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2007年1月8日設置 サイト→http://warakosu.syarasoujyu.com/
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あるところに下山咲(しもやまさき)という場所がございまして・・・

今日も人間と同じように、キノコ達が朝を迎えておりました。







菌曜連続に次こそ戻りたいドラマ
キノコな僕ら
第十五話 シロツメクサの朝


鳥の囀りは、人と同じようにキノコをも目覚めさせるものでございます。
都市ではめっきり見かけなくなったとも言われるスズメ達が、下山咲にはまだたくさんおりました。
チュン、チュン、チュン。
馴染みの爽やかな声でございます。

「シロちゃぁ~ん。朝よーぅ。そろそろ起きなさぁ~い?」

・・・前言撤回いたします。シロフクロタケを起こしたのは鳥でも爽やかでもなんでもなく、ツマミタケママの酒に焼けた声でした。

「ん~・・・ん?う、ん?あれ?ここは・・・あっ」

目覚めたシロフクロタケは戸惑いながら傘を起こし、人間であればこめかみにあたる部分に走った激痛に、そのまま蹲りました。
ツマミタケがひょいと入口から托枝をのぞかせました。

「おっはぁ~シロちゃん。頭イタイイタイでしょ~ぉ?あんなに飲むからよぅもう」

まるでシロフクロタケが飲む姿を眼前で見ていたかのごとく言うママです。
白いキノコは困惑しております。

「ツ、ツマミタケママ?ここ・・・ママのうち?」
「ていうか、お店ぇ?二階のお泊り部屋よぅ。あ、お泊りって言っても、そういうコトじゃないのよ。そういうコトに使ったりしてないから大丈夫。アタシ、そういうの結構潔癖なの。お酒の上で寝るなんて、駄目よ」
「・・・・えっと・・・」
「あらシロちゃんにこういうお話早かったかしら。もう、ごめんなさいねぇ~?とにかく、シロちゃんは昨日はここにお泊りしたのよぅ。覚えてないのぉ?」
「ん・・・」

シロフクロタケはちょっと考えました。頭が痛みます。

「カエンタケとカラカサタケとお鍋を食べて・・・それから、あんまり覚えてない」
「そこからッ!?じゃあ、ドクツルちゃんが心配してたことはッ!?」
「・・・・覚えてない」
「ドクツルちゃんがお店まで運んでくれたこともッ!?」
「・・・・・・・・・・覚えてない」
「んもぉぉぉぉぉう!シロちゃんもぉぉぉぉおおおう!!」

ツマミタケママはウシガエルのように慨嘆しました。

「シロちゃん酷いわッ!女の子の無自覚ってなんて残酷なのッ!ママもう目眩でダメ、今日お店開けらんないかもしれないワ、ああ・・・!」
「ツ、ツマミタケママ!大丈ぶ・・・!った~・・・」
「あら、シロちゃん。そうね、二日酔いだったわね可哀想に。ちょっと待ってらっしゃいねぇ、ママ特製の枯葉汁作ってあげるッ。あれを飲めば二日酔いなんて一発よぉ~ぅ!」

そんなわけで、半時も後にはシロフクロタケはお店のカウンターにちょんと座り、温かい枯葉汁をすすっていたのでした。

「シロちゃんどぉ~?その御汁、ちょっと味濃くなかったぁ~?」
「ううん、すっごく美味しいよ!ママ、ありがとう」
「ねぇ?最初は食べる気しないと思っても、これは飲めちゃうでしょ~う?シロちゃん、傘色もだいぶ良くなったわよぅ。安心したわぁ、ママ」
「ありがとう・・・その、ごめんなさいママ。心配かけて」
「いいのよぅ。キノコって助け合うものだから。きっともうすぐドクツルちゃんも来るわよぅ。シロちゃん、あれを見て?」

ツマミタケが指すのは、花瓶にいけたシロツメクサの花でございました。
人間にとってはそれは親指の先ほどの小さな花ですけれども、キノコにとっては小ぶりの牡丹ほどにも思われる大きさでございます。お店の中でもその白い花穂は際だっておりました。

「きれい・・・」
「あれねぇ、ドクツルちゃんがシロちゃんにって、帰り際にとって来てくれたのよぉ。アタシ、あんな綺麗なお花って見たこと無いわ。想いが籠ってるのよぅシロちゃん。わかる?」
「・・・ん。ドクツルタケ、私のこと許してくれた、のかな」
「馬鹿ねッ、それだけじゃないわよ~ぅ。シロツメクサの花言葉って知ってるッ?Think!of!me!よ!ハァァアァァァン!もう、胸がキュンキュンしちゃうわアタシッ!」
「・・・シンク??」

シロフクロタケは生粋の日本育ちでございました。英語はまったくいけませんでした。

「ハイハイハイ、シロちゃん、ちょっと動かないでねェ?アタシ、この花は絶対シロちゃんの傘に飾ってあげなきゃって思ってたのッ」
「!い、いいよ、そこに飾ってあるのが綺麗だよ」
「駄目よッ!ドクツルちゃんが来た時にシロちゃんがお花じゃないと駄目なのよッ!!ママに任せて!じっとしてッ!」
「・・・・・。ねえママ、私、昨日のこと全然覚えてないんだけど、何があったか聞いてもいい?」
「もちろんよ~ぅ。シロちゃんは、カエンタケちゃんに負ぶわれて帰って来たのよぅ」
「カエンタケに!?・・・あ、でも、それはなんとなく思い出せるような」
「あれもイイ男ね。アタシ、見直したワ」
「カエンタケがお店に連れて来てくれたの?」
「違うわよう。カエンタケちゃんはベニちゃんのおうちに連れて来たのよう。ていうか、カエンタケちゃんのおうち?それで、ママ達はシロちゃんを探してちょうどそこにいたから、めでたしめでたしってワケ。お店まで連れて来たのはドクツルちゃんよ~ぅ?シロちゃん、おうちに帰りたくないって泣くんだもの~」
「え!?そんなこと言ったんだ私・・・ドクツルタケ、きっとまた怒ったね」
「ンなワケないでしょぉ~う!?このお花を見て頂戴!怒ってる相手にお花なんて取ってきてあげるわけないじゃない!ドクツルちゃんは言ってたわ、『これ、シロが目覚ましたら、あげて』。ハァ~ッ、アタシ、カエンタケちゃんもいいと思ったけど、やっぱりドクツルちゃんだわぁ。ドクツルちゃんイチオシッ!シロちゃん、ママも長い事この業界やってるけど、あんなイイ茸見た事ないわよ、シロちゃんどう思うのッ?」
「私?もちろんそう思うよ、ママ。ドクツルタケは本当にいい茸だよね!」
「それだけッ?」
「うん!絶対にいい茸だもん、他に無い!」

そうではない、そうではないのでございます。

「シロちゃん・・・そう、いいわ。それがシロちゃんだもの、いつか目覚めるってママ信じてる。さ、できたわよぅ。とってもかわいいわぁ~ン!」

シロフクロタケの傘に、ぽんと白い花がつきました。シロフクロタケは自分では良く見えませんけれども、少し頭を動かして、花の揺れるのを感じました。
はにかんで笑う姿を、ドクツルタケこそが見るべきだったでしょう。しかし彼はいません。

「ママ、ありがとう!」
「お礼はドクツルちゃんに言わなくちゃねッ。・・・それにしても遅いわネ。まだかしら」
「あ、そうだ。カエンタケにもお礼言って謝らなくちゃ。連れて来てくれたの、カエンタケなんだもんね」
「お店まではドクツルちゃんよ」
「ちょっと私、行ってくる!すぐ戻るから、ドクツルタケが来たらママよろしく!」
「エッ!!?ちょっと待ってシロちゃんッ!ドクツルちゃんが来てから一緒に行けばいいじゃないの、ねえッ!」
「だって私が悪いんだもん!ドクツルタケまでつきあわせられないよ!行ってくる!」
「シロちゃん!シロちゃぁ~んッ!!」

シロフクロタケは行ってしまいました。シロツメクサをふわふわ揺らしながら。
そして大体こういう時にはそういうものですが、正に入れ替わりでありながら決して鉢合わせはしないというタイミングで、ドクツルタケが店にやってきたのでした。

「はぁっ、はぁっ、寝坊したっ!ママ、おはようっ。シロはっ!?」
「・・・丁度今さっき、行っちゃったわ」
「っ!どこに!?」
「カエンタケちゃんのとこ。お礼言いに行くって」
「っっっ!!なんで待たねぇんだよあいつっ!」
「許してあげて・・・シロちゃん、走るキノコなのよ」
「なんだよそれ・・・」
「まぁ、すぐに戻るっていってたワ。ドクツルちゃんも、枯葉汁どぉう?飲んでゆっくり待ってなさいよぅ」
「いや、俺腐生菌じゃないからそういうのは・・・」
「ママ、おっはぁ~!!」
「あら、カニちゃん。早いわね」

ドクツルタケは思わず恨めしげに、出勤してきたカニノツメを見やってしまいました。これがシロフクロタケならどんなに良いかと思ったのでした。
似ても似つかぬキノコが、その視線に気づいてどぎまぎと頬を染めております。

「やだ、なに、ドクツルタケちゃん、そんなにアタシのこと見つめて・・・メイク、変?」
「いや・・・別に」
「別になによう、照れちゃう。あ~ン、ドクツルちゃん朝からイイ男!」
「・・・・・。ママ、俺もカエンタケのところ行ってくる。それじゃ」
「えっもう行っちゃうの?うっそぉ~いけずぅ!あ、気をつけてね。回り道して行った方がいいわよぉ、念のためだけどっ」
「・・・なんで?」
「ん~、なんかね、スギヒラタケがいたのよね、真っ直ぐ行ったところに」
「!」
「別に何がってことないんだけどぉ、ヤな感じがしたのよぉ~。向こうはアタシのこと気づいてなかったんだけどぉ、でも普通、歩きながら一菌でニヤニヤしてたら変じゃなぁい?しかもこぉんな長い尖った杉の枝持って、あの子何しに行くつもりなのかしらってアタシ・・・あッ!?」

カニノツメは盛大に尻もちをつきました。
ドクツルタケが傘の色を変えて彼女(♂)を押しのけ、店を飛び出したのです。
さらに続けてツマミタケも、

「カニノツメッ!ちょっとお店頼んだわッ!!」
「え?え?なに?どうしたのよママ~っ!」
「枯葉汁食べちゃってていいわよーぅッ!あんたの好きなウッドチップ入ってるわぁーッ!」

飛び出して行きました。
カニノツメは呆然と、見送るばかりでございました。



ちょうどその時、カエンタケの家を目指していたシロフクロタケは、大きな椎の木の横を曲がろうとしておりました。

「えっと、ここを曲がって真っ直ぐ行けば、と・・・」
「見ぃつけた」
「!あ、君は」
「スギだよ。おはよう、シロフクロタケ」

それは、あってはならない出会いでありました。

まこと、キノコとは風雲急を告げるものでございます・・・


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あるところに下山咲(しもやまさき)という場所がございまして・・・

まるで人のようなキノコ達が、傷ついたり、傷つけたり、傷つけたせいで傷ついたりしながら、生きておりました。

きっと生き物とはすべからく、傷つけあうものなのでございましょう。
けれど決して、そうしたいわけではないのでございます。

ただ自分の道を、生きたいだけなのでございます。





菌曜連続なんてとんでもないドラマ
キノコな僕ら
第十四話 キノコがキノコであるために


「・・・それでお前さんがた。探し物は見つかったんだろう。用が済んだらいい加減、帰っちゃくれねえか」

と、カエンタケが言いました。
もっともな事でした。もう夜も更けに更けて、いっそ夜よりも朝の方が近いくらいの頃合いなのでした。
ドクツルタケがすぐに反応して、まだしゃくりあげているシロフクロタケの手を引っ張りました。
「シロ。帰るぞ」
「・・・やだ」
「やだぁ?」
「かえりたく、ない」
「なんで」
「きらわれ、てる、のに・・・ひとりに、なるの、やだ」
「・・・なんだよそれ。嫌ってないって言ってるだろ!」
「どくつる、たけ、怒ってるからっ・・・!」
「~っ!怒ってねえよっ。ここにいてもカエンタケに迷惑だろ。家まで俺送ってくし、こんな時間にお前一菌になんてしないし」
「でも、送ったら、どくつるたけ、帰る」
「・・・そりゃそうだろ」
「ほんとは、いっ、いっしょにいるの、嫌だからでしょっ?」
「違ぇよ!俺だって・・・だって、帰らなきゃ俺、どうするんだよ」
「どう、し・・・それ、なら、どくつるたけんち、行く」
「は?」
「うち、じゃなくて、ドクツルタケんち行く。今日、泊めて?」

・・・・空気が一瞬固まったのでございます。

「!!ふっざけんなよお前!絶対駄目!絶っっっ対!駄目だから!」
「!ふぇ・・・!」
「おいおいおい、また泣くだろうるせえな。泊めてやりゃあいいじゃねえか、減るもんじゃなし」
「駄目に決まってるだろ!俺もう頭ん中ぐっちゃぐちゃなんだよ今日!こんなままこいつ家に入れたら、何するかわかんねえよ!」
「何でもしろよ、もうこりゃ合意だろう」
「んなわけないだろ!あんたさっき友茸から始めろとか作法があるとか言ってなかったか!?」
「忘れた」
「おい!」
「あ、あの、シロフクロタケさん。もしよろしければ、ここにこのままお泊りになりますか?お家にお帰りになりたくないのでしたら・・・」
「ベニぃ、無粋な真似するんじゃねえ。ここぁ俺の家だ。俺もなんだかんだで疲れてんだぜ。こっからはお前とふたりだ、誰も泊めねえぞ」
「!」
「!!カカカカカエンタケ、おめ、まさかこの後、ベニナギナタタケさんと・・・!」
「あァ?今更何言ってやがる。俺達がどれだけ一つ傘の下で暮らしてきたか、知らねえわけじゃあねえだろう。何もねえはずがねえや、なあベニよ?」
「!わ、わ、わ、私はそんな・・・!」
「わかったら出て行きなオニフスベ。お前が入りこむ隙なんざ、菌糸一本分もありゃしねえぞ」

オニフスベは出て行きました。夜目にもわかるほど枯れ色に変じ、涙代わりの胞子をむせび撒きながら。
カエンタケはただただうんざりしておりました。

「・・・ようやく一匹片付いたな。さ、残りの奴らもとっとと失せろぃ。ドクツル、そいつさっさと連れて帰れ。やりてえならやっちまえ。じゃあな・・・」
「駄!目!よぉぉぉぉぉぉおおおおおう!!!!!」

絶叫したのはツマミタケママでございます。

「御年頃のドクツルちゃんとシロちゃんがそんなこと!不純だわッ!!絶対駄目よぉぉぉぉぉぉおおうッ!!」
「・・・年頃ならいいんじゃねえのか別に」
「しかもお酒の上でなんてッ!!お酒ってロクなもんじゃないのよ!こう見えてもアタシはスナックのママよ!お酒が最低の飲み物だってこと、よぉぉぉっく知ってるのよッ!!」
「どう見てもお前は水商売の野郎だが、そんな奴が商売道具をボロクソ言っていいのかぃ」
「シロちゃんはアタシのお店に泊めるわ!それが一番よッ!」
「一番不純じゃねえか。お前もそっちの奴も、野郎だろう明らかに」
「シロちゃん、いいわネッ?今日はママのお店にお泊りよッ!」
「うん、ありがとう、ツマミタケママ」
「・・・な?別に俺じゃ無くたっていいんだあいつ。何が合意だ」
「気持ちはわかるが愚痴るなよ。だから言ったろう、さっさと連れて帰れって」
「次はそうする。・・・あー俺何言ってんだ!もうほんと今日駄目だ!」
「行くわよシロちゃん!さ、カニちゃん、あんたシロちゃんおぶって頂戴。夜道は女の子には危ないわっ」
「え~ママ、あたしだって心は女の子ぉ~」
「あんたなんかまだ半菌前よッ。いいから早くシロちゃん・・・」
「いいよ俺が連れてく。なんかもう、誰もこいつ触んないで腹立つから」

こうして結局、ドクツルタケがシロフクロタケを担いで歩くことになったのでした。



騒がしい一同を見送った後には、風ひとつ訪れない緊張した静けさが戻りました。
カエンタケはぴたりと言葉を収め、煙管を出してつけました。
ベニナギナタタケはおずおずとその様子を眺めて、何も言えぬまま座っております。
煙をひとつ、ふたつと昇らせてから、ようやく、男の方が言いました。

「・・・静かになりやがったな」
「はい。・・・・・」
「また無口に戻ったか。あいつらと混ざっている間はいっぱしの口を利けたようだが」
「あ、あれは・・・その、申し訳ありません」
「悪いとは言ってねえ」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・あの、どうして、あのようなこと」
「なんだ」
「オニフスベさんに・・・誤解を」
「されちゃ困るのか」
「それは・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・あの、シロフクロタケさん、大丈夫でしょうか」
「枯れやしねえよ。心配すんな」
「・・・・・。カラカサタケさん、お元気でしたか」
「元気過ぎてアホに磨きがかかってたぜ」
「そう、ですか・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・あの、それと」
「なあ、ベニよ」
「!」
「お前、山に帰らねえか」

ベニナギナタタケは、こぼれそうなほど瞳を開いて、カエンタケを見つめました。
すんなりと朱に透き通る首が震えます。

「・・・・え・・・?」
「このまま俺と一緒にいても仕方あるめえよ」
「仕方、ない・・・?」
「俺ァ、お前の怯えた顔を見るのが嫌になっちまった」
「!」
「お前を嫌になったわけじゃねえ。そこは間違うなよ。だがな、俺は毒キノコだ。昔も今もそうだ。俺は変わったつもりはねえんだ。昔も今も、俺を食う奴がいたらそいつは死ぬ。食うか食わねえかは人間の裁量だ、人間でなんとかしろって、俺はそういう性分さ。薄情かも知れねえが、猛毒菌であることに一々悩みやしねえ。お前にとってそれが辛いなら、俺達ぁ一緒にいるべきじゃねえよ」
「そんな・・・」
「それにこれでも俺ぁ女に袖濡らさせるのが嫌いなタチだ。お前が泣くのを見るのが辛い」
「・・・・・・」
「お前はやっぱり山のキノコだ。山のキノコは山に咲く。里のキノコは里に棲む。そういうことにしようじゃねえか」
「・・・・私は・・・いや」
「まあ、考えてみる事さ」
「カエンタケ・・・」
「俺ぁ、もう寝る」

そうして男は奥へと消え、家の中は一層の沈黙と闇に埋め尽くされました。
灯の消えたような、キノコの住処でございます。



さて一方で、そこを後にした一行はというと、これはまだいささか騒がしゅうございました。

「待って、待ってドクツルちゃん!あんた足、速いわあ」
「いやァん、托枝が引っかかっちゃった、置いてかないでママぁ~!」
「・・・・・」

ドクツルタケはわざと急いでいるのでありました。
背中にシロフクロタケを負ぶったまま、早く余計なキノコ達から離れたかったのです。
きゃんきゃんとイタドリをこそげるかのごときツマミタケとカニノツメの声が、やがて後ろの叢へ置き去りにされてゆきます。
影絵になった梢の向こうに、欠けた月が浮かんでいます。
ドクツルタケは考えていました。

「・・・シロ。俺、お前のこと、大好きだよ」

そう言ったのは、言わずにおれなかったからでした。
彼の白い胸には、もう苛立ちもやるせなさもありませんでした。
ただ、わんわんと泣いていたシロフクロタケの声と顔が、時がたつにつれて大きくなっていくばかりだったのです。

「友茸じゃないって、お前が思ってるような意味じゃないんだ。お前のこと友茸よりもっと大事だって意味だったんだ。それにお前を毒キノコにしようなんて俺、思ったこと無いよ。本当に・・・でもごめんな、誤解させて」

少し背を揺すって、ずり落ちそうなシロフクロタケを背負いなおします。

「・・・お前のこと怒ってもいないよ。だから、お前はもう謝ったりしないでいいし・・・泣かないで欲しいし・・・俺もお前に、謝ったりさせないようにするよ。お前のこともっと大事にして、お前がそんな風に思わないで済むようにするよ。だから」

ドクツルタケはちゃんと気づいておりました。
肩の上にもたれかかるシロフクロタケの小さな顔が、心地よく寝息を立てている事に。
けれど・・・

「だから、俺から離れていかないで、シロ」

彼は言わずにおれなかったのです。


まことキノコというものは、ひたむきに生きるものなのでございます・・・
「マッシュルームちゃんは蟹の好みと思います。のりぴー枠で」

という拍手コメントをいただきました。
確かに。そうかもしれない。でもどうなの。合うの二人は。

ということで、検索かけて色々レシピを見てみたんですけどね。
当たり前だけどレシピしか出て来ないよねこのワードはね。

そしたらですね、マッシュルームを入れたカニクリームコロッケの作り方が出て来たんです。


枕営業だと思いませんか皆さん。


カニクリームコロッケにマッシュルームみじん切り、入れる必要ある!?
明らかに無理矢理じゃん。どっちが仕掛けたのよ。マッシュルームが一緒に入ろ♡って言ったの?それとも蟹が要求したの?どっちにしても引くんだけど。男の下心ありありだろ、クリームコロッケの中に一緒に入るってお前。

しかもマッシュルーム的には蟹は踏み台に過ぎないでしょ。蟹と共演したがってると見せかけて本当に狙ってるのは小麦とのコネクションでしょ。
そりゃそうだ、蟹と一緒にいたってどうせ引き立て役にされて終わるもんね。まだ牛と一緒の方がバイプレイヤーの価値を認めてもらえる。蟹ってそういう存在よ。

あと、そもそもカニクリームコロッケに蟹要るか?って私は薄々昔から疑問に思ってました。
マッシュルーム入れるようになったら、面倒だし高いからって蟹はそのうち干される気がしますよ。キノコクリームコロッケで十分美味しいことに世界が気づいてしまう。

騙されるなよ蟹。マッシュルームはお前のためにならない。
男としても高級食材としても、一線引いた付き合いを心がけてほしいと思います。
あるところに下山咲(しもやまさき)という場所がございまして・・・

人間もキノコも、日々暮らしていく中では時に事件も起こります。
大きなもの、小さなもの、大きいと思いきや小さかったもの、それは色々ございますが、果たしてそうした事件が起きた時に、人は、キノコは、どうするべきなのでしょうか。

同じキノコと言えど、そこには個性があるものでして・・・






菌曜連続では無いドラマ
キノコな僕ら
第十三話 シロと涙とキノコの愛と


・・・少し、時間を戻りましょう。
シロフクロタケが鍋を突いたり泣いたり眠ったりしていた間、下山咲の離れた場所ではまた別のドラマが進行しておりました。

ドクツルタケでございます。

シロフクロタケを追いかけ、そして見失ってしまった彼は、オニフスベと別れた後もずっとシロフクロタケの生えそうな場所を探していたのでした。
草地、畑地、枯葉の積もった森の中の空き地・・・腐植の多い土地をいくら探しても、シロフクロタケの厚みのある傘は見当たりません。
とうとう、彼は菌糸の先をシロの懇意の店にまで向けました。スナック「ツマミ」でございます。

「・・・すみません、こっちにシロフクロタケ来てませんか」

純白なハラタケ型のイケ菌の到来に色めき立ったのはツマミタケママでした。ツチグリを追い出した後ロクに客のいなかった店内に、その歓迎の声はつんざき渡りました。

「んまぁドクツルちゃん!?御無沙汰じゃなぁーい、いつ以来ィ?ちっともお傘見せてくれないから、もう飽きられちゃったかと思ったわよぅ!」
「いや、飽きたっていうか、俺ここ来たのシロに連れられて1回だけ・・・」
「嘘よう!ドクツルちゃんはシロちゃんのお話にいっつも出てくるんだもの、心は私達と一緒にいたも同然よう!」
「・・・すげえ嫌なんだけどそれ。っつうか、シロが俺のことそんなに話してたの?」
「話してたわよ~、ドクツルちゃんが笑わないとか、ドクツルちゃんが口数少ないとか、ドクツルちゃんが話合わないとか、ノロケてたわ~」
「それ絶対ノロケじゃない。俺、そんな風に思われてたんだ・・・」

一体今日一日で何度傷つけばいいのか。ドクツルタケは傷に傷を重ねて最早土に還る寸前の精神状態です。

「・・・シロ、いないんだよな。じゃ」
「待って。シロちゃん?シロちゃんがどうかしたの?」
「・・・・・なんか、いなくなった」

逃げられた、とは辛すぎて言えませんでした。

「!!はっ!もしかして!」

と、ツマミタケママ。

「あの子、スギヒラタケのところに行ったのかもしれないわッ!!」
「・・・それは俺も知ってる。行ってた。それで、そこからダッシュでどっかに消えたんだけど、どこ行ったかがわからない」
「あらそうなのぅ?変ねえ。お店には来てないわねえ。ねえカニちゃん、シロちゃん来てないわよねえ?」

聞かれたお店の女の子(♂)、アカカゴタケ科アカカゴタケ属のカニノツメが、ツインテールな托枝に塗りたくったグレバを振り飛ばさんばかり首を横に振ります。
臭いが店に充満し、ドクツルタケは思わず息を浅くしました。
ツマミタケママは言いました。

「これ、女のカンだけど。シロちゃんは、ベニちゃんのところに行ってる気がするわ」
「ベニナギナタタケ?」

というわけで、ドクツルタケと、なぜかツマミタケにカニノツメまでがコナラの林まで菌糸を延ばしてベニナギナタタケを訊ねたのであります。
しかし、シロフクロタケはいませんでした。
ママの勘は外れました。たぶん、それほど女では無かったからでしょう。

「あ、あの・・・カエンタケは今、出かけておりまして、その」

いきなり得体の知れないキノコ達に押し掛けられたベニナギナタタケは当惑の至りでございました。

「どちらかのお店の方ですか?ツケの御支払いなら、カエンタケが戻りましたらすぐに」
「ちょっと。カエンタケちゃんどういう飲み方してるの。ベニちゃんにこんなこと言わすなんて」
「べ、べにちゃん?あの、私、どこかで貴方とお会いしたことがありましたでしょうか」
「心はね、いつも一緒だったの。シロちゃんのお友茸だから」
「え・・・?」
「ごめん。気にしなくていい。ちょっとシロフクロタケが来てないか聞きに来ただけだから」
「シロフクロタケさん?」

ベニナギナタタケは円らな深紅の瞳をぱちぱちさせました。

「シロフクロタケさんなら、ええ、お昼前ぐらいでしたでしょうか、この少し先でお会いしましたけれど。私が生え直す前のことです」
「いやそんなに前じゃなくて。つい今さっき、どっか行っちゃって見つからないんだ。ここにいたり・・・しないよな?」
「そうですね。うちにはいらっしゃいません」

嘘の気配もないベニナギナタタケは、首をかしげて、ごく常識的な事を言いました。

「もう夜ですし、おうちに帰っておられるのでは?」

そこでなぜかベニナギナタタケも加わって、四本のキノコはシロフクロタケの家まで行ってみたのです。
が、やっぱり彼女はいませんでした。

さあそこからが俄然大変になってまいりまして、四本は手分けをして近所を捜しまわりました。

「!おい、あんた!オニフスベ!!」
「!!!?どどどどドクツルタケっ!?なななななんでごわすっ?」
「シロフクロタケ見なかったか!?どこにもいねえんだよあいつ!」
「シロフクロタケ・・・は、み、みなかっ・・・」
「おい。嘘言ったら寄生するぞ。できなくてもする。本当にシロがいないんだよ。あんた、何か知ってんだろ?なあ」
「ひっ」
「オニフスベさん、お願いです。何かご存知の事があるなら、どうか教えて」
「ベ、ベニナギナタタケさ・・・」
「ちょっとぉぉぉぉぉ!!シロちゃんが大変なのよおおおお!!あんた知ってるなら吐きなさいよこの白はんぺんキノコおおおおお!!ぐずぐずしてるとカニノツメちゃんがあんたをぶっ刺して中にグレバ埋めるわよおおおおおっ!!!」
「ひいいいいいいっ!!ご、ごめんでごわす!言うでごわすーっ!!」

オニフスベは吐きました。シロフクロタケに頼まれてドクツルタケに嘘をついた事を。

「・・・あんたが人間なら、俺、確実に食わせてる。俺を」
「申し訳ないでごわす!申し訳ないでごわすっ!!」
「でももとはと言えばシロが頼んだんだよな・・・くそっ、あいつほんと馬鹿!」
「オニフスベ、あんたも一緒に探すのよッ!どうせ暇なんでしょッ!しぼんでる場合じゃないのよッ!!」
「ひい!」
「みんないい!?手分けして探して、とりあえず一時間後にお店に集合よ!」
「あの、申し訳ないのですが、私、お店を存じ上げてなくて・・・」
「あら。そうだったわね。じゃ、シロちゃんのおうち・・・え?それはオニフスベちゃんが知らないの?そうなの?じゃ、仕方ないわ~もう、ベニちゃんのおうちに集合よ!必ずシロちゃんを見つけ出すのよ~ぅ!!」

なぜか拠点がベニナギナタタケの家・・・もといカエンタケの家になり、ツマミタケママが陣頭指揮を取っておりました。

そうして瞬く間に経った一時間後。

全員が手ぶらで、カエンタケの家に集まることとなったのです。

「シロっちゃああああああん!!!どこにいるの!!?どこに行っちゃったのよぉぉぉぉぉおおお!!」
「だ、団地も公園も街路樹の下まで探したっども、どこにもいなかったでごわす」
「ママ。こんなこと言いたくなかったんだけど・・・もしかしてこれって本当に、誘拐?」

カニノツメが角ばった柄を抱きしめて震えております。筋肉質に見えて意外に脆い、内面は乙女なキノコなのです。
彼女(♂)の言葉を聞いたドクツルタケは、ほとんど青く透き通るほど憔悴しました。

「やばい・・・本気で怖くなってきた」
「お、おいどんのせいでごわす!!おいどんがあの時、嘘なんかつかなければこんなことには!」
「仕方ねえよシロが頼んだんだから・・・でも、なんかあったら一発殴らせろよ」
「こんな時に限ってカエンタケがいないなんて・・・私では何のお役にも立てなくて・・・シロフクロタケさん、どうか無事でいて・・・!」
「アタシのせいよおおおおおおっ!!アタシが!アタシがシロちゃんにあんなこと言ったからよ!!ドクツルちゃんを止めてなんてアタシがあああああああ!!!!
「おい、誰かママを止めろ」
「シロちゃんが誘拐なんて嘘よォォォォっ!あんな可愛い子がっ!!あんな可愛くてピュアでキノコを疑う事を知らない子が誘拐なんてぇぇぇぇ!!!」
「なあ明らかに誘拐されるしかない言葉並べんの今マジでやめて欲しいんだけど」
「キノコ狩りよ!!きっとキノコ狩りにやられたんだわッ!!人間どもがシロちゃんを連れて行ったのよ!!」
「こんな夜中にキノコ狩りする奴いないだろ・・・」
「もうダメ!!菌糸よッ!!アタシ菌糸するわッ!!菌糸よぉぉぉぉぉーーーーーぅッ!!!」
「あんたが菌糸してもシロが見つかるわけじゃねえだろ!静かにしてくれよ頼むからっ!」

菌糸とは、キノコが己を厳しく罰する行為でございます。
人間で例えるのは難しいことですが、強いて言えばそう、指詰めと言ったところでしょうか。
ツマミタケママの覚悟と勢いが伺われる言葉でございます。

しかし、結局ママは菌糸をしないで済みました。
というのもその時、

「・・・こんな時間に何だお前ら、傘揃えやがって」

カエンタケが帰って来たからでございます。

「!カエンタケ!」
「ベニ。うるせえ客には帰ってもらえ・・・って、ドクツルタケがいんのか。丁度いい。お前、こいつ何とかしろや」
「!!シロっ!!」

あんなに探したシロフクロタケが、すやすやと寝息を立てて、カエンタケの背中にしがみついているのでした。
ドクツルタケは咄嗟に駆けよろうとし、

「シロっちゃああああああああん!!!!!」

ツマミタケの勢いに弾き飛ばされました。

「シロちゃん!!無事だったの、無事だったのねえええええっ!!!!」
「てめえ何だ、ツマミタケか。てめえは呼んじゃいねえ・・・」
「シロフクロタケええええっ!良かったでごわす!良かったでごわす!!」
「!お前ぇまでいるのかオニフスベ。二度とここに傘出すなっつったはず・・・」
「カエンタケ、一体、何がどうなってあなたが」
「・・・俺が聞きてえ」
「!?ちょっとお酒ッ!?お酒臭いわッ!アタシのシロちゃんがお酒よッ!!どういうことッ!?まさかあんたが飲ませたんじゃないでしょーねッ!?」
「・・・・・・まあ、俺だけどよ」
「なんてこと・・・!シロフクロタケさん、シロフクロタケさん、大丈夫?」
「お前ら、ちったぁドクツルタケのために隙間開けてやれって」

しかしドクツルタケは最早完全にタイミングを失って、少し離れたところからぽつんと、無事だったシロフクロタケを眺めるばかりでした。
彼はカエンタケと目が合うと、こんな気配りまで見せました。

「カエンタケ。面倒かけたみたいだな。シロ、なんかやらかしただろ」
「・・・話通じそうなのはお前さんだけだねえ」

不遇な毒キノコ達でございました。

「おい、シロ!シロ!シロフクロタケっ!起きろよいい加減!」
「・・・・ん?」

ドクツルタケがシロフクロタケの側まで寄れたのは、収まらぬ騒ぎとちっとも起きない背中の荷物にどうしようもなくなったカエンタケが、しぶしぶこれまでのいきさつを説明し、一同を安心させた頃合いでした。
肩を掴んで揺さぶられ、シロフクロタケはようやくむにゃむにゃと傘を起こして目を開いたのでございます。

「ドクツルタケ・・・?」
「ドクツルタケじゃねえよ!お前、散々みんなに心配かけて何やってんだ!今何時だと思ってんだよ!俺ら今までずっとお前探して走り回ってたんだぞ、キノコなのに!」
「う・・・・」
「ドクツルタケさん、どうかそんなにきつく言わないであげて・・・」
「それがお前は何だ!?知らないキノコの家にホイホイついてって、そいつの家で鍋食ってた!?しかも酒飲んで酔って、カエンタケに迷惑かけながら帰って来た!?ふざけんじゃねえぞ馬鹿っ!」
「ううっ・・・」
「泣きたいのはこっちだ!お前のことなんか心配して大損したっ!!」
「う、うえぇぇぇっ」
「ちょ、ちょっとドクツルちゃん、言いすぎよーぅ」
「そうでごわすそうでごわす、無事だったんだから良しとせんといかんでごわす」
「ドクツルタケさん、知らないキノコと言っても、カラカサタケさんは本当に良いキノコなのです。シロフクロタケさんにもきっとそれがわかったのでしょう。ですから決して危ない事をしたわけでは」
「何言ってんだお前ぇら。甘ぇ。こういうのはしっかり言っとかねえと駄目だ。カラカサだったからいいようなものの、悪ぃキノコに引っかかってたらタダじゃあすまねえぞ」
「カエンタケ!だったらあなたが一言連絡をくれれば良かったではないですか」
「俺はガキのお守じゃねえぞベニ」
「うっ、うえぇっ、ごめんなさい、ごめんなさいっ」
「シロフクロタケさん、いいの。泣かないで?ね?私達、とにかくあなたが無事でいてくれて本当に良かったと思っているのよ。だから・・・」
「謝って済むか馬鹿っ!」
「ドクツルちゃぁ~ん、もういいでしょーぅ?」
「良くねえよ!どうせすぐ忘れんだこいつ!」

周りが落ち着いたせいでしょうか、ドクツルタケは今になって腹立ちがおさまらなくなってきた様子でございます。
シロフクロタケはそんな彼の厳しい言葉に、縮こまって泣きました。

「う、うえぇぇえっ。ドク、ツルタケ、は・・・私のこと、きらい、なん、だ」
「あぁ!?」
「や、ぱり、そうなん、だ・・・毒キノコ、やめろ、て、言ったから」
「なに!?なんだって!?」
「ごめんねぇっ?ごめんね、ドクツルタケぇっ・・・ごめんね、ごめんねぇっ・・・!」
「ちょ・・・なんだよ!しがみつくなよ!何言ってんだよおい!」
「わたし、が、悪かった、から・・・きらい、に、ならないで・・・」
「嫌い?って、今そんな話してねえだろ!お前が馬鹿だっつー話してんだろ!」
「ふぇ・・・!」
「あ、おい!」
「ド、ドクツルタケ、に、きらわれ、ちゃっ・・・うえぇぇぇえっ!ふええぇぇぇんっ!!」
「嫌ってねえよ別に!嫌ってねえって!お前どこまで馬鹿!?嫌いな奴のことこんなに探しまわったりするわけねえだろ!」
「うわああああん!ドク・・・きらい、て・・・うわあああん!」
「言ってねえよ!?一言も言ってねえよ俺はっ!つうか・・・あーもう!俺は好きなんだよ!お前のこと大好きなんだよ!いい加減わかれよ!なあ!」
「うわあああああん!!うわああああああああああんっ!!」
「聞いてる!?お前ちゃんと聞いてた今の!?」
「ドクツルタケにきらわれたよぉっ・・・ごめんねぇっ!?」
「っ・・・聞いてねえし~っ・・・!」
「うわああああああんっ!」

ドクツルタケの猛告白も大泣きするシロフクロタケの耳には全く届かなかったのでした。
がっくりと落ちた彼の肩を、ぽん、とカエンタケが叩きました。

「ドクツル。まあ・・・焦んな。その白いのに惚れた腫れたは早ぇや。友茸から始めてやんな」
「~~っ、あんたに何がわかんだよっ」
「作法ってのがあんだよこういうのは」
「そうよドクツルちゃん。焦らないで。愛もキノコも永遠だから、時間はたっぷりかけていいと思うの、アタシ」
「黙れよ!」

ドクツルタケは、もう十分時間はかけたと思ったのでした。

まこと、キノコには鈍いのもいるものでございます・・・



少し前にエロ画像で登場したふたり。

右:ショウゲンジ。うら若き女虚無僧。
毒の名門テングタケ科に比べると知名度は劣るものの専門家からは「食うべきではない科」として恐れられているフウセンタケ科にあって、しかし彼女自身は毒の無い清らかな食菌であることから、一族の罪滅ぼしのための善行功徳を積む宿命にありとして諸国行脚を命じられた少女。美菌。
青春真っ盛りの自分が何でそんな抹香臭いことをしなければならないのか。一族の罪って言ったって大戦犯のコレラタケとヒメアジロガサは最近フウセンタケ科から抜けたじゃん。
色々言いたい事を抱えたまま旅に出された彼女は、この境遇から救ってくれる白馬の王子様を夢見て、旅路で出会う男達と片っ端から恋に落ちる。
隠れ不良、隠れ外道、隠れ既婚者、隠れサイマー、隠れアル中、隠れヤク中、隠れ詐欺師、隠れ殺人鬼・・・余の中の隠れた悪を見つける天才にして死ぬほど男を見る目が無い女である。
もともと素直に育った美味しいキノコなので、他菌を疑う事を知らないのである。護衛がいなければ彼女のキノコ的貞操が今頃どうなっていたかわからない。

好きなタイプは素敵な年上。嫌いなタイプは汚いオッサン。
乙女心って難しい。


左:ジンガサドクフウセンタケ。ショウゲンジの道中護衛を務める男。
ショウゲンジの所属するフウセンタケ科フウセンタケ属は、フウセンタケ科の中でも毒の無いキノコの属だったのだが、そこに日本で初めて登録されてしまった猛毒菌が彼である。その十年後にドクフウセンタケが発見され登録されたのでオンリーワンでは無くなった。ジンガサドクフウセンタケが先、ドクフウセンタケが後である。ややこしい。
ショウゲンジからは汚いオッサンの権化だと思われている。毛嫌いされているが本菌は全く気にしていない。曰く「可愛い女の子は何やっても可愛い」。そういう事を言うからますますキモがられるのである。
好きな物はエロい女。嫌いな物はショウゲンジの惚れる男たぶん全部。ショウゲンジが惚れるから嫌いなのではなく、彼が嫌いなタイプの男にばかりショウゲンジが惚れる。

ジンガサが日本で発見されたのは最近だが、実はヨーロッパでは昔から知られた毒キノコであり、数カ国を股にかけて活躍してきたマルチリンガルな男である。ショウゲンジは知らない。ただの小汚いオッサンだと思っている。
毒成分はオレラニン。悪名高い除草剤パラコートと類似の構造を持ち、腎臓を破壊する。致命的な症状が食ってから3週間後に出るという周到さで長くバレずに仕事を行ってきた暗殺のプロである。ショウゲンジは知らない。ただの薄汚いオッサンだと思っている。
腰に愛刀を差し戦闘力は極めて高い。が、ショウゲンジの前で闘った事が一度もないため彼女はやはり知らない。ただの根性無し汚いオッサンだと思っている。
彼の戦闘能力は、主に、ショウゲンジのロクでもない恋人達に対して秘密裏に披露されてきたのである。



あまりにも恋人に逃げられる(消えられる)ので、ショウゲンジの乙女心は焦り気味。
このままではそのうちジンガサに嫁ぐことになるのではないかと心から怯えている。

残念ながら、その予感は後に的中する。

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