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2007年1月8日設置 サイト→http://warakosu.syarasoujyu.com/
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あるところに下山咲(しもやまさき)という場所がございまして・・・

色々な人間が住んでおり、そしてまた色々なキノコが棲んでおりました。
人間に一人一人違いがあるように、キノコもまた一菌一菌それぞれ違いがございます。
容姿も、生え方も、食好みも、そして考え方も・・・

キノコが何を考えるのかと、人は思うかもしれません。
しかし、キノコは確かに考えているのです・・・




菌曜連続に戻りたいドラマ
キノコな僕ら
第十話 キノコは鍋のごとくあれ


なにやかや混乱した始まりではありましたが、鍋とは混乱を器に納めて幸せな結果にまとめてしまう、懐の深い料理でございます。
それが出来上がって良い匂いを漂わせるころには、シロフクロタケも大分くつろいだ気持ちでコタツに入り、カラカサタケの話すカエンタケとの出会い話などを聞いていたのでした。

「へぇー。じゃあ、もう二菌はずっと前から知り合いだったんだね」

口調まで数年来の知己のようです。

「そうだね。僕が高校生の頃にショウジョウバエにからまれていたのを助けてもらって以来だから・・・何年になるかなあ。ねえ何年だろ?カエンタケ」
「いちいち数えてるかぃ、そんなもん」
「こいつね、怖そうに見えるけど案外面倒見のいい奴なんだよ。山から来たベニちゃんの面倒をみてあげてるのもそうだし、俺が受験中だって言うんで煮詰まらないように時々こうして遊びに来てくれるし。もう友茸通り越して菌友だよね」
「俺ぁただ、暇を潰しに来てるだけだ」
「ベニちゃんと喧嘩した時とかね。後で謝っとけよ、ちゃんと」
「フン」

カエンタケは苦い顔をして酒をすすっています。
が、カラカサタケのずけずけした物言いにことさら腹を立てた様子は無く、それがシロフクロタケには全くもって意外なことでありました。

「さ、シロちゃん。いっぱい食べてね。良かったよ、シロちゃんも腐生菌で。生もの買って来て無かったからさ、外生菌根菌だったら鍋食べられないかもしれないってちょっと心配だったんだ。何が好きかな?この辺の腐葉土いっとく?」
「うん!」
「カエンタケはいつも酒が先だから気にしないでいいからね」
「カラカサタケは、受験生なの?」

と、腐葉土でお腹を幸せに満たしながらシロフクロタケは訊きました。
カラカサタケは照れたように頷きました。

「そうなんだ。来年大学卒業するんだけど、院に入りたくてね。富士山の。だからその勉強中」
「富士山!?凄い!何の勉強してるの?」
「菌俗学さ。色んな国の色んな菌類の分化や歴史を研究するんだ。富士山には全国からたくさんのキノコが集まって来てるから、異文化に触れる機会も多いし、そういう菌達と一緒に勉強するのは絶対楽しいと思うんだ。できれば四合目か五合目を狙いたいんだけど、あの辺りは倍率高いからなあ」
「そんなの、大丈夫だよ!カラカサタケならきっと受かるよ!」
「そ、そうかい?そうかあ・・・そうだね、シロちゃんに言われるとそんな気がしてくるよ。よし!俺頑張るよ!おかわりいるかい?お皿貸して、松ぼっくり取ってあげる。俺頑張るから、シロちゃんもいっぱい食べるんだ!」
「うん!」
「・・・なんかめでてえところが似てるなぁ、お前ら」
『え?』
「クッ、なんでもねえよ」

声を揃えて訊きかえした二本の傘に、カエンタケは肩を震わせて目を逸らしました。
そんな彼を、シロフクロタケは不思議そうに眺めます。

「カエンタケって・・・いつもこういうキノコなの?」
「あン?どういう意味だ」
「なんか、思ってたのと全然違う・・・」
「知らねえよ。俺は俺だ」
「ほらそういう言い方するからさ、誤解されるんだよ、カエンタケは。話し方もうちょっと優しくすればいいのに。無駄に相手を怖がらせることないだろ。ねえシロちゃん?ちょっと怖いよね、カエンタケの言い方」
「うん。私もだし、オニフスベもすごく怖がってた」
「・・・オニフスベは怖がるだろうよ、脅したからな」
「脅したぁ?何があったんだよカエンタケ」
「言いたくねえ」
「はぁ・・・ったく。シロちゃん、何があったのかわからないけど、カエンタケって普段は自分から脅しにいったりするキノコじゃないんだよ。見てわかるだろ?こんなに真っ赤な警戒色、いかにも毒だって教えてくれてるんだから、親切なんだ本当に。だからそのオニフスベさんのことも、なんか言い分があると思うんだ。本菌は絶対言わないけど。オニフスベさんって、どんなキノコなのかな。男の菌?男だよね?女の子脅したりしないよね、カエンタケ」

カラカサタケは男女の区別についてやや慎重化しておりました。

「俺がどうだかは知らねえが、あれが女だったらぞっとしねえな」
「オニフスベは男だよ。なんか、カエンタケがベ・・・」
「おっと」
「わっ!・・・っちゃ~、ちょっと待って台布巾取ってくる!」

徳利をひっくり返してコタツ布団を濡らしたカエンタケは、台所へ走るカラカサタケを尻目に見つつ、燗をつけるのも面倒になったのでしょう、まだ使っていなかった自分の皿を杯代わりに、酒瓶をそのまま傾け始めました。
彼に絡んだ話は、カラカサタケが戻ってきて布団を拭き終わる頃にはすっかり腰を折られた格好になっていて、誰もそれと意識しないまま自然に消えて行ったのでした。

「ところで白いの、お前はなんでここに来た?お前こそ何があったのか聞きてえもんだ」
「あ、そうだね、俺もそれ気になってた」
「よく言うぜ、傘の端にも無かったくせによ。おい、カラカサに誘拐されたんなら正直に言え。通報してやる」
「や、やめろよ~カエンタケ。俺心配になるじゃん」
「やましいとこがあんのか」
「な、ないよ?ないよ、ないよねえシロちゃん!?俺ただ声かけて連れて来ただけだよね!?」
「まさに誘拐だろうが」
「ええっ!?うそ!?俺誘拐した!?シロちゃん、俺・・・シロちゃん?」

シロフクロタケは眉根を緊張させ、口をへの字にまげておりました。
カラカサタケはますます慌てました。

「誘拐したのかなあ俺!!!?」
「うるせえなあアホカサ。ちょっと黙れや。お前みてえなアホに誘拐されるキノコがいるわけねえだろ。おい白いの、どうした」
「・・・べつに」
「ハン。また膨れやがって。ドクツルタケと喧嘩でもしたか」
「!!」
「図星か。わかりやすいキノコだ」
「え、シロちゃんまで喧嘩したの?誰と?どうして?」
「・・・だって、ドクツルタケが悪いんだ」
「ドクツルタケちゃんって、友茸かな?」
「アホカサ、ドクツルタケは男だ。こいつの友茸ってえかなんてえか・・・」
「友茸じゃないっ」
「あ?」
「ドクツルタケなんか友茸じゃないっ。あんなやつ・・・あんなやつ!」

シロフクロタケは傘の裏をすっかり桃色に染め上げて、思い出した怒りに柄を振るわせました。
震えながらも勢いそのまま、カエンタケの差しだした盃を受け取って中身を飲み干すのでした。

「って、何やってんだよカエンタケ!」
「おー、いい飲みっぷりだ」
「駄目だよこんな時間に女の子に酒飲ますなんて!」
「かてえこと言うな。ちっとだけだろ。おら、もう一杯いけ」
「カエンタケ!」
「いただきますっ!」
「シロちゃん!?」

シロフクロタケは飲みました。
一杯飲んで、ドクツルタケに友茸では無いと言われた事を言い、二杯飲んで、ドクツルタケに毒キノコにされそうになったことを言い、三杯飲んで、ドクツルタケに友茸では無いと言われた事をまた言い、四杯飲んで、ドクツルタケに毒キノコにされそうになったことをまた言いました。

「・・・ほぉー、ドクツルタケがねえ」

カエンタケが一杯目からずっと同じ返しをしていることには気づいていません。

「それで、それで、スギヒラタケはドクツルタケが私を毒にしようとしてるんだって言って、それで」
「シロちゃんを毒にしようだなんて・・・そんな」
「私もそんなの嘘だって思ったけど!でもドクツルタケは全然慌てたりしてなくて!私のこと友茸だとも思ってなかったんだし、本当に毒にしようとしてるんだ!ドクツルタケの馬鹿!馬鹿キノコ!」

激昂する彼女の隣では、カラカサタケが理解に苦しむというように傘をかしげています。

「変な話だなぁ・・・ドクツルタケ君はどうしてそんなことするんだろう。だって、シロちゃんはその子と仲良かったんだよね?」
「良かったよ?ふたりで一緒に何回もフンギーランドに行ったよ?ドクツルタケはいっつも優しくて、私が遅刻しても待っててくれたよ?私は友茸だと思って・・・おもってたのにっ・・・ドクツルタケはちがうって・・・」
「あ、あ、シロちゃん、泣かないで?よしよしよし。大丈夫だよ、きっと何かの誤解だよ。ドクツルタケ君は本当に友茸じゃないなんて言ったの?聞き間違えじゃなくて?だって、話聞く限りどう考えても友茸だよそれは。ねえカエンタケ?」
「いや話聞く限りどう考えても友茸じゃねえだろ・・・」
「なんで!?フンギーランドだよ!?二菌でだよ!?友茸以外の何があるんだよ!」
「カラカサ。お前もうちっと大人に・・・つうか男になれや」

カエンタケはそれ以上深くは言及しなかったため、カラカサタケにもシロフクロタケにも、ドクツルタケの言葉の意味は結局わからないまま終わりました。
・・・残念なことでございます。
代わりに、赤いキノコは空になった徳利を振って、さり気ない調子でこう言いました。

「しかしまあ、なんだな。本当に行くたぁ思わなかったが。あいつも意外に生真面目な奴だな」
「え?なんだって、カエンタケ」
「悪ぃな。ドクツルタケをけしかけたのはどうも俺みてえだ」
「!!」
「はあ!?」
「あの無表情な野郎が珍しく顰めつらして歩いてたんでな。ちょいとからかってやるつもりで、誤食が嫌ならシロフクロタケを毒に変えちまえって、方法ならスギヒラタケが知ってるだろって、まあそんなような事を言ったのさ。悪かったな、白いの」
「!!」
「カエンタケっ!!」

硬直してしまったシロフクロタケよりも早く、カラカサタケが本気の怒りの声を上げました。怒りにまかせてあまりにも勢いよく伸びあがり、柄の表面がまたすこし破けるほどでした。

「酷過ぎるぞ!食用キノコを毒にしようだなんて、菌をなんだと思ってるんだ!」
「お前も食用だったな、そう言えば」
「そうだよ、俺は幼菌をフリッターにすると美味いらしい。けど、今はそんな話をしてるんじゃない!可哀想だろシロちゃんが!今の自分を否定されて毒キノコになれなんて言われたら、誰だって傷つく!君だってそうだろ!?毒キノコやめろなんて言われたら傷つくだろ!キノコを否定するなんて最低だぞ!」
「!!」

シロフクロタケが大きく目を開きましたが、カラカサタケは気づきません。

「キノコは食も毒もよくわからないのも色々いる。色々いるからキノコなんだ。どのキノコにだって尊重すべき菌格ってものがある。相手のあり方を無視して、無理やり自分と同じにさせるなんてのは、相手の菌格に対する暴力だ!それが許されるなら、キノコは菌糸だけでクローン増殖してればいいじゃないか!何のために子実体を作って胞子を飛ばすと思うんだ?自分と違う物を作るためだろ!自分と違うと思った時に変えるべきなのは相手じゃない、相手を受け入れられない自分の狭さだよ!そうだろ!?」
「・・・ああ。そうだな。もっともだ」

言い募られたカエンタケが苦笑し、煮詰まった鍋の火を止めました。
カラカサタケは腹立たしげに箸で具材をかきまわしながらさらに言いました。

「もっともらしいことなんて、俺別に言いたくないけど!カエンタケはいつも、俺よりずっと懐が広くて他菌に文句つけたりしないじゃないか。なんでそんなこと言ったんだよ」
「なんでだろうな。まあ・・・俺も虫の居所がおかしかった」
「そういう時は早く俺のとこに来いよ!昼からだって鍋すればいいだろ!・・・まったく、キノコってのはほんと、鍋みたいにあるのがいいんだ。色んなのを詰め込んで、色んなのが入ってるほど美味しくなるんだ。ね、シロちゃん?カエンタケの言ったこと、気にしないでいいからね。ドクツルタケ君にも、僕から言ってあげるよ。だから仲直り・・・シロちゃん?」
「・・・・う、ふぇ・・・・」
「!!?」

鍋に気を取られていた男達は、そこでシロフクロタケの異変に気付きました。
彼女はいつのまにか、今にも溶け出してしまいそうなほど目にいっぱい露を浮かべて、嗚咽に柄を振るわせていたのです。

「シロちゃん!?」
「う、うえぇぇぇ・・・っ!」
「なんで!?なんで泣くの!?どうしたのっ!?」
「うぇぇぇっ!うわあああああん!!」
「あ、ちょっ、これ『鬼柳』一升瓶空いてない!?いつのまにこんなに飲んだのシロちゃん!?」
「うわあああああん!うわあああああああんっ!」
「どうしようどうしよう女の子泣かしちゃったよ、どう慰めたらいいんだカエンタケ!」

しかしカエンタケは面倒臭そうに煮詰まった鍋をつつくばかりでしたので、カラカサタケは一人で何か慰めの役に立ちそうな物を探して部屋中を歩きまわりました。

「あ、そうだ飴あるよシロちゃん、クヌギ樹液飴!実家から送って来たんだけど、美味いよー?・・・いらない?欲しくない?じゃあええとええと、これこれこれ、キンテンドースイッチやる?面白いぞー!今充電するから今」
「受験生が何やってんだお前」
「いや、だって、『マッシュルムラザーズ』が・・・そうだあシロちゃん!DVD見よう!名作あるぞぉ『13日の菌曜日』!」
「んなもん見せたら余計泣くわな。しょうがねえなぁ・・・おい白いの。うるせえから泣き止め」
「うっ、うえっ、ふええええっ」
「泣いてちゃわかんねえだろうよ、アホカサはアホだ。妙なホラー映画見せられたくなかったら手前ぇの口でちゃんと説明しろや。幼菌じゃあるめぇしよ」
「カエンタケ、またそんな言い方・・・」
「いっ、いっちゃ、た」
「え?シロちゃん、なに?」
「ドク、ツル、タケに、毒キノ、コ、やめろ、て、言っ、ちゃった」

シロフクロタケは泣き過ぎて、人間で言えば横隔膜にあたる部分が仮にキノコにあるとした場合にそこに変な泣き癖がついてしまったあの状態になってしまっておりました。

「わた、わたし、の、ほうが、先に、言ったん、だ・・・だから、どく、つる、怒って、あん、なこと、う、うええええええっ」
「そ、そうだったんだ・・・でも、でもさ、シロちゃんには全然悪気なんか無かったんだろ?そうだろ?」
「キノコを否定するなんざ最低だなあ」
「カエンタケーっ!」
「てめえが言ったんじゃねえか」
「そういう意味で言ったんじゃない!シロちゃん!ドクツルタケ君だってわかってくれる!きっともう怒ってない!怒ってないよ!ほら、君ら良く考えれば、おあいこって事じゃん。雨降って地固まってキノコ生えるってことだよ!ねっ!」
「カビが生えるんじゃねえか」
「カエンタケーっ!!」
「うるせぇなあ・・・」

泣き声と絶叫とため息と。
阿鼻叫喚のまま、鍋の夜は更けてゆきます。

まこと、キノコとは賑やかな生き物でございます・・・



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キノコドラマが例によって遅延して明日になるため、せめてものお詫びとしてドクササコの背中に体を密着させて「ねえ、しよ?」と言うタマゴタケモドキの絵を置いておきます。
何をするんだろう。キノコなのに。

「・・・いや、明日は仕事が朝から早い。今日は・・・」
「仕事?結婚詐欺?」
「それはもう足を洗った!」
「じゃ、債権回収?」
「・・・。とにかく、今日は無理だ。明日、帰ったら」
「そ。いいけど別に。明日はこっちがその気にならないかもだけど」
「・・・・・・・・・・」
「したくない?」
「・・・・・・・・・・・したくないわけがない」

何の話なんだろう。したいとかしたくないとか、キノコなのに。

あるところに下山咲(しもやまさき)という場所がございまして・・・

そこには今日は、雨が降っているようでございます。




菌曜連続だったドラマ
キノコな僕ら
第九話「優しい傘を持つ男」


シロフクロタケという少女は、どうも色々なキノコの目にとまるようです。白く、草地に生えやすく、見つけやすいからでしょうか。

「・・・君、もしかして迷子?」

今も一本のキノコが、ぼんやりしている彼女の上に葉傘をさしかけてきました。
葉傘というのはキノコにとって人間の傘のような役目をする葉のことでございます。
シロフクロタケはびっくりして振り向きました。

「だれ?」
「あ、俺はカラカサタケって言うんだけど。あやしい菌じゃないよ?」

それは背の高い、灰褐色の傘をしたキノコでした。柄の表皮がなんとなくボロくさいものの、大らかで優しい雰囲気をして、本菌の言うとおりどうみてもあやしい菌には見えませんでした。
シロフクロタケはほっと息をつきました。それからぶるっと震えました。いつの間にかすっかり体が冷えていたのです。
カラカサタケが心配そうに言いました。

「カビが生えるよ。キノコだからって、油断してたらカビるからね」

・・・多少暴言に聞こえるかもしれませんが、人間で言うところの「風邪をひく」程度のニュアンスでございます。

「君がナメコじゃ無いのは見てわかるけどさ、でもあんまり冷え過ぎると君だって一次菌糸に戻っちゃったりするかもしれないよ。カビが生えるのは困るだろう?もう夜だし、おうちに帰ったほうがいいと思うよ」
「・・・・・」

キノコは胞子が発芽して一次菌糸となり、それが他の遺伝子を持つ菌糸と結合することによって二次菌糸となります。一次菌糸でクローン増殖、二次菌糸で有性生殖を行う実に効率的な生き物なのでございますが、時によって二次菌糸まで成長しながら一次菌糸に退行することがございます。
一次菌糸はカビに感染しやすいこと、また、いわゆる「きのこ」は二次菌糸でしか作られないことから、この原因不明の一次菌糸退行は、キノコ栽培の・・・特にこれが起きやすいナメコの栽培の大きな問題となっているのでした。
余談でございます。

「あ、良かったら俺、送って行こうか?暗いから一菌で歩くの危ないかもしれないし。・・・って言っても、俺も別にそんな頼りになるキノコじゃないんだけど。今うちに来てる友達なら凄く頼りになるから、あいつに頼んであげようか。晩御飯食べたら君を送ってってくれるよ。どう?」
「・・・・・」

いきなり色々と言われて、シロフクロタケは何と答えていいかわかりませんでした。
ただ、晩御飯と聞いたせいでしょう、ぺたんこの腹が、かわりにくうと返事をしました。
キノコでもキノコなりに腹の虫は鳴るのです。
カラカサタケがぱっと笑顔になりました。

「もしかして、お腹すいてる?」
「・・・・・」
「俺さ、ほら、今買出し行ってきたところ。これからあいつと鍋パーティーしようってことで、足りない材料買って来たんだ。二菌には多すぎるくらいだから、君も参加しない?」
「・・・・でも」
「遠慮しないで。どうせ男ばっかりだし、人数多い方が盛り上がっていいよ。ね、うちで体乾かしてご飯食べて、それで送ってってもらいなよ。ね?」
「・・・・・・うん」

シロフクロタケは頷いてしまいました。
お腹が空いていたのもありましたし、良くまわりを見てみると、考えこんで歩いているうちにあまり知らないところへ来てしまっていたことに気づいたのでした。
暗闇の中、一菌で帰る自信はありません。
シロフクロタケは、上機嫌のカラカサタケの隣にならんで、彼の住処へとついていったのでございます。

カラカサタケの家は、竹のすくすくと並んだ藪の中にありました。
のっぽのキノコは玄関口を入るなり、声を張り上げて友人を呼びました。

「ただいまあ!ね、カエンタケ、ちょっと頼みがあるんだけどさ!」
「ンだぁ?ったく帰った早々、お前ぇはうるせえ奴だなアホカサ・・・」
「!!!!」
「あン?お前、シロフクロタケじゃねえか」

入ってすぐに全体を一望できる狭くるしい部屋の中、この季節まで出しっぱなしのコタツに胡坐をかいて生えていたのは、炎のような赤いキノコでありました。

「か、か、か、カエンタケっ!!?」

シロフクロタケは叫びました。

「あれ!君ら、知り合い?」

カラカサタケが呑気に訊ねました。
初めてシロフクロタケが元気な声を出したので嬉しかったのでしょう。そこに含まれる恐怖や狼狽には胞子の粒ほども気づいていませんでした。

「君、シロフクロタケ君っていうんだ。アハ、まだ名前聞いてなかったね。ごめんね」
「な、なんで、なんでカエンタケがここにっ」
「居ちゃあ悪ぃか。なんではこっちの台詞だ。おいカラカサ、そいつどうして連れて来た」
「え?だって、お腹空いてるっていうから。外暗いしさ、道に迷ってたっぽいし、一菌で歩かせたら危ないかなって。晩飯食べたらこの子送ってってあげてよカエンタケ」
「いやっ!」

と、言ったのはシロフクロタケです。
カラカサタケはうろたえました。

「え、え?なんで?君ら知り合いじゃないの?」
「いいかアホカサ。知ってはいても親しかねえっつう関係がこの世にはあンだよ。これがそれだ」
「えー?何だよそれ。いいじゃん、一緒に鍋食べたらもう友茸だろ。ほらシロ君、こっちおいでよ。あ、シロ君って呼んでいいかな?シロフクロタケ君じゃ長くて」
「・・・おいアホカサ、お前ちょっとこっち来い」
「え、なに?」
「いいから来い」

カラカサタケは不思議そうにカエンタケのところまで行きました。
カエンタケは彼に何やら耳打ちしました。
何を囁いたのかは、続くカラカサタケの絶叫によって明らかとなりました。

「え、えええええっ!?シロく・・・いや、シロちゃんって、女の子だったの!?」
「!!!!」
「っドアホカサっ・・・お前、何のために俺がここまで呼んでやったと・・・!」
「!あ、ご、ごめ!ごめん、ほんとごめんカエンタケ!」
「俺はいいから向こうに謝れ!」
「!!ごめ、ごめんねシロちゃん!ほんっとごめん、俺そういうのほんと疎くて!」
「・・・・いいんです。慣れてます。どうせ、知り合いの男子と誤食されたりしてるんだしっ」
「いや、俺が悪い!俺ほんと鈍感なんだよ、なあカエンタケ!?俺、物凄く鈍感だよねえ!?」
「あーそうだ、女には疎いわ、表皮がついてこれねえくらいむやみに成長してひび割れ起こすわ、外皮膜ちゃんと落さねえで傘がフケだらけになるわ、お前ぇはよくよく鈍いキノコだ」
「そ、そこまで言うなよぉ、女の子の前で」
「今更何言ってんだ」
「まいったな、こんな時間に男ばっかりの部屋に女の子連れ込むなんて、俺、最低だ」
「今時何言ってんだ」
「シロちゃん、今からでも遅くない!おうちに帰ろう!俺もカエンタケも責任持って送っていくから!」
「おい勝手に決めんな。いいから落ちつけやアホカサ。この面子で間違いなんざ起こらねえよ。そいつだって幼菌じゃねえんだ、手前のことは手前でできらぁな。そうだな、シロいの」
「・・・シロフクロタケ、だ」
「いつまでも膨れてんじゃねえや、お前の柄が寸胴なのが悪ぃんだろうが」
「!!!!」
「カエンタケっ!なんで君はそんなに口が悪いんだ!そんなだからベニちゃんと喧嘩するんだぞ!」
「それとこれとは関係ねえ。おい、鍋やるならさっさと作れよ。燗はとっくにできてんだ、俺ぁ先に始めてるぜ。酒が茹っちまう」
「あ、ちょ、ちょっと待てよ、今材料用意するって・・・」

カラカサタケは慌てて買ってきた袋を開けようとし、慌て過ぎてその全てを床にぶちまけました。
シロフクロタケがそれを拾い集め、むすっとしたまま言いました。

「・・・手伝います」
「ほ、ほんと?料理手伝ってくれるの、シロちゃん!優しいなあ、やっぱり女の子だね!」
「・・・・・」
「わぁ、ちゃんと丁寧に洗ってくれて、えらいなあ。俺たちがやると雑だからさ、泥だらけのまま鍋に突っ込んでるようなもんだよね!やっぱり女の子って違うなあ!」
「・・・・・」
「うんうん、包丁持つ手つきも俺より断然サマになってるよ!慣れてるっていう感じがする!やっぱり女の子・・・」
「あたっ!」
「・・・・・・・・」
「・・・・・いったー・・・」
「ほ、包丁が手に合わなかったのかなあ!女の子が持つにはちょっと大きすぎるって俺思ってたんだよねえ!だからほんと、なんか、その・・・えっと・・・大丈夫?」
「お前ぇ、もう黙った方がいいんじゃねえかアホカサ」

酒をすすりながら、色々あきらめたようにカエンタケが言いました。

まこと、キノコ達は騒々しいものでございます・・・
菌曜ドラマと銘打ちながら雨後のキノコのようにさりげなく遅延されまくっているキノコドラマですが、今回は「挿絵のカラカサタケが常軌を逸してイケていない」というやむを得ない事情により、堂々と宣告遅延します。
描き直す。これはさすがに。

いや、なんかね、彼はそもそもイモくさ男子キャラですから、ある程度は仕方ないんです。
でもただ・・・なんでかわからないけれど、色と形が・・・・・・カルロス・ゴーンに・・・

とても、保釈された時のようです。
どうしてこうなった。

あるところに下山咲(しもやまさき)という場所がございまして・・・

森があり、林があり、野原があり、川があり、人間の町のある場所にしてはよく自然が残っておりましたが、その自然のあちこちにキノコ達が生えては楽しく暮らしておりました。

キノコはどうして生えるのでしょう?
彼らは人が植えたわけではありません。どこからともなくやってきて、いつのまにかそこにいるのです。

人間の中には、雨が多いとキノコが生えるように思う者もいるようです。
しかし、本当にそうでしょうか。

雨がキノコを呼ぶのか、あるいは・・・・







曜連続深夜ドラマ
キノコな僕ら
第八話「雨とキノコ」



「オニフスベ!!」

シロフクロタケを追いかけて来たドクツルタケは、やがて色だけ同じで全然違うキノコと鉢合わせ、腹立ち紛れに大きな声を上げました。
辺りはだいぶ日も落ちました。遠目に白い塊はどうにも紛らわしかったのです。

「な、な、な、なんでごわすか」

可哀想に、オニフスベは大きな体を緊張に膨らませてあきらかに挙動不審になりました。
猛毒菌に怒鳴られて怖かったのでしょう。

「こっちにシロフクロタケ来なかったか!?」
「し、しろ、シロフクロウ?はぁ、おいどんにはなんのことだかさっぱりでゴワス」

ドクツルタケはじっと彼を見上げました。

「・・・こっちに来たと思うんだけど。絶対見ただろ」
「!?み、見てないでごわす!フクロウなんておいどん、知らんでごわす!」
「フクロウじゃない、シロフクロタケ。知り合いだろ、なんでそんな不自然な聞き間違えするんだよ」
「へ?や、いやあ、シロフクロタケでごわすか!シロフクロタケならもちろん知り合いでごわす!ふ、不自然と言われるのは心外でごわす、ドクツルタケがいきなり怒鳴るから、何のことだかわからなかっただけでごわすど!」
「・・・・・。まあいい。シロフクロタケ、どっち行った?」
「ど、ど、ど、どっち?どっちって、どっちでごわす?」
「俺が聞いてんだよ!さてはあんた、シロに口止めされただろ!」
「いやいやいやいやおいどんは何も知らんでごわす!本当でごわす!ドクツルタケ、おいどんの目を見るでごわす!」

ドクツルタケはオニフスベの目を睨みました。
オニフスベはまたたくまに視線を逸らしました。

「逸らしてんじゃねーか!」
「こここここれは違うでごわす!ドクツルタケががっつい怖いで思わず逸らしただけでごわす!カエンタケより怖いでごわすど!」
「知らねえよ!くそっ!」

珍しく激昂して地面を蹴ったドクツルタケです。
オニフスベは怯えるあまり、体中に黄色い汗を浮かべています。さらにだんだん茶色くなってきました。

「おい!あっちか!?」
「し、知らんでごわす・・・」
「じゃ、こっちか!?」
「わからん、わからんでごわ・・・」
「じゃあそっちか!?」
「!!そそそそっちではないと思うでごわ」
「そっちだな!サンキュ、オニフスベ!」

荒げた声のままお礼を言って、ドクツルタケは駆け去って行きました。

緊張から解き放たれたオニフスベは、膨らみきった体を音を立ててしぼませていきました。
それと同時に煙のような胞子が彼の体から舞上がり、さらに背中の陰から、

「けほっ、げほえほっ・・・・ありがとう、オニフスベ。けほっ」

咳き込みながらシロフクロタケが現れたのでした。

「怖かった・・・怖かったでごわす・・・」

オニフスベは放心状態です。胞子だけに。

「ごめんね、急に隠れさせて欲しいなんて無理言って。でも、そこまで怯えなくても・・・胞子もこんなに飛ばさなくても」

シロフクロタケは言いましたが、ホコリタケ科のキノコの胞子が多いのは仕方がないことです。オニフスベはシロフクロタケの一万倍の胞子を作るのです。そういうキノコなのです。
気の毒なキノコは茶色醒めた顔で、それでもいくらか落ち着いたのか心配そうにシロフクロタケを見やりました。

「ドクツルタケは行ってしまいもしたが・・・じゃっどん、本当にこれで良かったでごわすか。おいどんが言うのもなんでごわすが、二菌でしち話しあった方が」
「嫌だ!」
「シロフクロタケ・・・」
「言ったよね?あいつは私を毒にしようとしてたんだ!」
「それはどっか誤解があって・・・」
「毒になるくらいなら乱獲される方がマシだ!あんなキノコだと思わなかった!ドクツルタケなんてもう、傘も見たくないっ!」
「・・・・・」
「隠してくれてありがとう、オニフスベ。もう行くね。・・・あ、それと、ごめん。ベニナギナタタケのこと、力になれなくて」
「!い、いいんでごわす。ベニナギナタタケさんは、やっぱりおいどんには過ぎたキノコでごわす。カエンタケが・・・カエンタケが相応しいとも思わんけんども・・・」
「うん・・・ごめんね。元気出して?」
「はぁ、シロフクロタケも」
「・・・うん」

こうして、シロフクロタケはオニフスベと別れ、また一本きりになって、今度はとぼとぼと歩き始めました。
日がすっかり落ちてもまだ歩いておりました。
森を抜けて、野原に出てもまだまだ歩いておりました。
その頃には自然と彼女の傘も俯きがちになって、独り言が増えておりました。

「・・・ドクツルタケなんか」

ぽつ。

「ドクツルタケなんか。こっそりスギヒラタケに会いに行くくらいなら、面と向かって私に言えばいいじゃないか。毒になれって。そりゃ、言われたらその場で張り倒すけど。でも、あんなこそこそするなんて!ドクツルタケの馬鹿!馬鹿キノコ!」

ぽつ、ぽつ。

「大体、何のために毒にならなきゃいけないのさ。そんなに私に間違えられて誤食されるのが嫌なのかな?二菌揃って毒になって誤食を無くそうってこと?そんなの間違ってる!食から毒に変わるなんて危険だし!気がつく前に人間は絶対食べちゃうじゃないか!」

ぽつ、ぽつ、ぽつ。

「友茸じゃないからって毒にまでしようとするなんて。ドクツルタケなんてもう知らない!ドクツルタケなんて・・・」

サァァァァ・・・

「・・・雨?」

シロフクロタケはようやく気づきました。
雨です。真っ暗な空から、砂でも落とすような音を立てて、柔らかく雨が降って来ています。
彼女は先ほど無数に空へと舞い上がって行ったオニフスベの胞子を思い出しました。
おそらくあれが上空数百メートルまで登り、バイオエアロゾルとなって低高度凍結、雨を呼んだものでしょう。
雨がキノコを育てるだけではありません。キノコが雨を育ててもいるのです。

「・・・・・」

シロフクロタケはぼんやりと見上げるばかりでした。
キノコとしていつもは嬉しい恵みの雨も、なぜか今日ばかりは湿っぽすぎるように感じました。

そしてそんな彼女のすぐそばに、また一本の傘が近づいてきていたのでした。

まこと、キノコとは天候までも左右する生き物なのでございます・・・
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