。
が。
「こんにちは。スギだよ。スギヒラタケっていうの。あなた、だあれ?」
スギヒラタケの方がわずかに早くシロフクロタケとの会話を取ってしまいました。
「私は、シロフクロタケ」
「シロフクロタケ。ふうん?初めまして。どうしたの?スギに会いに来たの?」
「いや、私は、ドクツルタケがこっちに来たって聞いたから・・・いるかなって」
「いるよ。ここに」
「うん、いるね・・・」
「・・・シロ。お前何しに来た」
「えっと、話すと長いんだけど」
「聞くから手短に話せ」
「え!?え、ええと、うん、じゃあええと・・・」
シロフクロタケは話しました。
松の木の下でドクツルタケと別れてから、まずはオニフスベに会った事。
彼の話を聞いてカエンタケに怒り、ベニナギナタタケに会いに行ったこと。
けれどベニナギナタタケの話を聞いて、カエンタケに対する怒りがぐらついてしまったこと。
その後ツマミタケに会ったこと。
そしてツマミタケの話を聞いて、ドクツルタケを止めに来たこと・・・
「俺を止める?なんで」
「え?なんでって・・・それは・・・・・・」
「・・・・スギのせいでしょ」
と、言葉を濁したシロフクロタケをにこにこ眺めながらスギヒラタケが言いました。
「スギに会うのがダメだって言われたんでしょ。わかるよ、今はスギのこと皆そういうから」
「あ、いや・・・」
「でももう遅いよ。ドクツルタケはスギに会っちゃったもん。帰さないよ。ドクツルタケ『が』スギに会いに来てくれたんだよ。スギのことが好きなの。そうね?ドクツルタケ?」
「・・・・・・・」
「また黙るの?・・・・・。あー、そっかぁ。スギ、わかっちゃったあ」
スギヒラタケはわざとらしくクスクス笑って、シロフクロタケを横目で見ました。
シロフクロタケはまた少し震えました。
「な、なに?」
「うふふ、そっかぁ。そうなんだぁ」
「なに?なんなのかな。言いたい事あるなら、はっきり言ってよ」
「シロフクロタケのためね?ドクツルタケ、そうね?」
「え?ドクツルタケ、何が?何の話?」
「・・・・なんでもない」
「なんでもないって・・・」
「スギが教えてあげる!あのねえ、ドクツルタケはスギのところにお話聞きにきたんだよ。スギがどうやって毒キノコになったのかって。毒になる方法が知りたかったんだよねえ?」
「・・・やめろ」
「それってシロフクロタケのためなのね?シロフクロタケ、食キノコでしょう?毒の感じがしないもん。ドクツルタケはもう毒キノコなのに、なんで毒になる方法を知りたいんだろうって、スギちょっと不思議だったの。でも、シロフクロタケのためだったのね。シロフクロタケを毒に変えたいんだよね。そうね?」
「違う」
ドクツルタケは即座に否定しました。しかし。
「・・・・・・え?」
シロフクロタケは既に、杉の枝で傘を殴られたような衝撃を受けてしまっておりました。
「どういうこと・・・?」
「おい、違うぞ。俺はそんなこと思ってない」
「スギねえ、教えてあげたよ。毒になるには悪い物をいっぱいいっぱい食べるの。だからドクツルタケは、これからシロフクロタケに悪い物をい~~~~~っぱい!食べさせるよ。そうねえ?」
「違う!」
「そんな・・・ドクツルタケが私にそんなこと・・・嘘、だよね?ドクツルタケ」
「当たり前だ、嘘に決まってるだろこんな!」
「信じない・・・そんなこと、絶対信じない・・・」
「シロ?おいシロ。ちょっと落ち着いて話聞けよ。俺がここに来たのは」
「絶対絶対信じない!!ドクツルタケの馬鹿キノコーーーーっ!!」
「思いっきり信じてんじゃねえか!!!待てよ!待てって!!お前、他菌の言うこと全部聞いてここまで来たくせに、何で俺の話だけ聞かねえの!?待てってシローーーっ!!」
シロフクロタケは待ちませんでした。
ドクツルタケは追いかけようとしましたが、スギヒラタケがすがりついて離れないので止まるしかありませんでした。
「だめだよドクツルタケ。もう行っちゃったよう。追いかけても無駄だよ。ね?スギと一緒にいよう?」
「っ!離せよ!!」
「シロフクロタケなんてほっとこうよ。シロフクロタケはドクツルタケのこと好きじゃないよ。信じてもいないよ。ね?スギはドクツルタケが好きだし、ドクツルタケのこと信じてる。スギのこと好きだって信じてる。だからそばにいて?好きって言ってそばにいて?」
「言わねえし!そんなに言って欲しきゃツクツクボウシにでも頼め!」
「スギはドクツルタケじゃなきゃ嫌!」
「俺だってあいつじゃなきゃ嫌だ!」
「!・・・・」
「なんだよ。悪いかよ!」
「シロフクロタケが好き?」
「別にっ」
「じゃあ、じゃあね、いいよ、スギ手伝ってあげる。シロフクロタケを毒にするの、手伝ってあげるよ。それでいいでしょ。だから一緒にいて?行かないで?スギ、ドクツルタケのしたいこと全部叶えてあげる!だから一緒にいて!もうひとりにしないでよう!」
「俺がいつあいつを毒キノコにしたいっつった!?するわけないだろ!っつーか無理!あんな菌髄反射で動くキノコが毒とか絶対無理だから!!」
「毒キノコにしたくないの?じゃあ、なんで・・・」
「毒にする方法があるなら、毒やめる方法もあるかもしれないと思ったんだよ!ああもう、離せ!」
ドクツルタケはスギヒラタケを振り切って走り去りました。もうとうに、シロフクロタケの傘は見えなくなっておりましたが、彼は必死に追いかけるのでした。
とりのこされたスギヒラタケは、呆然と立ちすくんでおります。
「毒、やめるって・・・なんで・・・ドクツルタケが毒やめたい、の?そんな・・・嘘だよ。だってそれじゃあスギは・・・スギは・・・・・・・」
まるでややこしい菌糸のように、キノコ達の関係はもつれ絡まるばかり。
まことキノコとは愛憎渦巻く生き物でございます・・・