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2007年1月8日設置 サイト→http://warakosu.syarasoujyu.com/
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あるところに下山咲(しもやまさき)という場所がございまして・・・

そこでは人間の生活と並べてもほとんど遜色ないほどに、キノコたちの日常生活が繰り広げられているのでございます。

日常というものは、色んな憂さも溜まるもので。

それはキノコも同じでございます。







菌曜連続ドラマ
キノコな僕ら
第五話「キケンな匂いのするキノコ」



「ベニナギナタタケ・・・なんで、私にあんなこと」

日もだいぶ昇って空の真ん中を通り過ぎた頃です。
シロフクロタケは一本きり、椎の木の根元に腰掛けて悩んでおりました。
彼女の傘の中にはまだ鮮明に、崩れ去ったベニナギナタタケの眼差しが焼き付いていたのでした。

「私、わからないよ・・・お互いを大切にって。だってドクツルタケは私のこと、嫌いだって言ったし」

ドクツルタケは言ってない上に言ったのはシロフクロタケの方でございましたが、彼女の中ではここまでの経緯はそういう風にまとめられておりました。

「・・・ドクツルタケの、ばか」

酷いものでございます。

しかしそんな酷いながらも泣きそうになったシロフクロタケの元へ、またしても新たなキノコが舞い込んできたのでございました。

「シロちゃぁあぁぁぁああぁぁあん!!!!」
「あっ!スナック『赤い籠』のツマミタケママ!」

赤ら頬紅に白足袋の足、高く結い上げた托枝を凄まじい臭いのグレバで固めた妖しの小型キノコ、その名をツマミタケと申します。
一見可憐なキノコに見えますが、よく見れば凹凸くっきりと腹筋の割れた角柱型をしておりまして、勢いよくぶつかられたシロフクロタケはあやうくすっ飛ぶところでありました。

「んっもう!シロちゃんたらっ!アタシが『赤い籠』やってたのはもう十年も昔のコトよッ!」

十年前はアカカゴタケ科ツマミタケ属に分類されておりましたが、

「今は独立してスナック『ツマミ』のツマミタケママよッ!雇われママじゃなくなったのよ~ぅ!」

現在はツマミタケ科ツマミタケ属のツマミタケなのでした。

「お店に長いこと来てくれないから、アタシのこと忘れちゃったのよぅ!もう!シロちゃんたら!可愛い傘していけずなんだからぁ!」
「ご、ごめんね、ツマミタケママ。でもそんなに長く行ってなかったっけ?十年は言い過ぎじゃない?」
「それくらい寂しかったのよぉぉ~~~ぅ!!寂しくて寂しくて托枝こぉんなに伸びちゃったじゃないの、見てホラこれ見て頂戴!ねッ!ねッ!?もぉーシロちゃんって本っ当に罪なキノコなんだからっ。・・・・はッ!!!そうだわ!そんな事話に来たんじゃなかったわッ!!大変なのよシロちゃん!ドクツルちゃんが大変よっ!!」
「えっ?ドクツルタケが!?」
「アタシのお店にさっきまでツチグリがいたのよッ!あいつが見たのよ!!」

それはこんな話でございました・・・



スナック『ツマミ』には、『赤い籠』時代からの常連キノコがおりました。

「ママ~~~もう一杯ぃ~~~」
「んも~~~ぅ、ツチグリちゃん。まだお昼よぅ?こんな時間からお店に来ちゃっててイイわけぇ?」
「いんだよォ俺はァ。フレックスだからァ。時代はフレックス~カンパイ!!」
「フレックスって言ったって、いくらなんでもフレックス過ぎないぃ?」
「俺はね、俺はトクベツなの。俺だけフレックスなのよ~なぜならッ!俺は仕事が、できないッ!」

・・・悲しい話でございます。

「若い奴はダメなの。フレックスできないの。残業なの、お仕事できるから。でも俺がいるとネ?ジャマなのよ。だから!フレックスですッ!家にも帰れませんッ!女房に、寝る時間まで帰ってくるなって言われたからですッ!!カンパイッ!!」
「んもーぅ、ヤケならないでよぅツチグリちゃん。ツチグリちゃんだっていいとこあるわよぅ」
「いいとこってドコ?俺ハゲてますけど。ハゲてる上に公園で子供に踏まれるキノコですけど。ママこんな俺でも好きになってくれる~?」
「もちろん好きよぅ。踏まれるのだって煙が出て面白いからでしょぅ?面白いって大事なことよぅ、自信持ちなさいよ~、そんな汲々しちゃってぇ」

ツチグリは乾燥が続くと縮んでしまうキノコなのでございます。職場があまりにドライだったのでしょう。

「俺だって・・・幼菌の時には炊き込みご飯にできるんだぜェ?誰も知らないけど!真面目な食用キノコなんですよォ!」
「知ってるわよう。ハイ、おかわり。お水多くしといたわよぅ?」
「アリガト。なのにさ、腹菌類だってだけで、出世できないワケ。いいとこは全部ハラタケ類のイケメン属の奴らがとってっちゃうワケ。傘が無けりゃキノコじゃないってことなのよ。俺は言いたいッ!傘があるからなんだっつーんですかァ!!」
「だめよう、僻みっぽくなっちゃ。傘が無くたって素敵なキノコはいっぱいいるはずよぅ」
「あぁ~?お、あれだ。カエンタケとかだろママ。あいつはイケメンだねッ。傘無いのに。いいよネ、カエンタケ」
「ちょっと。ツチグリちゃんカエンタケなんかに憧れてるのっ?だめよう、あいつ猛毒よう」
「毒でもいいよォ~見た目が良ければ毒なんかどうでもいいじゃん。俺いっそ毒になりて~よぉ~!」
「何言ってんのよッ!だめよッそんなの」
「さっきだってさぁ、ここ来る途中にさ。カエンタケとドクツルタケがいて。なんかもう、女のこととか話してんの!」
「・・・えっ?」
「もしもし真昼間ですよ~今、って言いたかったね俺は!・・・ああいうの聞いてるとさァ、俺みたいのが馬鹿らしくなってくるわけよ。毎日毎日働いてさァ、毎日真面目に生えてんのにさァ・・・なのに踏まれて・・・行き場もなくて・・・っ、ぐすっ」
「ちょっとアンタッ!!!!」
「うふぃっ!?」
「どういうことッ!?カエンタケとドクツルちゃんが一緒にいたって、どういうことよッ!!?」
「ひっ、ぎっ・・・・ママ、くるし・・・!!」


こうして、ツマミタケはツチグリの太い子実体を締めあげまして。
カエンタケとドクツルタケの詳しい会話を聞きだしたのでございます。


「・・・というわけなのよーぅ!シロちゃん!」

ツマミタケはグレバを飛ばさんばかりの勢いで説明を終わりました。
シロフクロタケは目をぱちぱちさせました。

「えっ、と」
「ドクツルちゃんは毒だけどイイ子よ!アタシが保証するわッ!お店の女の子たちにも人気よッ!ハラタケ型のほんとのイケメンよ、ツチグリとは違うわッ!」

キノコの世界も人並みに残酷でございます。

「それにシロちゃんのイイキノコでしょぅ?守ってあげたいの!アタシ!」
「べ、別に、イイキノコってわけじゃ・・・」
「カエンタケの奴、ドクツルちゃんにスギヒラタケに会いに行くよう唆してたらしいけど。でもシロちゃんっ!これオカマの直感よ、スギヒラタケは危ないわっ」
「危ない?」
「キケンな匂いがぷんぷんするわ!あの子は危ないキノコよッ!」
「そうなの・・・?」
「シロちゃんみたいな心の綺麗なキノコにはわからないかもしれないわ。でもアタシはこれでも場数くぐってるからわかるのよ・・・あの子は絶対ダメ!ダメなのよ~~~ぅ!!ドクツルちゃんを止めなきゃいけないわ!止めてあげて、シロちゃん!」
「ドクツルタケを止める?・・・でも」

シロフクロタケは顔をゆがめて俯きました。
ツマミタケの勢いに押しのけられて一時的に忘れていた心の痛みが、再びちくちくと椎の葉の先端のように蘇ったのでした。

「でも、私、ドクツルタケに嫌われちゃったから」
「えっ!?なんでッ!?嘘よッ!ドクツルちゃんがシロちゃんの事嫌いになるわけないじゃないのッ!嘘よ嘘よッ!」
「でも、嫌いって」

言っていません。ドクツルタケは。

「・・・きっと、私が、何か怒らせること言ったのかもしれない」
「そんなのッ!そんなの別にいいのよッ!女の子なんだから!笑って泣いて心をこめてごめんなさいって言えば、ドクツルちゃんは許してくれるわッ!」
「そんな」
「本当よッ!女の子が可愛いのは、そういう時のためなのよ!可愛い女とイイ男の我儘に、理由なんかいらないわ!ごめんって言って、ありがとって言って、許して愛してオールオッケーよ!!キノコって、そういうものなのよーぅ!!」

ツマミタケの言うそれは、結構な暴論ではありましたが、何より彼女(♂)の優しさがそのグレバの強烈な臭いのようにびしびしと伝わってきて、落ち込んでいたキノコを勇気づけてくれたのでした。
シロフクロタケは傘を上げました。

「ツマミタケママ・・・ありがとう。私、行ってみる。ドクツルタケが許してくれるかわからないけど、でも危ないことはしないでって止めてくる!」
「それでこそシロちゃんよぅ!頑張ってねッ!」
「うん!ありがとう、ママ!」

かくしてシロフクロタケは椎の木の下にスナックのママを残し、再び走りだしたのでございました。
一体、彼女の交友関係はどうなっているのか。

キノコとはまことに不思議なつきあいをするものでございます・・・
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