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2007年1月8日設置 サイト→http://warakosu.syarasoujyu.com/
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キノコ界のアイドル。マッシュルームちゃん。
クセが無く、味が良く、人工栽培が容易な食用菌。
もともとメロン栽培用だった施設に、私を見て!とばかりに生えて来たのが始まりという自推型アイドル。可愛い見た目をしてはいるが、実は売れるためなら糞の上にも生えるという雑菌根性の持ち主である。

キャッチフレーズは「あなたの好きなところに入れて♡」
フレーズ通り様々な料理のレシピに入りこむ。本当にお前は必要なのかと言う時もある。缶詰やパックを買っては余らせる人間が続出し、「無駄に複数個買わせている」「明らかに捨てられる分まで売上個数にカウントするのはおかしい」などたびたび物議を醸す。

ファンからは「やっぱりマッシュちゃんが一番」「マッシュちゃんがいると料理が輝いて見えます!」など熱い言葉をもらう。
一方、アンチからは「人間に媚びてんじゃねーよ」「スタイルずんぐりのくせにグラビアとかww加工しすぎ。さすが和名ツクリタケ」「こいつが入ってるオムライスは食べたく無い」等等、ボロクソ言われる。

・・・が、本菌は炎上も培地ぐらいにしか思っていない。
「また炎上しちゃった♡みんなありがと、火力丁度良かったよ~マッシュのバター炒め、食べたいひとー!」
などとインスタで煽ってさらなる炎上をモノにする。売れてる奴は、強い。

ヨーロッパにおいて日本よりはるかにドクツルタケの被害が多い原因は彼女だと言われている。ドクツルの幼菌をマッシュルームと間違って食べてしまうのだそうな。
色んな意味で怖い女である。
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あるところに下山咲(しもやまさき)という場所がございまして・・・

特に何かがあるわけでもない平凡な住宅地でありましたが、平凡だからこそでしょうか、そこで暮らす者たちは、暮らしの合間に夢や憧れを抱くのでございます。

それは人もキノコも同じこと。

ことに幼き頃に見た夢は、大人になってもなお忘れ難いもので、知らず知らず人やキノコの生き方に影響してくるものなのでございます。




菌曜連続に戻れないドラマ
キノコな僕ら
第十一話 ときにはヒーローのように


後悔の念に菌糸を染め上げられたシロフクロタケは、泣いて泣いて泣きました。
キノコの成分は90%が水でございます。その気になればいくらでも泣けるのです。
慌てふためくカラカサタケは、何か少女の気を紛らわせる物を求めて部屋中を探しまわりましたが、一人暮らしの独キノコの家にそんなものがあるはずもなく、どうにかこうにか埃をかぶっていたカビの模型を引っ張り出して来た頃には、泣き疲れたシロフクロタケはもうコタツに埋もれて眠り込んでいたのでした。

カラカサタケはほっとため息をつきました。

「シロちゃん、寝ちゃったね」
「・・・ようやく静かになったな」

不味くなった鍋の口直しをするのだという顔で、カエンタケは一服つけておりました。
部屋には深夜にふさわしい静けさが戻っています。
カラカサタケは自分の場所に戻りつつ、シロフクロタケの寝顔を眺めて微笑みました。

「ふふ、涎垂らしてる。可愛いな。いい子だね、この子」
「ハタ迷惑なガキだ」
「そう言うなよ。ドクツルタケ君と喧嘩したのがよっぽどショックだったんだ。友達と仲違いするって辛いよ。カエンタケ、彼と知り合いなら仲直りさせてあげてくれよ。な?」
「冗談よせや。ほっといてもまたくっつくだろうよ、その二菌は」
「そうかい?それならいいけど・・・シロちゃんの友茸なんだから、きっと良いキノコなんだろうな。俺も富士山に行く前に会ってみたいな」
「ほぉ。もう受かったつもりか」
「受かるさ。親に無理言って行かせてもらうんだ。君にだってこうして応援してもらってるんだ。そのくらいはちゃんとするよ」
「立派だねぇ」

カエンタケがまぜっかえすのを、カラカサタケは素直な褒め言葉と受け取って、照れたようです。

「今の俺にできることが勉強だっていうだけさ。知らない事を知るのが好きなんだ。菌俗学なんか何の役に立つんだって言われたりするけど、でも、好きなんだよな。どんなことだって、知らないよりは知ってた方が前に進める気がするんだ。その分踏み越え無きゃいけない事が増えたとしても・・・役に立たなくても、そうするだけの価値があると思う」
「したいようにすりゃぁいいさ。役に立つもんだけ身につけてるような奴ぁ、俺は好かねえよ」
「へえ、なんで?」
「先の菌生なにが起こるか手前でわかるようなもんじゃねえ。役に立つか立たねえかなんてどうして今決められる。なんでもやってみりゃあいい、身につけたもんの数だけ面白いことも向こうから寄ってくんのさ。そいつが寄って来たことに気づける奴が、結局役に立つ奴さ」
「はは、ありがとう。そっか・・・そうだな。そうかもしれない」
「学のねえ俺が言えた義理じゃないがな」
「そんなことないよ。カエンタケは俺にとってスーパーキノコだもん。君に言ってもらえるのが一番勇気づけられるよ」
「・・・なんだそのスーパーキノコってのは」
「知らない?いただろ昔。ゲームのキャラで」
「知らねえ」
「えーほんとに?有名だよ、ちょっと待って」

カラカサタケは手間を惜しまずよく動くキノコでした。彼は何度目かの室内捜索を行い、それが描かれたゲームの本を持って来ました。
砕かれたブロックの中から突如出現する、赤いキノコ。
カエンタケは一瞥するなり顔をしかめました。

「・・・・・これが俺だとぉ?」
「嫌そうにするなよ。凄いんだぞ、スーパーキノコは。どこからともなく現れて、主人公のピンチを救ってくれるんだ。俺、幼菌の頃なんか苛められるたびにスーパーキノコが来てくれないかと思ってたもんだけど、ほら、ショウジョウバエに絡まれた時にまさに君が来てくれたわけじゃん。あ、もうこれスーパーキノコだ!ってあの時ほんと思ってさ。赤いし」
「・・・。助けるんじゃなかったぜ」
「どうしてそんなことできるんだろうって、不思議だったよ。どうしてそんな勇気があるんだろうって。でも、ようやくわかってきた気がする」

すやすやと眠るシロフクロタケを見やって、自分に確かめるように、言います。

「シロちゃんみたいな一生懸命なキノコを見たら、俺だって助けたいって思うんだ。本気で助けてって言ったら、きっと誰かが助けてくれるんだ。落した財布拾ってくれたり、道わからないとこ教えてくれたり、ショウジョウバエから助けてくれたりさ。スーパーキノコは俺が思うよりたくさんいて、それできっと、俺も誰かのそれになれるのかもしれないなって。最近、そう思うようになった」
「まあ、お前は役に立たなそうだけどな」
「いや!さっき君だって言っただろ、俺は菌俗学でスーパーキノコになってみせる!」
「そうかい。よくわからねえがその学問で、お前が泣いてる女にカビの模型以外のものをやれる男になる事を祈ってるぜ」
「ありがとう。俺、頑張るよ」
「いや、今のは激励じゃねえ・・・」
「でも、俺だけじゃないよ。カエンタケ、君も一緒に前に進むんだよ」
「あン?」
「ベニちゃん。オニフスベさんだっけ?ややこしい事になったの、ベニちゃんのことで何かあったんだろ。君がキノコを脅すなんて、それ以外無いよな」
「・・・・・・・」

カエンタケは煙管を咥えこんで黙りました。
カラカサタケは、しかし一生懸命に言うのでした。

「このままじゃ駄目だろ。もう随分長い間ギクシャクしっぱなしじゃないか。放っておいてどうにかなるような事じゃないんだろ。一度ちゃんと話し合おうよ。俺、カエンタケが何かしたわけじゃないと思ってる。でも、ベニちゃんが誤解しているんだとしても、言葉にしなきゃ伝わらないことが絶対あるんだよ。な?スーパーキノコだってブロックを叩かなきゃ生えて来ないんだ。生えてこない事をスーパーキノコのせいにはできないだろ。ブロックを叩かない配管工が悪いんだ。そうだろ?」
「・・・いや、そいつで例えられると俺はよくわからねえが・・・」
「ベニちゃんは一菌でもう十分考えたと思うよ。それで答えが出ないなら、誰かが助けてあげなきゃいけないし、彼女を助けられるのは君だけだろ?カエンタケ」
「・・・・・・・」
「頼むよ。このままじゃ俺、君らの事が気になって安心して富士山に行けないよ。向こうでも絶対なんかやらかしちゃうって」
「・・・フ、違ぇねえ」
「だろ?」
「敵わねえなぁ」
「じゃあ!」
「まあやってみるけどな。期待はするなよ。俺は元来、器用な性分じゃあねえ」
「でも、カビの模型持ってったりはしないんだろ?」
「あたりめえだ。お前と一緒にするな」
「じゃ、安心だ」
「ったく・・・・」

カエンタケは苦い笑いに歪めた口で、煙をふうと吐きました。
しばらくその薄もやを眺めたあと、ぴしりと煙管を叩いて空にし、懐にしまいます。
けだるそうに立ちあがりながら言いました。

「さて。長居したな。俺ぁそろそろ帰るぜ」
「あれ、もう?」
「もうじゃねえ。とっくに真夜中過ぎてんだ。そいつは今夜は泊めるんだろ?それじゃあな・・・」
「!!!!!ちょ、ちょっと待ったカエンタケ!!」

・・・そこからがまたひと悶着でございました。

「泊めるってなんだ!?シロちゃんを!?絶対だめだろそんなの!!」
「時間見ろや。もう半分以上泊めてるようなもんだろ。あと何時間か寝かせといたところでバチはあたらねえよ」
「あたるよ!いろんなものがあたる!女の子を朝帰りさせるなんてそんなのだめだ!」
「放っときゃ昼まで寝るだろうよ」
「そういう問題じゃない!シロちゃん、起きるんだ!このままじゃ危険だ!」
「カラカサぁ・・・お前ぇ、男か女かの区別もつかねえキノコ相手に、そんなに手前の理性に自信が持てねえのか?」
「そ、そういうことじゃないってば!シロちゃん!シロちゃんっ!」
「・・・ん・・・んー?あさ?」
「朝じゃない!まだ朝じゃないよシロちゃん!」
「んー・・・・」
「いいかい、シロちゃん。カエンタケが送ってくれるから、君はおうちに帰るんだ」
「なんで俺が」
「ん・・・やだ・・・カエンタケ、こわい」
「だとよ」
「怖くないよシロちゃん!大丈夫!おんぶしていけば顔は見えないからね!」
「おんぶ!?ちょ、冗談よせやカラカサ・・・!」
「いいだろそのくらい。もとはと言えば、彼女がここに来るようなことになったのも君が原因じゃないか」
「そいつぁ暴論だろ・・・」
「いいから後ろ向いて!しゃがんで!はい、シロちゃん、つかまって!大丈夫だよ、怖くないからね!また一緒に遊ぼうね!」

カラカサタケの圧倒的な仕切りの下、シロフクロタケはカエンタケの背中にくっついて、家に帰る事となりました。
外は深い夜。
こぼれるような星灯りの下、白を乗せた赤いキノコが歩いて行きます。

まこと、キノコの男も不器用な者達でございます・・・

キノコドラマ、間に合わない時にはエロ画像をアップすることにした。

♂:ジンガサドクフウセンタケ
フウセンタケ科フウセンタケ属。猛毒。

♀:ショウゲンジ
フウセンタケ科フウセンタケ属。食用。美味。

ショウゲンジのまだいくぶん未熟さの残る傘を、ジンガサがきれいに開かせて大人する。
そんなキノコのエロがあってもいい。



散歩から帰ってきたら、玄関先でオニフスベがベニナギナタタケをクッソ口説いていた。
出るに出られず物陰に待機させられるカエンタケ。

口説くのはいい。ベニに惚れる奴がいてもおかしかねえ。
俺をボロックソ言うのもまあいい。俺ぁどうせヤクザなキノコだ。仰ることもごもっともさ。
だがな、どっちにしても場所は考えろや。
俺の家の前で俺に暴言吐いてベニを口説くか普通。
別に俺がベニを引き止めてるわけじゃあねえ。いい男がいてそいつにベニが惚れるなら好きに連れていきゃあいいと思ってる。
が、しかしそれはたぶんお前じゃねえよオニフスベ。
あからさまに嫌がられてるだろうが、もうやめとけ。引き際は心得ろ。
つうか言いたかねえが、俺に惚れた女はそうそう余所へはいかねえよ。
アホめ・・・


・・・カエンタケも、オニフスベが善意の塊であることは感じているので、ギリギリまでは黙って堪えました。
しかしベニが本気で泣きそうな声になってきたので、仕方なく、二度と来んなド阿呆を言いに出て行ったのでした。

ベニちゃんが芯から自分に惚れているのをひしひしと感じ、嬉しいと言うよりはまじぃなあという気持ちの、罪なモテキノコです。
あるところに下山咲(しもやまさき)という場所がございまして・・・

色々な人間が住んでおり、そしてまた色々なキノコが棲んでおりました。
人間に一人一人違いがあるように、キノコもまた一菌一菌それぞれ違いがございます。
容姿も、生え方も、食好みも、そして考え方も・・・

キノコが何を考えるのかと、人は思うかもしれません。
しかし、キノコは確かに考えているのです・・・




菌曜連続に戻りたいドラマ
キノコな僕ら
第十話 キノコは鍋のごとくあれ


なにやかや混乱した始まりではありましたが、鍋とは混乱を器に納めて幸せな結果にまとめてしまう、懐の深い料理でございます。
それが出来上がって良い匂いを漂わせるころには、シロフクロタケも大分くつろいだ気持ちでコタツに入り、カラカサタケの話すカエンタケとの出会い話などを聞いていたのでした。

「へぇー。じゃあ、もう二菌はずっと前から知り合いだったんだね」

口調まで数年来の知己のようです。

「そうだね。僕が高校生の頃にショウジョウバエにからまれていたのを助けてもらって以来だから・・・何年になるかなあ。ねえ何年だろ?カエンタケ」
「いちいち数えてるかぃ、そんなもん」
「こいつね、怖そうに見えるけど案外面倒見のいい奴なんだよ。山から来たベニちゃんの面倒をみてあげてるのもそうだし、俺が受験中だって言うんで煮詰まらないように時々こうして遊びに来てくれるし。もう友茸通り越して菌友だよね」
「俺ぁただ、暇を潰しに来てるだけだ」
「ベニちゃんと喧嘩した時とかね。後で謝っとけよ、ちゃんと」
「フン」

カエンタケは苦い顔をして酒をすすっています。
が、カラカサタケのずけずけした物言いにことさら腹を立てた様子は無く、それがシロフクロタケには全くもって意外なことでありました。

「さ、シロちゃん。いっぱい食べてね。良かったよ、シロちゃんも腐生菌で。生もの買って来て無かったからさ、外生菌根菌だったら鍋食べられないかもしれないってちょっと心配だったんだ。何が好きかな?この辺の腐葉土いっとく?」
「うん!」
「カエンタケはいつも酒が先だから気にしないでいいからね」
「カラカサタケは、受験生なの?」

と、腐葉土でお腹を幸せに満たしながらシロフクロタケは訊きました。
カラカサタケは照れたように頷きました。

「そうなんだ。来年大学卒業するんだけど、院に入りたくてね。富士山の。だからその勉強中」
「富士山!?凄い!何の勉強してるの?」
「菌俗学さ。色んな国の色んな菌類の分化や歴史を研究するんだ。富士山には全国からたくさんのキノコが集まって来てるから、異文化に触れる機会も多いし、そういう菌達と一緒に勉強するのは絶対楽しいと思うんだ。できれば四合目か五合目を狙いたいんだけど、あの辺りは倍率高いからなあ」
「そんなの、大丈夫だよ!カラカサタケならきっと受かるよ!」
「そ、そうかい?そうかあ・・・そうだね、シロちゃんに言われるとそんな気がしてくるよ。よし!俺頑張るよ!おかわりいるかい?お皿貸して、松ぼっくり取ってあげる。俺頑張るから、シロちゃんもいっぱい食べるんだ!」
「うん!」
「・・・なんかめでてえところが似てるなぁ、お前ら」
『え?』
「クッ、なんでもねえよ」

声を揃えて訊きかえした二本の傘に、カエンタケは肩を震わせて目を逸らしました。
そんな彼を、シロフクロタケは不思議そうに眺めます。

「カエンタケって・・・いつもこういうキノコなの?」
「あン?どういう意味だ」
「なんか、思ってたのと全然違う・・・」
「知らねえよ。俺は俺だ」
「ほらそういう言い方するからさ、誤解されるんだよ、カエンタケは。話し方もうちょっと優しくすればいいのに。無駄に相手を怖がらせることないだろ。ねえシロちゃん?ちょっと怖いよね、カエンタケの言い方」
「うん。私もだし、オニフスベもすごく怖がってた」
「・・・オニフスベは怖がるだろうよ、脅したからな」
「脅したぁ?何があったんだよカエンタケ」
「言いたくねえ」
「はぁ・・・ったく。シロちゃん、何があったのかわからないけど、カエンタケって普段は自分から脅しにいったりするキノコじゃないんだよ。見てわかるだろ?こんなに真っ赤な警戒色、いかにも毒だって教えてくれてるんだから、親切なんだ本当に。だからそのオニフスベさんのことも、なんか言い分があると思うんだ。本菌は絶対言わないけど。オニフスベさんって、どんなキノコなのかな。男の菌?男だよね?女の子脅したりしないよね、カエンタケ」

カラカサタケは男女の区別についてやや慎重化しておりました。

「俺がどうだかは知らねえが、あれが女だったらぞっとしねえな」
「オニフスベは男だよ。なんか、カエンタケがベ・・・」
「おっと」
「わっ!・・・っちゃ~、ちょっと待って台布巾取ってくる!」

徳利をひっくり返してコタツ布団を濡らしたカエンタケは、台所へ走るカラカサタケを尻目に見つつ、燗をつけるのも面倒になったのでしょう、まだ使っていなかった自分の皿を杯代わりに、酒瓶をそのまま傾け始めました。
彼に絡んだ話は、カラカサタケが戻ってきて布団を拭き終わる頃にはすっかり腰を折られた格好になっていて、誰もそれと意識しないまま自然に消えて行ったのでした。

「ところで白いの、お前はなんでここに来た?お前こそ何があったのか聞きてえもんだ」
「あ、そうだね、俺もそれ気になってた」
「よく言うぜ、傘の端にも無かったくせによ。おい、カラカサに誘拐されたんなら正直に言え。通報してやる」
「や、やめろよ~カエンタケ。俺心配になるじゃん」
「やましいとこがあんのか」
「な、ないよ?ないよ、ないよねえシロちゃん!?俺ただ声かけて連れて来ただけだよね!?」
「まさに誘拐だろうが」
「ええっ!?うそ!?俺誘拐した!?シロちゃん、俺・・・シロちゃん?」

シロフクロタケは眉根を緊張させ、口をへの字にまげておりました。
カラカサタケはますます慌てました。

「誘拐したのかなあ俺!!!?」
「うるせえなあアホカサ。ちょっと黙れや。お前みてえなアホに誘拐されるキノコがいるわけねえだろ。おい白いの、どうした」
「・・・べつに」
「ハン。また膨れやがって。ドクツルタケと喧嘩でもしたか」
「!!」
「図星か。わかりやすいキノコだ」
「え、シロちゃんまで喧嘩したの?誰と?どうして?」
「・・・だって、ドクツルタケが悪いんだ」
「ドクツルタケちゃんって、友茸かな?」
「アホカサ、ドクツルタケは男だ。こいつの友茸ってえかなんてえか・・・」
「友茸じゃないっ」
「あ?」
「ドクツルタケなんか友茸じゃないっ。あんなやつ・・・あんなやつ!」

シロフクロタケは傘の裏をすっかり桃色に染め上げて、思い出した怒りに柄を振るわせました。
震えながらも勢いそのまま、カエンタケの差しだした盃を受け取って中身を飲み干すのでした。

「って、何やってんだよカエンタケ!」
「おー、いい飲みっぷりだ」
「駄目だよこんな時間に女の子に酒飲ますなんて!」
「かてえこと言うな。ちっとだけだろ。おら、もう一杯いけ」
「カエンタケ!」
「いただきますっ!」
「シロちゃん!?」

シロフクロタケは飲みました。
一杯飲んで、ドクツルタケに友茸では無いと言われた事を言い、二杯飲んで、ドクツルタケに毒キノコにされそうになったことを言い、三杯飲んで、ドクツルタケに友茸では無いと言われた事をまた言い、四杯飲んで、ドクツルタケに毒キノコにされそうになったことをまた言いました。

「・・・ほぉー、ドクツルタケがねえ」

カエンタケが一杯目からずっと同じ返しをしていることには気づいていません。

「それで、それで、スギヒラタケはドクツルタケが私を毒にしようとしてるんだって言って、それで」
「シロちゃんを毒にしようだなんて・・・そんな」
「私もそんなの嘘だって思ったけど!でもドクツルタケは全然慌てたりしてなくて!私のこと友茸だとも思ってなかったんだし、本当に毒にしようとしてるんだ!ドクツルタケの馬鹿!馬鹿キノコ!」

激昂する彼女の隣では、カラカサタケが理解に苦しむというように傘をかしげています。

「変な話だなぁ・・・ドクツルタケ君はどうしてそんなことするんだろう。だって、シロちゃんはその子と仲良かったんだよね?」
「良かったよ?ふたりで一緒に何回もフンギーランドに行ったよ?ドクツルタケはいっつも優しくて、私が遅刻しても待っててくれたよ?私は友茸だと思って・・・おもってたのにっ・・・ドクツルタケはちがうって・・・」
「あ、あ、シロちゃん、泣かないで?よしよしよし。大丈夫だよ、きっと何かの誤解だよ。ドクツルタケ君は本当に友茸じゃないなんて言ったの?聞き間違えじゃなくて?だって、話聞く限りどう考えても友茸だよそれは。ねえカエンタケ?」
「いや話聞く限りどう考えても友茸じゃねえだろ・・・」
「なんで!?フンギーランドだよ!?二菌でだよ!?友茸以外の何があるんだよ!」
「カラカサ。お前もうちっと大人に・・・つうか男になれや」

カエンタケはそれ以上深くは言及しなかったため、カラカサタケにもシロフクロタケにも、ドクツルタケの言葉の意味は結局わからないまま終わりました。
・・・残念なことでございます。
代わりに、赤いキノコは空になった徳利を振って、さり気ない調子でこう言いました。

「しかしまあ、なんだな。本当に行くたぁ思わなかったが。あいつも意外に生真面目な奴だな」
「え?なんだって、カエンタケ」
「悪ぃな。ドクツルタケをけしかけたのはどうも俺みてえだ」
「!!」
「はあ!?」
「あの無表情な野郎が珍しく顰めつらして歩いてたんでな。ちょいとからかってやるつもりで、誤食が嫌ならシロフクロタケを毒に変えちまえって、方法ならスギヒラタケが知ってるだろって、まあそんなような事を言ったのさ。悪かったな、白いの」
「!!」
「カエンタケっ!!」

硬直してしまったシロフクロタケよりも早く、カラカサタケが本気の怒りの声を上げました。怒りにまかせてあまりにも勢いよく伸びあがり、柄の表面がまたすこし破けるほどでした。

「酷過ぎるぞ!食用キノコを毒にしようだなんて、菌をなんだと思ってるんだ!」
「お前も食用だったな、そう言えば」
「そうだよ、俺は幼菌をフリッターにすると美味いらしい。けど、今はそんな話をしてるんじゃない!可哀想だろシロちゃんが!今の自分を否定されて毒キノコになれなんて言われたら、誰だって傷つく!君だってそうだろ!?毒キノコやめろなんて言われたら傷つくだろ!キノコを否定するなんて最低だぞ!」
「!!」

シロフクロタケが大きく目を開きましたが、カラカサタケは気づきません。

「キノコは食も毒もよくわからないのも色々いる。色々いるからキノコなんだ。どのキノコにだって尊重すべき菌格ってものがある。相手のあり方を無視して、無理やり自分と同じにさせるなんてのは、相手の菌格に対する暴力だ!それが許されるなら、キノコは菌糸だけでクローン増殖してればいいじゃないか!何のために子実体を作って胞子を飛ばすと思うんだ?自分と違う物を作るためだろ!自分と違うと思った時に変えるべきなのは相手じゃない、相手を受け入れられない自分の狭さだよ!そうだろ!?」
「・・・ああ。そうだな。もっともだ」

言い募られたカエンタケが苦笑し、煮詰まった鍋の火を止めました。
カラカサタケは腹立たしげに箸で具材をかきまわしながらさらに言いました。

「もっともらしいことなんて、俺別に言いたくないけど!カエンタケはいつも、俺よりずっと懐が広くて他菌に文句つけたりしないじゃないか。なんでそんなこと言ったんだよ」
「なんでだろうな。まあ・・・俺も虫の居所がおかしかった」
「そういう時は早く俺のとこに来いよ!昼からだって鍋すればいいだろ!・・・まったく、キノコってのはほんと、鍋みたいにあるのがいいんだ。色んなのを詰め込んで、色んなのが入ってるほど美味しくなるんだ。ね、シロちゃん?カエンタケの言ったこと、気にしないでいいからね。ドクツルタケ君にも、僕から言ってあげるよ。だから仲直り・・・シロちゃん?」
「・・・・う、ふぇ・・・・」
「!!?」

鍋に気を取られていた男達は、そこでシロフクロタケの異変に気付きました。
彼女はいつのまにか、今にも溶け出してしまいそうなほど目にいっぱい露を浮かべて、嗚咽に柄を振るわせていたのです。

「シロちゃん!?」
「う、うえぇぇぇ・・・っ!」
「なんで!?なんで泣くの!?どうしたのっ!?」
「うぇぇぇっ!うわあああああん!!」
「あ、ちょっ、これ『鬼柳』一升瓶空いてない!?いつのまにこんなに飲んだのシロちゃん!?」
「うわあああああん!うわあああああああんっ!」
「どうしようどうしよう女の子泣かしちゃったよ、どう慰めたらいいんだカエンタケ!」

しかしカエンタケは面倒臭そうに煮詰まった鍋をつつくばかりでしたので、カラカサタケは一人で何か慰めの役に立ちそうな物を探して部屋中を歩きまわりました。

「あ、そうだ飴あるよシロちゃん、クヌギ樹液飴!実家から送って来たんだけど、美味いよー?・・・いらない?欲しくない?じゃあええとええと、これこれこれ、キンテンドースイッチやる?面白いぞー!今充電するから今」
「受験生が何やってんだお前」
「いや、だって、『マッシュルムラザーズ』が・・・そうだあシロちゃん!DVD見よう!名作あるぞぉ『13日の菌曜日』!」
「んなもん見せたら余計泣くわな。しょうがねえなぁ・・・おい白いの。うるせえから泣き止め」
「うっ、うえっ、ふええええっ」
「泣いてちゃわかんねえだろうよ、アホカサはアホだ。妙なホラー映画見せられたくなかったら手前ぇの口でちゃんと説明しろや。幼菌じゃあるめぇしよ」
「カエンタケ、またそんな言い方・・・」
「いっ、いっちゃ、た」
「え?シロちゃん、なに?」
「ドク、ツル、タケに、毒キノ、コ、やめろ、て、言っ、ちゃった」

シロフクロタケは泣き過ぎて、人間で言えば横隔膜にあたる部分が仮にキノコにあるとした場合にそこに変な泣き癖がついてしまったあの状態になってしまっておりました。

「わた、わたし、の、ほうが、先に、言ったん、だ・・・だから、どく、つる、怒って、あん、なこと、う、うええええええっ」
「そ、そうだったんだ・・・でも、でもさ、シロちゃんには全然悪気なんか無かったんだろ?そうだろ?」
「キノコを否定するなんざ最低だなあ」
「カエンタケーっ!」
「てめえが言ったんじゃねえか」
「そういう意味で言ったんじゃない!シロちゃん!ドクツルタケ君だってわかってくれる!きっともう怒ってない!怒ってないよ!ほら、君ら良く考えれば、おあいこって事じゃん。雨降って地固まってキノコ生えるってことだよ!ねっ!」
「カビが生えるんじゃねえか」
「カエンタケーっ!!」
「うるせぇなあ・・・」

泣き声と絶叫とため息と。
阿鼻叫喚のまま、鍋の夜は更けてゆきます。

まこと、キノコとは賑やかな生き物でございます・・・



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