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2007年1月8日設置 サイト→http://warakosu.syarasoujyu.com/
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あるところに下山咲(しもやまさき)という場所がございまして・・・

森があり、林があり、野原があり、川があり、人間の町のある場所にしてはよく自然が残っておりましたが、その自然のあちこちにキノコ達が生えては楽しく暮らしておりました。

キノコはどうして生えるのでしょう?
彼らは人が植えたわけではありません。どこからともなくやってきて、いつのまにかそこにいるのです。

人間の中には、雨が多いとキノコが生えるように思う者もいるようです。
しかし、本当にそうでしょうか。

雨がキノコを呼ぶのか、あるいは・・・・







曜連続深夜ドラマ
キノコな僕ら
第八話「雨とキノコ」



「オニフスベ!!」

シロフクロタケを追いかけて来たドクツルタケは、やがて色だけ同じで全然違うキノコと鉢合わせ、腹立ち紛れに大きな声を上げました。
辺りはだいぶ日も落ちました。遠目に白い塊はどうにも紛らわしかったのです。

「な、な、な、なんでごわすか」

可哀想に、オニフスベは大きな体を緊張に膨らませてあきらかに挙動不審になりました。
猛毒菌に怒鳴られて怖かったのでしょう。

「こっちにシロフクロタケ来なかったか!?」
「し、しろ、シロフクロウ?はぁ、おいどんにはなんのことだかさっぱりでゴワス」

ドクツルタケはじっと彼を見上げました。

「・・・こっちに来たと思うんだけど。絶対見ただろ」
「!?み、見てないでごわす!フクロウなんておいどん、知らんでごわす!」
「フクロウじゃない、シロフクロタケ。知り合いだろ、なんでそんな不自然な聞き間違えするんだよ」
「へ?や、いやあ、シロフクロタケでごわすか!シロフクロタケならもちろん知り合いでごわす!ふ、不自然と言われるのは心外でごわす、ドクツルタケがいきなり怒鳴るから、何のことだかわからなかっただけでごわすど!」
「・・・・・。まあいい。シロフクロタケ、どっち行った?」
「ど、ど、ど、どっち?どっちって、どっちでごわす?」
「俺が聞いてんだよ!さてはあんた、シロに口止めされただろ!」
「いやいやいやいやおいどんは何も知らんでごわす!本当でごわす!ドクツルタケ、おいどんの目を見るでごわす!」

ドクツルタケはオニフスベの目を睨みました。
オニフスベはまたたくまに視線を逸らしました。

「逸らしてんじゃねーか!」
「こここここれは違うでごわす!ドクツルタケががっつい怖いで思わず逸らしただけでごわす!カエンタケより怖いでごわすど!」
「知らねえよ!くそっ!」

珍しく激昂して地面を蹴ったドクツルタケです。
オニフスベは怯えるあまり、体中に黄色い汗を浮かべています。さらにだんだん茶色くなってきました。

「おい!あっちか!?」
「し、知らんでごわす・・・」
「じゃ、こっちか!?」
「わからん、わからんでごわ・・・」
「じゃあそっちか!?」
「!!そそそそっちではないと思うでごわ」
「そっちだな!サンキュ、オニフスベ!」

荒げた声のままお礼を言って、ドクツルタケは駆け去って行きました。

緊張から解き放たれたオニフスベは、膨らみきった体を音を立ててしぼませていきました。
それと同時に煙のような胞子が彼の体から舞上がり、さらに背中の陰から、

「けほっ、げほえほっ・・・・ありがとう、オニフスベ。けほっ」

咳き込みながらシロフクロタケが現れたのでした。

「怖かった・・・怖かったでごわす・・・」

オニフスベは放心状態です。胞子だけに。

「ごめんね、急に隠れさせて欲しいなんて無理言って。でも、そこまで怯えなくても・・・胞子もこんなに飛ばさなくても」

シロフクロタケは言いましたが、ホコリタケ科のキノコの胞子が多いのは仕方がないことです。オニフスベはシロフクロタケの一万倍の胞子を作るのです。そういうキノコなのです。
気の毒なキノコは茶色醒めた顔で、それでもいくらか落ち着いたのか心配そうにシロフクロタケを見やりました。

「ドクツルタケは行ってしまいもしたが・・・じゃっどん、本当にこれで良かったでごわすか。おいどんが言うのもなんでごわすが、二菌でしち話しあった方が」
「嫌だ!」
「シロフクロタケ・・・」
「言ったよね?あいつは私を毒にしようとしてたんだ!」
「それはどっか誤解があって・・・」
「毒になるくらいなら乱獲される方がマシだ!あんなキノコだと思わなかった!ドクツルタケなんてもう、傘も見たくないっ!」
「・・・・・」
「隠してくれてありがとう、オニフスベ。もう行くね。・・・あ、それと、ごめん。ベニナギナタタケのこと、力になれなくて」
「!い、いいんでごわす。ベニナギナタタケさんは、やっぱりおいどんには過ぎたキノコでごわす。カエンタケが・・・カエンタケが相応しいとも思わんけんども・・・」
「うん・・・ごめんね。元気出して?」
「はぁ、シロフクロタケも」
「・・・うん」

こうして、シロフクロタケはオニフスベと別れ、また一本きりになって、今度はとぼとぼと歩き始めました。
日がすっかり落ちてもまだ歩いておりました。
森を抜けて、野原に出てもまだまだ歩いておりました。
その頃には自然と彼女の傘も俯きがちになって、独り言が増えておりました。

「・・・ドクツルタケなんか」

ぽつ。

「ドクツルタケなんか。こっそりスギヒラタケに会いに行くくらいなら、面と向かって私に言えばいいじゃないか。毒になれって。そりゃ、言われたらその場で張り倒すけど。でも、あんなこそこそするなんて!ドクツルタケの馬鹿!馬鹿キノコ!」

ぽつ、ぽつ。

「大体、何のために毒にならなきゃいけないのさ。そんなに私に間違えられて誤食されるのが嫌なのかな?二菌揃って毒になって誤食を無くそうってこと?そんなの間違ってる!食から毒に変わるなんて危険だし!気がつく前に人間は絶対食べちゃうじゃないか!」

ぽつ、ぽつ、ぽつ。

「友茸じゃないからって毒にまでしようとするなんて。ドクツルタケなんてもう知らない!ドクツルタケなんて・・・」

サァァァァ・・・

「・・・雨?」

シロフクロタケはようやく気づきました。
雨です。真っ暗な空から、砂でも落とすような音を立てて、柔らかく雨が降って来ています。
彼女は先ほど無数に空へと舞い上がって行ったオニフスベの胞子を思い出しました。
おそらくあれが上空数百メートルまで登り、バイオエアロゾルとなって低高度凍結、雨を呼んだものでしょう。
雨がキノコを育てるだけではありません。キノコが雨を育ててもいるのです。

「・・・・・」

シロフクロタケはぼんやりと見上げるばかりでした。
キノコとしていつもは嬉しい恵みの雨も、なぜか今日ばかりは湿っぽすぎるように感じました。

そしてそんな彼女のすぐそばに、また一本の傘が近づいてきていたのでした。

まこと、キノコとは天候までも左右する生き物なのでございます・・・
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