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2007年1月8日設置 サイト→http://warakosu.syarasoujyu.com/
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あるところに下山咲(しもやまさき)という場所がございまして・・・

そこではキノコが人間と同じように毎日暮らしておりました。

人間と同じように暮らしておりますと、人間と同じように怪我することもございます。
そんな時にはキノコも医者にかかるのです。

キノコの中にも名医はおります。ヤブ医者もおります。
治れば名医、枯れればヤブでございます。





菌曜連続???ドラマ
キノコな僕ら
第十八話 菌急手術


クモタケによって病院に運び込まれたドクツルタケは、そのまますぐに手術室へ送られました。
菌急手術でございます。
彼の後を追って遅れて到着したキノコ達・・・シロフクロタケ、ツマミタケ、カエンタケは、手術室の前で無為の時間を過ごしました。
シロフクロタケが幼菌のように固く縮こまって言葉も無く祈っているのを、ツマミタケが励まします。

「シロちゃんッ!大丈夫よッ!考えてみれば、アタシたちキノコじゃない!子実体が傷ついたくらいでどうなるものでもないわッ!菌糸が無事ならまた生えればオッケーよッ!そうでしょぅカエンタケちゃん!?」
「・・・とは限らねえぜ」

ここまでの流れをもともこも無くするツマミタケの台詞を、低く否定するカエンタケでございます。

「他菌に刺されるってなぁ、自己崩壊すんのとはワケが違う。子実体だって菌糸の一部さ、どこに影響が出てるかわかったもんじゃねえからな。傷からヒポミケスキンに感染することもあるぜ、記憶菌核がやられたら、生え直したってそいつぁ今までのドクツルタケとは別菌だ」
「ちょっとーぅ!なんでそんなコワイこと言うのよぅッ!!シロちゃんを安心させてあげようとは思わないのッ!!?」
「俺ぁ気休めは言わねえ。大した傷じゃねえなら、クモタケは運びやしねえからな」
「ちょっとちょっとちょっとぉぉぉ!!やめて頂戴ッ!!大丈夫、大丈夫よシロちゃんッ!ここの先生は名医よッ!銀耳先生って言ってねぇ、不老不死のお薬にまでされていた先生なのよッ!そうよねカエンタケちゃんッ!?」
「そうだがガセだぜ。不老不死なんざあるわけねえ」
「ちょっとおおおおおおおう!!!」

銀耳は、またの名をシロキクラゲと申します。
シロキクラゲ属シロキクラゲ科のキノコで、その名の通り、キクラゲの白いやつでございます。
味はキクラゲより淡白でございますが、野生で見つかる事は稀ですので、古くから珍重されて薬としても用いられて参りました。
不老不死とはさすがにいきませんが、今でも肝臓や心臓に薬効があるとされているのです。

「大丈夫ッ!大丈夫なのよ絶対ッ!!そうでしょカエンタケちゃんッ!!?」
「・・・気休めは言わねえって言ってんだろう。なんで俺に振るんだ」
「・・・わた、しの」

シロフクロタケが震えながら言いました。

「わたしの、せいだ。私が、ドクツルタケ待ってたら・・・」
「シロちゃん?」
「私が、ちゃんと昨日、家に帰ってたら、こんなことにならなかったのに・・・」
「シロちゃん!違うわッ!」
「違わない!本当は私が刺されてたはずなんだ!私が・・・私のせいでドクツルタケ・・・っ!私が刺されていれば良かったっ!!」
「いいわけねえだろう、馬鹿タケが」

と、カエンタケ。

「命張って守った女には言われたくねえ台詞だ。ドクツルタケの傘に泥塗る気かぃ白いの。取り消しな」
「ううっ、ひっく、うっく・・・」
「泣くのは早ぇだろ。楽観も悲観もする必要はねえ。静かに待とうや」
「そうッ!そうよッ!!いい事言ったわカエンタケちゃんッ!!静かに待ちましょうッ!!希望を捨てちゃダメよシロちゃんッッ!!!待てばキノコの日和ありってコトワザでも言うじゃないッ!?静かに待つのよぅ今は!!」
「お前ぇがうるせえんだよ。黙れ」

長い長い時間が過ぎました。
それは確かに長い時間だったのですが、待つ方にとってはさらに百年にも感じられるほどの長さでした。
長い長い長い長い時間の果てに・・・

ついに、手術室の扉が開きました。

「・・・。終わったぞい」
「先生ぇぇえええええええええんッ!!!!どうだったのどうだったのどうだったのドクツルちゃんはぁぁぁああああッッ!!!!!」

現れた白く透き通るしわくちゃのキノコ、銀耳。
・・・に、いきなり迫り狂って行ったツマミタケを、カエンタケが蹴り飛ばして黙らせました。
足が無いように見えるキノコも、必要な時には、蹴れます。

「さっきっからギャンギャンうるさいのがおると思っていたが、ツマミタケか。ここは病院じゃぞ。松の皮ひっぱがすような声で叫ぶなら出ていってくれんか」

銀耳の顔は皺が多すぎて表情がわかりかねましたが、だいぶ迷惑していたようでした。
カエンタケが代わりに謝りました。

「すまねえな爺さん。この通り黙らせた。ドクツルはどうなった?」
「カエンタケか。黙らすついでに摘んで捨てて来てくれんか。ツマミタケはグレバの臭いがどうもかなわん」
「冗談言えるってことは、まあ大事にはならなかったってことで良さそうだな。白いの、安心しな。ドクツルタケは助かったぜ」
「ほん・・・と?」
「本当も何も無いわな。傷も浅いし菌糸も傷ついとらん。ヒポケミスキンも陰性じゃ。なんも無いのに杉の欠片取るのだけがやたら手間かかりおったわ。あんな患者は二度とごめんじゃまったく・・・」
「いやあああん先生ぇぇぇぇぇええええんッッ!!!愛してるわよぉぉぉぉ!!!」
「よさんかーっ!!抱きつくな気色の悪いっ!!カエンタケ、だから早くこいつをつまんで捨ててくれと!」
「ハッハッ、すまねえ銀爺、騒ぎ過ぎたな」
「患者は騒ぐもんじゃ!慣れとる!それよりこの阿呆を・・・」
「・・・・ドクツルタケ」
「んん?」
「ドクツルタケーっ!」
「こ、こりゃっ!そっちは手術室じゃ、入るなーっ!!」

けれどもシロフクロタケは聞いてはおりませんでした。
彼女はそのままドアを押しあけ、手術台の上のドクツルタケに駆け寄りました。

「ドクツルタケ!ドクツルタケぇっ」
「・・・・・・」
「ドクツルタケ?ドク・・・!先生ぇ、ドクツルタケが起きてないようっ!」
「当たり前じゃーっ!まだ麻酔がかかっとるんじゃ!こんな手術直後の患者に何させる気じゃ、出ていけっ!」
「うっ、うっ」
「銀爺、大目に見てやってくれ。こいつぁあれだ、ドクツルの嫁だ」
「なに?そうなのか、お前さん?」
「うっ、ううん?違う」
「・・・空気読めよお前ぇ」
「もうよい!嫁でもなんでも、とにかくここからは出ていってもらうぞ!神聖な手術室じゃ!患者は病室に運ぶから、騒ぎたければそっちで騒げ!」

ドクツルタケは助かったのでした。
運ばれて行く彼に寄生菌のように付き添いながら、シロフクロタケは今は安心のために泣いておりました。

「ドクツルちゃん・・・シロちゃん・・・良かった、良かったわねッ!ぐすっ。ひっ、ひぐしっ!!」
「やれやれだ。まったく」

まことキノコというものは、キノコ騒がせなものでございます・・・
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