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2007年1月8日設置 サイト→http://warakosu.syarasoujyu.com/
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あるところに下山咲(しもやまさき)という場所がございまして・・・

今日も人間と同じように、キノコ達が朝を迎えておりました。







菌曜連続に次こそ戻りたいドラマ
キノコな僕ら
第十五話 シロツメクサの朝


鳥の囀りは、人と同じようにキノコをも目覚めさせるものでございます。
都市ではめっきり見かけなくなったとも言われるスズメ達が、下山咲にはまだたくさんおりました。
チュン、チュン、チュン。
馴染みの爽やかな声でございます。

「シロちゃぁ~ん。朝よーぅ。そろそろ起きなさぁ~い?」

・・・前言撤回いたします。シロフクロタケを起こしたのは鳥でも爽やかでもなんでもなく、ツマミタケママの酒に焼けた声でした。

「ん~・・・ん?う、ん?あれ?ここは・・・あっ」

目覚めたシロフクロタケは戸惑いながら傘を起こし、人間であればこめかみにあたる部分に走った激痛に、そのまま蹲りました。
ツマミタケがひょいと入口から托枝をのぞかせました。

「おっはぁ~シロちゃん。頭イタイイタイでしょ~ぉ?あんなに飲むからよぅもう」

まるでシロフクロタケが飲む姿を眼前で見ていたかのごとく言うママです。
白いキノコは困惑しております。

「ツ、ツマミタケママ?ここ・・・ママのうち?」
「ていうか、お店ぇ?二階のお泊り部屋よぅ。あ、お泊りって言っても、そういうコトじゃないのよ。そういうコトに使ったりしてないから大丈夫。アタシ、そういうの結構潔癖なの。お酒の上で寝るなんて、駄目よ」
「・・・・えっと・・・」
「あらシロちゃんにこういうお話早かったかしら。もう、ごめんなさいねぇ~?とにかく、シロちゃんは昨日はここにお泊りしたのよぅ。覚えてないのぉ?」
「ん・・・」

シロフクロタケはちょっと考えました。頭が痛みます。

「カエンタケとカラカサタケとお鍋を食べて・・・それから、あんまり覚えてない」
「そこからッ!?じゃあ、ドクツルちゃんが心配してたことはッ!?」
「・・・・覚えてない」
「ドクツルちゃんがお店まで運んでくれたこともッ!?」
「・・・・・・・・・・覚えてない」
「んもぉぉぉぉぉう!シロちゃんもぉぉぉぉおおおう!!」

ツマミタケママはウシガエルのように慨嘆しました。

「シロちゃん酷いわッ!女の子の無自覚ってなんて残酷なのッ!ママもう目眩でダメ、今日お店開けらんないかもしれないワ、ああ・・・!」
「ツ、ツマミタケママ!大丈ぶ・・・!った~・・・」
「あら、シロちゃん。そうね、二日酔いだったわね可哀想に。ちょっと待ってらっしゃいねぇ、ママ特製の枯葉汁作ってあげるッ。あれを飲めば二日酔いなんて一発よぉ~ぅ!」

そんなわけで、半時も後にはシロフクロタケはお店のカウンターにちょんと座り、温かい枯葉汁をすすっていたのでした。

「シロちゃんどぉ~?その御汁、ちょっと味濃くなかったぁ~?」
「ううん、すっごく美味しいよ!ママ、ありがとう」
「ねぇ?最初は食べる気しないと思っても、これは飲めちゃうでしょ~う?シロちゃん、傘色もだいぶ良くなったわよぅ。安心したわぁ、ママ」
「ありがとう・・・その、ごめんなさいママ。心配かけて」
「いいのよぅ。キノコって助け合うものだから。きっともうすぐドクツルちゃんも来るわよぅ。シロちゃん、あれを見て?」

ツマミタケが指すのは、花瓶にいけたシロツメクサの花でございました。
人間にとってはそれは親指の先ほどの小さな花ですけれども、キノコにとっては小ぶりの牡丹ほどにも思われる大きさでございます。お店の中でもその白い花穂は際だっておりました。

「きれい・・・」
「あれねぇ、ドクツルちゃんがシロちゃんにって、帰り際にとって来てくれたのよぉ。アタシ、あんな綺麗なお花って見たこと無いわ。想いが籠ってるのよぅシロちゃん。わかる?」
「・・・ん。ドクツルタケ、私のこと許してくれた、のかな」
「馬鹿ねッ、それだけじゃないわよ~ぅ。シロツメクサの花言葉って知ってるッ?Think!of!me!よ!ハァァアァァァン!もう、胸がキュンキュンしちゃうわアタシッ!」
「・・・シンク??」

シロフクロタケは生粋の日本育ちでございました。英語はまったくいけませんでした。

「ハイハイハイ、シロちゃん、ちょっと動かないでねェ?アタシ、この花は絶対シロちゃんの傘に飾ってあげなきゃって思ってたのッ」
「!い、いいよ、そこに飾ってあるのが綺麗だよ」
「駄目よッ!ドクツルちゃんが来た時にシロちゃんがお花じゃないと駄目なのよッ!!ママに任せて!じっとしてッ!」
「・・・・・。ねえママ、私、昨日のこと全然覚えてないんだけど、何があったか聞いてもいい?」
「もちろんよ~ぅ。シロちゃんは、カエンタケちゃんに負ぶわれて帰って来たのよぅ」
「カエンタケに!?・・・あ、でも、それはなんとなく思い出せるような」
「あれもイイ男ね。アタシ、見直したワ」
「カエンタケがお店に連れて来てくれたの?」
「違うわよう。カエンタケちゃんはベニちゃんのおうちに連れて来たのよう。ていうか、カエンタケちゃんのおうち?それで、ママ達はシロちゃんを探してちょうどそこにいたから、めでたしめでたしってワケ。お店まで連れて来たのはドクツルちゃんよ~ぅ?シロちゃん、おうちに帰りたくないって泣くんだもの~」
「え!?そんなこと言ったんだ私・・・ドクツルタケ、きっとまた怒ったね」
「ンなワケないでしょぉ~う!?このお花を見て頂戴!怒ってる相手にお花なんて取ってきてあげるわけないじゃない!ドクツルちゃんは言ってたわ、『これ、シロが目覚ましたら、あげて』。ハァ~ッ、アタシ、カエンタケちゃんもいいと思ったけど、やっぱりドクツルちゃんだわぁ。ドクツルちゃんイチオシッ!シロちゃん、ママも長い事この業界やってるけど、あんなイイ茸見た事ないわよ、シロちゃんどう思うのッ?」
「私?もちろんそう思うよ、ママ。ドクツルタケは本当にいい茸だよね!」
「それだけッ?」
「うん!絶対にいい茸だもん、他に無い!」

そうではない、そうではないのでございます。

「シロちゃん・・・そう、いいわ。それがシロちゃんだもの、いつか目覚めるってママ信じてる。さ、できたわよぅ。とってもかわいいわぁ~ン!」

シロフクロタケの傘に、ぽんと白い花がつきました。シロフクロタケは自分では良く見えませんけれども、少し頭を動かして、花の揺れるのを感じました。
はにかんで笑う姿を、ドクツルタケこそが見るべきだったでしょう。しかし彼はいません。

「ママ、ありがとう!」
「お礼はドクツルちゃんに言わなくちゃねッ。・・・それにしても遅いわネ。まだかしら」
「あ、そうだ。カエンタケにもお礼言って謝らなくちゃ。連れて来てくれたの、カエンタケなんだもんね」
「お店まではドクツルちゃんよ」
「ちょっと私、行ってくる!すぐ戻るから、ドクツルタケが来たらママよろしく!」
「エッ!!?ちょっと待ってシロちゃんッ!ドクツルちゃんが来てから一緒に行けばいいじゃないの、ねえッ!」
「だって私が悪いんだもん!ドクツルタケまでつきあわせられないよ!行ってくる!」
「シロちゃん!シロちゃぁ~んッ!!」

シロフクロタケは行ってしまいました。シロツメクサをふわふわ揺らしながら。
そして大体こういう時にはそういうものですが、正に入れ替わりでありながら決して鉢合わせはしないというタイミングで、ドクツルタケが店にやってきたのでした。

「はぁっ、はぁっ、寝坊したっ!ママ、おはようっ。シロはっ!?」
「・・・丁度今さっき、行っちゃったわ」
「っ!どこに!?」
「カエンタケちゃんのとこ。お礼言いに行くって」
「っっっ!!なんで待たねぇんだよあいつっ!」
「許してあげて・・・シロちゃん、走るキノコなのよ」
「なんだよそれ・・・」
「まぁ、すぐに戻るっていってたワ。ドクツルちゃんも、枯葉汁どぉう?飲んでゆっくり待ってなさいよぅ」
「いや、俺腐生菌じゃないからそういうのは・・・」
「ママ、おっはぁ~!!」
「あら、カニちゃん。早いわね」

ドクツルタケは思わず恨めしげに、出勤してきたカニノツメを見やってしまいました。これがシロフクロタケならどんなに良いかと思ったのでした。
似ても似つかぬキノコが、その視線に気づいてどぎまぎと頬を染めております。

「やだ、なに、ドクツルタケちゃん、そんなにアタシのこと見つめて・・・メイク、変?」
「いや・・・別に」
「別になによう、照れちゃう。あ~ン、ドクツルちゃん朝からイイ男!」
「・・・・・。ママ、俺もカエンタケのところ行ってくる。それじゃ」
「えっもう行っちゃうの?うっそぉ~いけずぅ!あ、気をつけてね。回り道して行った方がいいわよぉ、念のためだけどっ」
「・・・なんで?」
「ん~、なんかね、スギヒラタケがいたのよね、真っ直ぐ行ったところに」
「!」
「別に何がってことないんだけどぉ、ヤな感じがしたのよぉ~。向こうはアタシのこと気づいてなかったんだけどぉ、でも普通、歩きながら一菌でニヤニヤしてたら変じゃなぁい?しかもこぉんな長い尖った杉の枝持って、あの子何しに行くつもりなのかしらってアタシ・・・あッ!?」

カニノツメは盛大に尻もちをつきました。
ドクツルタケが傘の色を変えて彼女(♂)を押しのけ、店を飛び出したのです。
さらに続けてツマミタケも、

「カニノツメッ!ちょっとお店頼んだわッ!!」
「え?え?なに?どうしたのよママ~っ!」
「枯葉汁食べちゃってていいわよーぅッ!あんたの好きなウッドチップ入ってるわぁーッ!」

飛び出して行きました。
カニノツメは呆然と、見送るばかりでございました。



ちょうどその時、カエンタケの家を目指していたシロフクロタケは、大きな椎の木の横を曲がろうとしておりました。

「えっと、ここを曲がって真っ直ぐ行けば、と・・・」
「見ぃつけた」
「!あ、君は」
「スギだよ。おはよう、シロフクロタケ」

それは、あってはならない出会いでありました。

まこと、キノコとは風雲急を告げるものでございます・・・


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