ハマシメジ、僕はもう疲れたよ・・・・とっても眠いんだ・・・
話まったくわっかんねえー!!;
わっかんねーけどなんかすげー!!;;
■あの茸は今
カエンとベニの別れ話もスギの事件も何も知らない平和なカラカサ。
シロちゃんは家に帰れたかしら、心配だからカエンタケに聞きに行ってみようかな、そうだせっかくだからベニちゃんにお土産でも買っていこうそうしよう。
何の憂いも無い晴れやかな笑顔で買い物をする彼の頭には、
「女の子→甘いもの→ショートケーキ」
というエリンギを割ったようなまっすぐな構図しか無かった。
・・・吉野家と女は同じ世界に存在しないと思っている夢見る男の一人である。
・・・・・
ベニ「・・・そうですか。ドクツルタケさん・・・良かった!」
カラ「こんにちはあ」
ベニ「あ、どなたかいらっしゃったみたい・・・はい、お大事にとお伝え下さい。失礼いたします・・・」
チン。
カラ「カエンタケえ、いるかい?シロちゃんあのあと無事に・・・・あ。」
ベニ「こんにちは。カラカサタケさんでしたか」
カラ「!ベニちゃんごめ・・・!電話中だった!?よね!?」
ベニ「い、いいえ、いいえ。もう終わるところでした。カエンタケからでしたから大丈夫ですよ」
カラ「あれ?カエンタケ留守?どこに行ったの?」
ベニ「今はまだ病院に」
カラ「病院!?」
ベニ「はい・・・」
カラ「な、何があったんだベニちゃん!!カエンタケは昨日はあんなに元気で!!」
ベニ「え?あ、あの、カエンタケは別になんともな・・・・」
カラ「カエンタケはなんともない・・・?じゃあ・・・・シロちゃん!?シロちゃんに何かあったんだねっ!!?」
ベニ「!」
カラ「もしかしてお酒のせいで具合悪くしたんじゃないかい!?俺思ったんだよ昨日、いくらなんでも飲みすぎだって!カエンタケが病院に連れてくなんてそんなよっぽどひどいんじゃないか!?ひどいのかい!?」
ベニ「お、落ち着いて下さい、カラカサタケさん・・・!」
カラ「ベニちゃん話してくれ!一体、俺の知らない間に何があったのか!」
ベニ「は、話します、話しますから落ち着いて・・・・!おねが・・・・!」
ベニ「・・・・・ということがあったのです」
カラ「スギヒラタケにドクツルくんが・・・・なんてことだ・・・」
ベニ「この家に運ばれてきた時には意識がありませんでしたが、ここから病院に運ばれて手術をされて、一命は取り留められたそうです。傷も思ったほど深くなく、菌床をあたたかくして少し湿らせておけばまたお元気に生えられるでしょうとのこと。本当に、不幸中の幸いでございました。ほんとうによかった・・・!」
カラ「そうだね、大事にならなくてほんっっとうに良かったね!シロちゃんもほっとしてるだろうな。いや、心配してるのかな?両方か!とにかくもう大変だったねベニちゃんも!」
ベニ「私は何もできませんでした。カエンタケが・・・カエンタケがいなければどうなっていたことか。ドクツルタケさんを運んだのも、傷口の液止めも、救急茸を呼ばせたのも、全てカエンタケなのです。彼がみんなしてくれたのです。私はただ見ているだけで・・・怖くて動くことすらできずに・・・・」
カラ「普通はそうだよ。カエンタケが怖いもの知らずなんだよ。あいつは昔っから頼りになるキノコだし、かっこつけてるけど何だかんだでキノコの面倒見るの嫌いじゃないし」
ベニ「ええ、ええ」
カラ「俺だってショウジョウバエから助けてもらったし、ベニちゃんだって山から出てきたとこ拾われたし。そういうとこまったく変わってないんだな。きっと変わらないもんなんだろうね、キノコの良いところって」
ベニ「ええ・・・・」
カラ「ああいう奴だからちょっとわかりづらいところもあるけどね。あはは。でもいい奴だよ本当に」
ベニ「・・・・・・・」
カラ「まだ病院かあ。ケーキ3つ買ってきたんだけどどうしよう。あいつ遅くなるって言ってた?ベニちゃん」
ベニ「!あ、いいえ、もうすぐ帰るからと」
カラ「じゃあ待ってようかな。いい?俺ここ居て」
ベニ「もちろんです。すぐにお茶をおいれしますから、どうぞお楽になさってください」
ぽつ。
カラ「ん?」
ぽつ。ぽつ。
カラ「雨だ」
ベニ「!・・・雨・・・・」
カラ「梅雨に入ったからね。よく降るなあ」
ベニ「・・・・・・わたくし」
カラ「ん?」
ベニ「私・・・カエンタケに傘を持っていかなければ」
カラ「あ!俺行ってこようか?」
ベニ「いいえ、いいえ、カラカサタケさんはここに居てください。私が参ります」
カラ「そう?」
ベニ「はい」
カラ「・・・そっか。じゃあひどくならないうちに行ってきたほうがいい。お茶は俺、自分でいれられるからさ」
ベニ「・・・申し訳ありません」
カラ「いいんだよ、そんなの。気をつけて行って来て。カエンタケをよろしく」
ベニ「はい。行ってまいります」
■シロキクラゲ(白木耳)
通称「銀爺」。(中国名「銀耳(インアイ)」)
中肉中背で白髪、全体的に薄い老人。(中型で白く透き通っていて皺くちゃ)
医者。(漢方薬に用いられる)
二十四時間営業。(通年で発生する)
ピーポーピーポーピーポー
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・ ・ ・
カエ「・・・・・随分かかりやがるな」
ツマ「かかりすぎよーぅ!手術室に入ってからもう5時間よーぅ!?アタシもう耐えらん無いわよーぅッ!」
カエ「騒ぐんじゃねえ。一番堪えてんのはお前ぇじゃねえだろう」
シロ「・・・・・・・」
ツマ「シロちゃん・・・大丈夫よッ!ここのお医者さんはとっても良いお医者さんなのよッ!」
シロ「・・・・・・・」
ツマ「銀耳先生って言ってねッ、ちょっと昔までは不老不死のお薬にまでされてたキノコなのよッ!そうねカエンタケちゃんッ!?」
カエ「うるせえって」
ツマ「大体ドクツルちゃんがシロちゃん置いていくなんてコトあるわけないわッッ!そうでしょシロちゃんッ!?」
シロ「・・・わた、しの・・・」
ツマ「シロちゃんっ?」
シロ「わたしの、せいだ・・・わたしが・・・ドクツルタケ、待ってたら・・・・」
ツマ「!」
シロ「わたしが、ちゃんと家に帰ってたら・・・・そしたらこんなこと・・・・ならなかったのに・・・・」
ツマ「ち、違うわよッ、シロちゃん!そうじゃないわよッ!」
シロ「ほんとは・・・っ、刺されてたのは私のはずだったんだ・・・・!私だったらよかったんだっ・・・!」
ツマ「シロちゃ・・・!」
シロ「私が刺されてたら良かったんだぁっ!」
カエ「良いわけねえだろう、馬鹿タケが」
ツマ「!カエンタケちゃんッ!?」
シロ「ううっ、ひっく、う、うぇぇっ!」
カエ「取り消しな。命張って守った女にだけは言われたくねえ台詞だ。ドクツルタケの傘に泥塗る気か」
シロ「うっく・・・・ひっく・・・・っ」
ツマ「し、シロちゃんッ、大丈夫よーぅ。ドクツルちゃんは大丈夫よぅ、ねぇっ?」
シロ「・・・・・・う・・・・ふ、っく・・・・・」
カチャ。
銀爺「・・・・・・・・」
ツマ「!!先生ぇぇぇぇぇえええええええッッッ!!!どうなのどうなのドクツルちゃんはどうなったのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぅッッ!!!」
銀爺「・・・さっきっから外でギャンギャンうるさいのがおると思ったらお前さんかい。ここは病院じゃぞ。松の皮ひっぱがすような声で騒ぐなら出てってくれ」
ツマ「ドクツルちゃんが先よぉぉぉぉぉぉぉッッ!!どうなったのよぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!」
カエ「おい、黙れ・・・・」
銀爺「んん?カエンタケ?これは珍しいのう、何の用じゃ?」
カエ「久方ぶりだな銀爺よ。俺もドクツルタケに用さ、あいつどうなったぃ」
銀爺「そのクソやかましいツマミタケをつまんで捨ててきてくれ。そしたら話してやろう」
カエ「冗談言えるってことは心配するなってことかねぇ。シロフクロタケ、どうやら安心して良さそうだぜ」
シロ「!・・・・・」
ツマ「ほんとなのッッ!!?ほんとにドクツルちゃん助かったのッッ!!?」
銀爺「助かったもなんもあるかい。傷も浅いし菌糸もどっこも傷ついとらん。ヒポミケスキンの感染の心配も無い。なんも無いくせに杉の欠けら取るのだけはやたら手間がかかりおった。あんな急患はもう二度とごめんじゃな」
ツマ「っ!!先生ええええええ!!!!愛してるわよぉぉぉぉぉおぉぉぉうッッ!!!」
銀爺「!!よさんか気色の悪いっっ!!」
カエ「ハッハッ、爺さんすまねえな、大袈裟に騒ぎすぎたか」
銀爺「フン、患者ってのは大概騒ぎ過ぎるもんじゃ。慣れとる!」
カエ「だとよ、シロフクロタケ。良かっ・・・・ん?」
シロ「・・・・・・・・ドクツルタケ・・・・」
カエ「おい」
シロ「ドクツルタケ・・・・!」
銀爺「!?こりゃっ!そっちは手術室じゃっ!入るなーっ!!」
シロ「ドクツルタケっ!!」
・・・・・・・
カエ「聞いちゃいねえようだねぇ・・・」
ツマ「愛だわねぇ・・・・」
シロ「ドクツルタケ!ドクツルタケ!」
ドク「・・・・・・・・・・シロ?」
シロ「!ドクツルタケ・・・・・!よかっ・・・・・よかった・・・・っ!よかったぁっ!」
ドク「・・・・・・・・・・シロ・・・・お前・・・・」
シロ「良かったぁぁ・・・・・う、うっく、ふぇ、えええぇっ」
ドク「・・・・・・・・・泣くな」
シロ「うええええっ、ドクツルタケ・・・・ひっく、うわああああんっ」
ドク「・・・・泣くなっつってんのに・・・・・」
シロ「うわああああん!」
ドク「・・・・・・・バカだな・・・・・・・・・・・・」
シロ「うわああああん!」
ドク「・・・・・・・・・・・シロ」
シロ「う、うっく、ふ、うっく」
ドク「・・・・・シロ、俺・・・・・・・・・」
銀爺「こりゃああっ!!!」
シロ「!っく!」
銀爺「わしの手術室からさっさと出て行けっ!!患者も外に出すからとっとと出て行くんじゃ白いのっっ!!」
シロ「ご、ごめんなさい・・・・!」
ドク「シロ・・・・・・」
シロ「せ、先生っ!銀先生っ!!」
銀爺「なんじゃっ!」
シロ「ありがとうねぇっ!!ううっ、大好きだよ先生ぇーっっ!!!」
銀爺「!!こ、こりゃっ!!抱きつくなーっっ!!」
ドク「・・・・・・・・・・・・・・・・」
ツマ「傘色悪いわぁ、ドクツルちゃん。やっぱり怪我が痛むのねぇ」
カエ「まあ、ゆっくり休めば治るだろうさ。・・・やれやれだ」
カエ「・・・・・早ぇな、ベニナギナタ」
ベニ「!・・・おはようございます」
カエ「眠れたかい」
ベニ「は、はい・・・」
カエ「やめな、嘘が下手だお前ぇは」
ベニ「・・・・・・・。あ、あの、お食事がもう出来ています。どうぞ、座って」
カエ「ん?ああ・・・」
ベニ「・・・・・・・・・・」
カエ「・・・・・・・・・・」
ベニ「・・・・・・・・・・」
カエ「・・・・・・・・やめだ。俺ぁどっか他所で食ってくる」
ベニ「え・・・?ま、待ってカエンタケ!まってくださ・・・・!」
ツマ「カエンタケちゃああああああああんッッ!!!!た、た、大変よぉぉぉぉぉぉぉーーーーぅッッ!!!」
カエ「!またうるせえのが・・・・なんで俺まで気色悪ぃ呼び方してやがる」
ツマ「カエンタケちゃんッ!ちょっとッッ!ちょっと大変なのよッッ!!あらッ!?何なのアンタたちッッ!?なんでベニちゃんにご飯作らせてんのカエンタケちゃんッッ!?もしかしてもう夫婦なのッッ!?」
カエ「蹴り飛ばされてぇのか腐れキノコ。これぁこいつが好きでやってんだ」
ベニ「わ、私は、その、置いていただいている身分ですから・・・・お食事の支度くらいはせめて・・・・」
ツマ「お掃除はッ!?」
ベニ「それもいたします・・・」
ツマ「お洗濯はッッ!?」
ベニ「そ、それもいたします」
ツマ「結婚はッッ!?」
ベニ「け・・・・!!そ、それは、い、いたしませんっ」
ツマ「んまぁーーーッッッ!!最低だわッ!!カエンタケちゃんッッ!!!」
カエ「おいうるせえの。10数える間に失せろ。てめぇのドタマの托枝叩き潰されたくなかったらな。一、ニ、三・・・・」
ツマ「ちょ、ちょっと違うのよッッ!!それどころじゃないのよッッ!!ドクツルちゃんが大変なのよーぅッッ!!」
カエ「六、七、あいつらの茶番見るのはもうごめんだ、八・・・・・」
ツマ「違うのッッ!!刺されたのよッッ!!」
ベニ「!?」
カエ「九・・・・・なんだと?」
ツマ「スギヒラタケがシロちゃんを刺そうとしたのッッ!それで、シロちゃん庇ってドクツルちゃんが刺されちゃったのッッ!!あっちで倒れて動かないのよッッ!!救急茸呼んでちょうだいなのよーぅッッ!!!」
カエ「・・・・・本当か?」
ツマ「本当よーぅッ!」
カエ「なんでそれ早く言わねえ!!ベニ、ここに呼んどきな。俺ぁドクツルタケ連れて来る」
ベニ「は、はい!」
カエ「場所どこだツマミタケ!」
ツマ「あっち、あっちとそっちの間のあっちよーーーーぅッッ!!!」
カエ「くそっ・・・・全然要領得ねぇ・・・・!」
シロ「ドクツルタケ・・・ドクツルタケ、しっかりして、目を開けて・・・・お願いだよぉっ」
ドク「・・・・・・・・・」
シロ「うっ・・・・ううっ・・・・・」
スギ「スギ・・・わるく、わるくないもん・・・・スギは・・・・スギは・・・・・・」
シロ「ドクツルタケ・・・・っ・・・・ドクツルタケぇっ・・・・」
スギ「でも・・・・でも死んじゃったらどうしよ・・・・ドクツルタケ死んじゃったらどうしよ・・・・」
シロ「や、やめてよ・・・・!」
スギ「ねえどうしよ、どうすればいい?ドクツルタケ死んじゃったら、スギどうすればいいの?ねえシロフクロタケ、どうすればいいの、スギはどうすればいいのぉっ!?」
シロ「やめてってば!!わかんないよ!やだよそんなのわかんないよ!やだよやだよドクツルタケぇっ!!」
ドク「・・・・・・・・・・シロ」
シロ「!!ど、ドクツルタケ!?気がついたのっ!?」
ドク「・・・・・・・スギヒラタケ・・・逃がせ」
スギ「!」
シロ「えっ?な、なに?」
ドク「このままじゃ・・・・警察に・・・・・そいつ・・・・・」
シロ「ドクツルタケ・・・・」
スギ「・・・・・・」
ドク「・・・・・・・・・あと・・・」
シロ「な、なに!?」
ドク「・・・・・今なら・・・・・聞いてくれそうだ・・・から・・・・・・」
シロ「なに・・・・?」
ドク「俺・・・・・おまえのこと・・・・」
ツマ「シロちゃあああああああああああああああああーーーーーんッッッッ!!!!」
シロ「ツマミタケママ!!こっち、こっちだよぉっ!!!!」
ドク「・・・・・・・・・・」
ツマ「ドクツルちゃんッッ!!今お医者さんに連れてったげるわよーぅッッ!!」
カエ「おい、しっかりしろおい!・・・ダメだ、意識なくしてやがる」
シロ「うそっ!?だって今まで・・・ドクツルタケ!やだよぉドクツルタケ!!」
スギ「・・・・・・・」
カエ「!スギヒラタケ」
スギ「!」
カエ「お前ぇいつまでそんなもんぶら下げてやがる!よこせ!」
スギ「あ・・・っ!」
カエ「こんなもん振り回しやがって・・・・とっとと失せろ!!二度とこの近辺うろつくんじゃねえ!!」
スギ「っ!・・・・・」
・・・・・・・
ツマ「ちょっとーぅッ!いいのッ!?あのコ逃がしちゃってッッ!!」
カエ「未練があんならてめえで追いかけな。それよりドクツルタケ運ぶぜ。俺んちだ」
シロ「あ、ありがとうカエンタケぇっ・・・」
カエ「泣くのは医者に診せてからにしろ。急ぐぞ」
シロ「うんっ!」
ツマ「あッ、待ってッ!アンタたち足速いわよーーーぅッッ!!」