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2007年1月8日設置 サイト→http://warakosu.syarasoujyu.com/
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その他のナラタケ達。

■コバリナラタケ
このままではナラタケ軍がおっさんばっかりになってしまうという危惧から、ようやく女性士官一名。ハルニレの腐った木に生えるナラタケ。全体的にサメ肌な見た目で、柄が折れやすい特徴がある。
作戦実行中にしょっちゅう折れるので曹長はキレ気味。

■ナラタケモドキ
モドキとついても立派なナラタケ属。ナラタケ曹長に劣らぬ強力な病原性を持ち、「ナラタケ病」と並ぶ「ナラタケモドキ病」の原因。優秀な青年士官だが、味は曹長より劣る。
曹長に憧れて名誉ナラタケ(謎)を目指しているが、ツバが無いので容易く見分けられてしまう。

■ホテイナラタケ
名前の通り、しもぶくれのナラタケ。柄の下部分がふくらんでいる特徴を持つ。日本のほかアメリカ、カナダ、コロンビアに広く分布するが、ヨーロッパにはいない。
気のいい脇役として重宝したい。


他、クロゲナラタケ、キツブナラタケ、ヒトリナラタケなど。
にぎやかだな、ナラタケよ・・・
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オニナラタケ参謀総長。現在の「世界最大の生物」記録保持者。

米国オレゴン州で1998年に発見・2003年に確認された彼は、一個体でなんと面積965ha(9.65k㎡=965万㎡)、推定重量6615t、推定年齢2400歳。
ちなみに東京都千代田区の面積が11.66k㎡である。オニナラタケ一菌で行政機関から警視庁および皇居まで制圧できると思うと胸が熱い。

そんな恐るべき彼であるが、ナラタケ属の中では病原性は弱く意外な穏健派。
広範囲に菌糸を張るのは攻撃よりも情報戦のためであろう。
考えてみれば、9.65k㎡という広さは生物というより最早インフラに近い。自らの体を使った通信網でこの世の全てを盗聴している。そう考えても不思議は無い。

味は不味い。ナラタケなので生で食べると消化不良、火を通しても食べ過ぎれば中毒を起こす。その上彼は固いので食感が悪い。そこまで揃ったらもうそれは可食ではなく食不適とすべきだという意見があるほどである。

勢いで葉巻を咥えさせてしまったが、ナラタケ達はほとんど匂いのしないキノコなので、実際はたぶん吸わない。実際って何だ。

あるところに下山咲(しもやまさき)という場所がございまして・・・ 

人間達が人間らしく住んでおりますその一方で、キノコ達がキノコらしく暮らしておりました。
「キノコらしく」というのがどういうことか、人間はあまり知らないようですが・・・

例えば、キノコらしく走ったり、キノコらしくしゃべったり、

キノコらしく愛したり、キノコらしく報われなかったり。

そんな事でございます。





菌曜連続深夜ドラマ
キノコな僕ら
第七話「もつれる関係」


ドクツルタケとスギヒラタケが軋む会話をかわしていたその杉林に、今また一本のキノコが近付きつつありました。
シロフクロタケでございます。

「ドクツルタケ・・・どこだろ」

手入れの悪い杉林は木も落葉もあらかた腐っております。
シロフクロタケは腐生菌でしたが、木よりも草の枯れたのの方が好きな性質でございましたので、墓標のように立ち枯れた木々の光景はどうにも居心地悪く感じました。
日も沈みかけております。
ここは手っ取り早く、「ドクツルタケ」と声を上げて呼んでみたほうが良いかもしれません。

「どく・・・」

彼女が言いかけた、その時でした。
左手の木の後ろから、キノコの声が聞こえました。

「・・・でも、どうしてそんなこと、知りたかったの?」

初めて聞く高い声でした。
シロフクロタケはそっとそちらへ行ってみました。

「スギのことが知りたかったから?そうなのね?」

木の陰から覗いてみると、ふうわりと白く傘を重ねた可愛らしいキノコがおりました。
そして彼女が笑顔で身を寄せて話しかけているのは、こちらにだいぶ背中を向けてはいますが、確かにドクツルタケなのでした。

彼は何か言ったようでした。可愛いキノコの笑顔が宙ぶらりんのようになりました。
シロフクロタケは柄を固くして息をひそめました。なんとなく、そうしなければいけないような気がしたのです。

「・・・違うの?じゃあなんで?なんで毒になる方法なんて聞くの?聞いてどうするの?」
「別に、どうもしない」
「嘘だよ」

ドクツルタケが少し身じろぎしたのが見えました。相手は、けれどすぐに前以上にくっついたようでした。

「だってそうじゃなきゃこんなとこに来ないでしょう?ね?・・・それとも、本当にスギに会いたかっただけなのかな?そうだったら嬉しいな。スギねえ、ドクツルタケが大好きなの。とってもとっても、だあい好きなのよ」
「・・・それはさっきも聞いた」
「何度だって言うよ。ドクツルタケが嬉しいって笑うまで言うよ。スギはドクツルタケが好き。大好き。大好き。大好き。大好き。好き好き好き好き好き好き・・・」
「やめろ」
「すきすきすきすきすきすき」
「やめろって」
「すきすきすき!!じゃあドクツルタケも言ってよ!嬉しいって笑って、スギのこと好きだって言って!なんでそんな顔してるの?スギに会いに来たんでしょう?スギのこと聞きにきたんでしょう?スギのこと好きだからなんでしょう?そうだよねえっ!?」
「・・・・・・」
「なんで黙るの?スギのこと嫌いなの?スギが毒になったから嫌いなの?じゃあ昔は好きだった?スギのこと好きだった?ねえドクツルタケ、答えて?ねえ、ねえ、ドクツルタケ、ねえっ!」
「・・・・・・」
「ドクツルタケぇっ・・・!」

こんな状況に傘をつっこめるキノコはおりません。比較的基部の図太いシロフクロタケであっても、さすがにそれは無理でした。
しかし、ツバの外れたようにドクツルタケに訴えている声は、甘いようで、なのにとても必死な怖い響きを持っていたのです。シロフクロタケは思わず身震いしました。菌糸の先まで震えました。
それがいけなかったのでしょう。
彼女の足元の落ち葉が、がさりと音を立てました。

「!だあれ?」

可愛いキノコがこちらを向きました。ドクツルタケも振りむきました。
隠れる暇などありません。
シロフクロタケはおずおずと、木の陰から出て行くしかありませんでした。

「あの・・・こん、にちは」
「・・・・・・」

ドクツルタケが何とも言えない顔をしてなにかを言いかけました。
が。

「こんにちは。スギだよ。スギヒラタケっていうの。あなた、だあれ?」

スギヒラタケの方がわずかに早くシロフクロタケとの会話を取ってしまいました。

「私は、シロフクロタケ」
「シロフクロタケ。ふうん?初めまして。どうしたの?スギに会いに来たの?」
「いや、私は、ドクツルタケがこっちに来たって聞いたから・・・いるかなって」
「いるよ。ここに」
「うん、いるね・・・」
「・・・シロ。お前何しに来た」
「えっと、話すと長いんだけど」
「聞くから手短に話せ」
「え!?え、ええと、うん、じゃあええと・・・」

シロフクロタケは話しました。
松の木の下でドクツルタケと別れてから、まずはオニフスベに会った事。
彼の話を聞いてカエンタケに怒り、ベニナギナタタケに会いに行ったこと。
けれどベニナギナタタケの話を聞いて、カエンタケに対する怒りがぐらついてしまったこと。
その後ツマミタケに会ったこと。
そしてツマミタケの話を聞いて、ドクツルタケを止めに来たこと・・・

「俺を止める?なんで」
「え?なんでって・・・それは・・・・・・」
「・・・・スギのせいでしょ」

と、言葉を濁したシロフクロタケをにこにこ眺めながらスギヒラタケが言いました。

「スギに会うのがダメだって言われたんでしょ。わかるよ、今はスギのこと皆そういうから」
「あ、いや・・・」
「でももう遅いよ。ドクツルタケはスギに会っちゃったもん。帰さないよ。ドクツルタケ『が』スギに会いに来てくれたんだよ。スギのことが好きなの。そうね?ドクツルタケ?」
「・・・・・・・」
「また黙るの?・・・・・。あー、そっかぁ。スギ、わかっちゃったあ」

スギヒラタケはわざとらしくクスクス笑って、シロフクロタケを横目で見ました。
シロフクロタケはまた少し震えました。

「な、なに?」
「うふふ、そっかぁ。そうなんだぁ」
「なに?なんなのかな。言いたい事あるなら、はっきり言ってよ」
「シロフクロタケのためね?ドクツルタケ、そうね?」
「え?ドクツルタケ、何が?何の話?」
「・・・・なんでもない」
「なんでもないって・・・」
「スギが教えてあげる!あのねえ、ドクツルタケはスギのところにお話聞きにきたんだよ。スギがどうやって毒キノコになったのかって。毒になる方法が知りたかったんだよねえ?」
「・・・やめろ」
「それってシロフクロタケのためなのね?シロフクロタケ、食キノコでしょう?毒の感じがしないもん。ドクツルタケはもう毒キノコなのに、なんで毒になる方法を知りたいんだろうって、スギちょっと不思議だったの。でも、シロフクロタケのためだったのね。シロフクロタケを毒に変えたいんだよね。そうね?」
「違う」

ドクツルタケは即座に否定しました。しかし。

「・・・・・・え?」

シロフクロタケは既に、杉の枝で傘を殴られたような衝撃を受けてしまっておりました。

「どういうこと・・・?」
「おい、違うぞ。俺はそんなこと思ってない」
「スギねえ、教えてあげたよ。毒になるには悪い物をいっぱいいっぱい食べるの。だからドクツルタケは、これからシロフクロタケに悪い物をい~~~~~っぱい!食べさせるよ。そうねえ?」
「違う!」
「そんな・・・ドクツルタケが私にそんなこと・・・嘘、だよね?ドクツルタケ」
「当たり前だ、嘘に決まってるだろこんな!」
「信じない・・・そんなこと、絶対信じない・・・」
「シロ?おいシロ。ちょっと落ち着いて話聞けよ。俺がここに来たのは」
「絶対絶対信じない!!ドクツルタケの馬鹿キノコーーーーっ!!」
「思いっきり信じてんじゃねえか!!!待てよ!待てって!!お前、他菌の言うこと全部聞いてここまで来たくせに、何で俺の話だけ聞かねえの!?待てってシローーーっ!!」

シロフクロタケは待ちませんでした。
ドクツルタケは追いかけようとしましたが、スギヒラタケがすがりついて離れないので止まるしかありませんでした。

「だめだよドクツルタケ。もう行っちゃったよう。追いかけても無駄だよ。ね?スギと一緒にいよう?」
「っ!離せよ!!」
「シロフクロタケなんてほっとこうよ。シロフクロタケはドクツルタケのこと好きじゃないよ。信じてもいないよ。ね?スギはドクツルタケが好きだし、ドクツルタケのこと信じてる。スギのこと好きだって信じてる。だからそばにいて?好きって言ってそばにいて?」
「言わねえし!そんなに言って欲しきゃツクツクボウシにでも頼め!」
「スギはドクツルタケじゃなきゃ嫌!」
「俺だってあいつじゃなきゃ嫌だ!」
「!・・・・」
「なんだよ。悪いかよ!」
「シロフクロタケが好き?」
「別にっ」
「じゃあ、じゃあね、いいよ、スギ手伝ってあげる。シロフクロタケを毒にするの、手伝ってあげるよ。それでいいでしょ。だから一緒にいて?行かないで?スギ、ドクツルタケのしたいこと全部叶えてあげる!だから一緒にいて!もうひとりにしないでよう!」
「俺がいつあいつを毒キノコにしたいっつった!?するわけないだろ!っつーか無理!あんな菌髄反射で動くキノコが毒とか絶対無理だから!!」
「毒キノコにしたくないの?じゃあ、なんで・・・」
「毒にする方法があるなら、毒やめる方法もあるかもしれないと思ったんだよ!ああもう、離せ!」

ドクツルタケはスギヒラタケを振り切って走り去りました。もうとうに、シロフクロタケの傘は見えなくなっておりましたが、彼は必死に追いかけるのでした。

とりのこされたスギヒラタケは、呆然と立ちすくんでおります。

「毒、やめるって・・・なんで・・・ドクツルタケが毒やめたい、の?そんな・・・嘘だよ。だってそれじゃあスギは・・・スギは・・・・・・・」

まるでややこしい菌糸のように、キノコ達の関係はもつれ絡まるばかり。
まことキノコとは愛憎渦巻く生き物でございます・・・



ワタゲナラタケ大佐。またの名をヤワナラタケ。
和名別名ともに物柔らかであるが、2003年までは彼こそが「世界最大の生物」であった。

少し前にエロい画像にて紹介した通り、キノコは菌糸が本体である。
1992年、米国ミシガン州で発見されたワタゲナラタケの菌は、1個体で面積15ヘクタール(=15万㎡)、総重量100t、推定年齢1500歳という巨大な物であった。
ちなみに、世界最大の動物・シロナガスクジラで最大34m、世界最大の植物・セコイアで最大115.5mである。桁が違う。

病原性が弱いと言われていたり強いと言われていたり、評価の定まらない菌である。
彼は生きている木を枯死させるまではいかない、という研究結果もあれば、ヨーロッパでアーモンド林をボロボロにしたなどという報告もあるらしい。土地によって彼の牙を向く度は違う。

ただ、人工林を好む事は確からしく、他のナラタケによって被害を受けた桜林などで、実はそのナラタケより広範囲に彼が潜伏していたケースが複数報告されている。
表立った戦闘は下士官にやらせておき、裏で菌糸を引き戦局を操る。ワタゲナラタケのやりそうなことである。

また、彼は持久戦に強く、わずか20cmの桜の枝に少なくとも4年は潜伏できるという資料がある。
何と言っても1500歳。彼にとっては4年の歳月などまさに一瞬なのだろう。待っていれば樹木はそのうち枝の先や樹の肌から死んでいくのだ。そして死んだところから食えばいいのだ。
弱っていく樹木にゆるやかにトドメを刺すキノコ。それがワタゲナラタケ大佐である。

なお、味評価は「ナラタケの中では美味しくない」。
食えない爺である。



ヤチナラタケ大尉。
ナラタケはナラタケ病対策のため近年研究が進み、今まで「ナラタケ」だったものが既に15種ほどに分類された。そのナラタケ達の中でも「もっとも美味」と言わしめるナラタケ、それがヤチナラタケである。
しかし油断してはいけない。美味しくても彼はやはりナラタケ。ナラタケは可食キノコであるが、食べ過ぎると中毒する菌なのである。魅惑的な味はむしろハニートラップと言っていい。

一見、味の良さだけで尉官を手に入れたボンボンにも思われそうなヤチナラタケだが、実は沢沿いや水気の多い土地に生える湿地戦のプロであり、かつ地中に埋まった枯木を逃さず分解する地雷除去のスペシャリストである。
地面から彼が生えている時、その下には必ず倒木や枯れた木の根が埋まっている。
もしかすると、彼の菌糸は他のナラタケよりも深く下方向に延びる性質があるのかもしれない。
とすれば、おそらく塹壕戦も得意であろう。色々有能なキノコである。

ナラタケ曹長のことはハリー君と呼ぶ。ナラタケの別名がハリガネタケだからである。
「・・・他の奴なら許さねえがヤチさんだったら仕方ねえ」と、曹長は言っていた。私の脳内で。


ナラタケ軍、いいなあ・・・
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