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2007年1月8日設置 サイト→http://warakosu.syarasoujyu.com/
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スギ「・・・・・・うっ・・・・・うっ・・・・・」

しとしとしと・・・・

ツチ「・・・・お嬢ちゃん。どうしたのかね、そんなところで」
スギ「!・・・・・・」
ツチ「迷子かね?」
スギ「・・・・・・ううん」
ツチ「早くお家へお帰り。この辺は物騒だよ。人間の子供にむしられるよ」
スギ「・・・・・・・いいよ。スギの方が物騒だもん」
ツチ「?」
スギ「おじさんが早く帰った方がいいよ。でないとスギに殺されちゃうよ」
ツチ「スギって誰かね?」
スギ「スギはスギだよ。あたしのことだよ」
ツチ「・・・・・最近の若い子は自分のこと名前で呼ぶんだね。おじさん、理解できないな」
スギ「いいよ。誰もスギのこと理解なんてしてくれないよ。もういいよ、どうでもいいよ」
ツチ「・・・・・」
スギ「早くどっか行って。スギに構わないで。ほっといて。でないとスギ、本当におじさんのことも殺しちゃうかおしれないよ」
ツチ「・・・・・君は誰か殺したのかね」
スギ「・・・・・・・・・殺したよ」
ツチ「・・・。いつ?」
スギ「・・・・・今日の朝」
ツチ「新聞には出てなかったね。菌スポにも、毎茸の夕刊にも載ってなかったよ。本当にそんなことをしたのかい?」
スギ「・・・・・・・・・」
ツチ「話してみなさい。何があったか。本当だとしたら私は君を放っておくわけにいかないからね」
スギ「・・・・・・・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ツチ「・・・・・・・そんなことがあったんだね」
スギ「・・・・・・・・・・・・」
ツチ「警察に行こう。おじさんも一緒に行ってあげる」
スギ「・・・・・・・いや」
ツチ「嫌でも行かなきゃいけないよ」
スギ「いや。行かない。絶対行かない。どうしてスギばっかり悪いの。スギは悪くない、スギのせいじゃない」
ツチ「そんなことを言ってるとね、何も解決しないよ」
スギ「他のキノコが解決すればいいじゃない!なんでスギがしなくちゃいけないの!何でスギのせいなの!」
ツチ「もちろん他のキノコは他のキノコで解決するだろう。だけど誰も君のことは解決しないよ。君は自分のことは自分でしなくちゃいけない」
スギ「それ、誰もスギのことなんか考えてくれないってことだね」
ツチ「当然じゃないかね。君だって他のキノコの事を考えてあげてないだろう」
スギ「スギは考えてるよ!スギはドクツルタケのこと考えて・・・・!」
ツチ「だったらドクツルタケ君のために警察に行きなさい」
スギ「!スギが警察に行ってもドクツルタケが助かるわけじゃない・・・・!」
ツチ「それは言い訳だ。君は自分のことしか考えてないから警察に行くのが怖いんだ」
スギ「う、うるさいっ!あんたなんかにスギの何がわかるの!」
ツチ「聞きなさい」
スギ「うるさいうるさい!うるさいうるさいうるさ・・・・!!」
ツチ「いい加減にしなさいっ!!!」
スギ「!!」
ツチ「言っとくけどね!!おじさんが聞く限り完全に君が悪いよ!!殺菌なんかした方が悪いに決まってるだろう!!」
スギ「だ、だって!!」
ツチ「だってもさっても無いっ!!駄目なものは駄目だっ!!!」
スギ「!!・・・・っ!」
ツチ「睨みたきゃ睨みなさい!第一線から遠ざけられて数年このかた、上司と部下に挟まれながら職場のOLの陰口に耐えてきたおじさんにとって、君なんか怒ろうが怒鳴ろうが杉の枝振り回そうがちっとも怖くない!自分の菌生が上手く行かないからって何でも他菌のせいにして!そんなんで良いことがあると思うのかね!仕事でも何でも、自分の関わった物は全部自分に責任があると思いなさい!悪いこと全部周りのせいにしてたら君の周りにキノコがいなくなるのも当たり前じゃないかね!」
スギ「!・・・・」
ツチ「君はこれまで苦労をしてきたかもしれない。辛い目にもあってきたかもしれない。だけどね、そんなの大方のキノコには全く関係の無い話だ。皆それぞれ大変な思いをして生きてるんだ。誰かと比べて自分は惨めだとか、誰かと比べれば自分は恵まれてるとか、そんな卑しい見方をして何になる。誰かの菌生を知りたいと思うのは、その誰かが与えられた環境と時間の中で精一杯、一生懸命、魅力的な生き方をしているときだ。誰だってそういうキノコは素敵だと思うだろう。知りたいと思うだろう。君はそういう生き方をしてきたのかね。胸を張って私はこれだけのことをしてきましたと誇れる何かがあるのかね」
スギ「・・・・・・」
ツチ「君だって今まで生きてきたんだ。何も無いわけはないだろう」
スギ「・・・・・・」
ツチ「無いのかね」
スギ「・・・無いよ。スギ、ダメなキノコだもん」
ツチ「また馬鹿なことを言う!」
スギ「本当だよ。人間には採られるし、増える為に頑張って食べたら毒になるし、何やっても駄目だよ」
ツチ「今頑張ったと言ったじゃないかね」
スギ「・・・・・・・・・」
ツチ「頑張って食べて、色々な有機物を土へ還したんだろう」
スギ「・・・・・・・うん」
ツチ「腐生菌として立派に生きてきたんじゃないかね」
スギ「・・・・・・・・うん」
ツチ「頑張ったじゃないか」
スギ「・・・・・頑張った?」
ツチ「頑張ったよ」
スギ「・・・・・・そうだね。スギ、あの時は、頑張ったね・・・・」
ツチ「それが君の誇りじゃないか。それをちゃんと大事にしてれば、他菌を傷つけることも無かったんだ」
スギ「・・・・そうかな。でも、もう遅いね」
ツチ「どうして」
スギ「だって、ドクツルタケは死んじゃった・・・・」
ツチ「どうして。まだわからんじゃないか。死んでしまったとは限らない。ニュースになってないんだから、生きてるかも知れないじゃないか」
スギ「・・・・ほんとに?ほんとにそう思う?」
ツチ「思うとも」
スギ「・・・おじさん」
ツチ「なんだい?」
スギ「スギ、怖いよ。ドクツルタケがもし死んじゃってたらどうしよう。ドクツルタケがいなくなっちゃったらどうしよう。怖いよ、怖いよぉ・・・っ!」
ツチ「落ち着きなさい。大丈夫だよ」
スギ「助けてぇ・・っ!怖いよ、助けて、おじさん、助けて・・・助けて!助けてぇっ!」
ツチ「よしよし、助けてあげる。必ず、助けてあげるからね」
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