2007年1月8日設置
サイト→http://warakosu.syarasoujyu.com/
あるところに下山咲(しもやまさき)という場所がございまして・・・
人が何かを望むように、キノコも何かを望みます。
人とキノコ、そこにさしたる違いはございません。
中には、決して叶わぬ望みを抱くキノコもございます。
あきらめる、べきでしょうか。
あきらめない、べきでしょうか。
どちらでも苦しくて、どこにも行き場が無い時に、キノコの心が変わるのです。
想いが、突然変異を起こすのです。

菌曜連続に逆方向で近づきつつあるドラマ
キノコな僕ら
第十六話 スギヒラタケ狂詩曲
「おはよう、シロフクロタケ」
スギヒラタケがもう一度言いました。
シロフクロタケは慌てて挨拶を返しました。
「おはよう、スギヒラタケ・・・だったね?」
「うん。ありがとう、覚えててくれて」
スギヒラタケは嬉しそうに笑いました。その手に、大きく鋭い杉の枝を握りしめて。
シロフクロタケは先ほどから、その異様な持ち物に目を奪われていたのでした。
「あの、スギヒラタケ。それ、どうしたの?」
「これ?これは、スギの大事な物だよ。スギは女の子だから、お散歩する時はこういうのが無いと不安なの。そうでしょう?」
「そう、なんだ」
「スギねえ、シロフクロタケのことずっと気になってたの。気になって気になって・・・昨日初めて見た時から気になってたの。それで、会いたいなあって思ってお散歩してたのよ。ねえ、すごいよね?会えたよ。ちゃんと」
「そ、そうだね。すごい偶然・・・あ、昨日はごめんね。ドクツルタケと話してるところ、私が邪魔しちゃったよね?」
「!ううん、いいの。スギ、それは全然気にしてないよ」
ふわふわと、可愛いキノコはまた笑いました。
「シロフクロタケはどこに行くの?お散歩?」
「私はカエンタケのところに行くんだ。昨日あの後ちょっと色々あって、すごくお世話になったから、お礼をしに」
「ふうん?カエンタケって、猛毒のキノコだねえ。・・・シロフクロタケは偉いね。毒キノコとも仲良くしてくれるんだねえ」
「そんな、そんな差別・・・しないよ」
「しない?」
「うん。食キノコだとか毒キノコだとか、そんなことで差別しないって、決めたんだ。菌種差別は絶対いけないってわかったから」
「そうなんだ。へぇ。じゃ・・・ドクツルタケとも、仲直りした?」
「!あれは私が悪かったんだもん。仲直りどころじゃないよ」
「どうして?ドクツルタケがあなたを毒にしようとしたんだよ?」
「それは、そもそも私のせいだったんだ。私が、ドクツルタケに酷い事を言ったから・・・」
シロフクロタケはなぜか心が焦るのを感じました。
小さく傘をかしげてこちらを見ているスギヒラタケに、何をどう説明しても伝わらないような、不思議な気持ちがしたのです。
「つまり、ドクツルタケを怒らせたのが私だから、謝らなくちゃいけないのも私なんだ。・・・もう謝ったかもしれない。たくさん謝ったような気がする・・・たぶん、ドクツルタケも許してくれてるんじゃないかなって思うんだけど。これもくれたし。でももちろん、後でもう一回ちゃんと謝るよ」
何気なく傘に手をやると、ふっさりしたシロツメクサの花が頷くように揺れました。
スギヒラタケが、じっとそれを見ていました。
「・・・きれいなお花ね」
「うん。本当にきれいなんだ。私が飾るなんて変なんだけど、ツマミタケママが無理矢理」
「それ、ドクツルタケがくれたの?」
「うん」
「・・・・いいな。シロフクロタケ、似合ってるよ。すごく似合ってるよ。いいなあ。スギはお花もらった事、なかった」
「スギヒラタケこそ似合いそうだよね、こういうの」
「・・・・ありがとう。でも、スギにはドクツルタケは、くれなかったから」
「いや、ドクツルタケってそもそもキノコに花をあげたりするタイプじゃないし。これも何でくれたのかよくわからないけど、もしかしたらツマミタケママが何か言ったのかな?あ、でもスギヒラタケはドクツルタケのことよく知ってるんだよね?昨日、すごく仲良さそうに見えた」
「スギはドクツルタケが好きなの。昔から」
「そうなんだ。昔から仲良いんだね」
「うん。・・・カエンタケの家、あっちかな。歩こうよシロフクロタケ。一緒に歩きながら、お話しよう?」
なぜ、シロフクロタケは頷いてしまったのか、後になってもそれはよくわかりませんでした。
ただ、ひたとこちらを見て訴えるようにそう誘ったスギヒラタケが、ひどく寂しげに見えたのです。
なんとなく、放っておけない気がしましたし、シロフクロタケは他菌を放っておけない性格でありました。
そこで、うん、と言ったのです。
「スギのおうちはねえ、昔はドクツルタケのおうちの近くだったの」
歩きながら、スギヒラタケは夢を見るように語りました。
「だけどねえ、ドクツルタケがお引越ししちゃったの。いなくなっちゃったの。スギ、寂しくて毎日泣いてた。そのうち、スギがおうちにしていた樹がすっかり腐って崩れちゃって、スギもそこを離れるしかなくなったの。そうしたら、スギはたくさんの人間に食べられるようになった」
「スギヒラタケも食キノコだったんだね。私もだよ。って、もう知ってるんだよね。スギヒラタケはどんな料理になるのが好きだった?私はやっぱりキノコ鍋・・・」
「スギはいや!!」
「!」
「人間に採られるのなんていや!いや!いや!」
「そ、そうなんだ。ごめん・・・」
「違うところへ行ってわかったの。それまでスギのところに人間が来なかったのは、そこがテングタケの土地だったからなのよ」
「テングタケ、ってあの毒キノコの名門の?」
「そう。ドクツルタケのおうちがテングタケ家なのよ。あれえ?知らなかったの?ドクツルタケはテングタケ科の中でも一番強い毒キノコだよ?」
「し、知らなかった・・・考えた事もなかった。そっか、ドクツルタケってテングタケ科・・・エリートじゃん。意外!」
「そうなの。ドクツルタケはすごいのよ。うふふふ・・・だけど、おうちのえらいキノコと喧嘩して出て行ったの。スギはずっとドクツルタケを探してた。ずっと。ずぅっと。ここにいるってようやくわかったときは本当に嬉しかった。すぐにここへ来て・・・来て・・・昨日まで、会わなかった。だって、ドクツルタケに会いに来て欲しいでしょう?スギがいるってわかったら、ドクツルタケはきっと会いに来てくれるはずでしょう?スギに会いたいって思っててくれたはずなんだよ。絶対に・・・だからね、スギ、待ってたんだよ」
パサッ!
行く先に枝垂れていた草の葉先を、スギヒラタケは鋭い枝で切り払いました。
わずかに残っていた朝露が飛んで、シロフクロタケの頬をかすりました。
「ねえ?待ってる間に、スギはいっぱい噂を聞いたの。ドクツルタケがこっちの方で生えてるって言う事も、シロフクロタケと仲が良いって言う事も、知ってたよ?よく誤食されるんだってねえ?」
「あー・・・うん。本当によく間違われるんだ。困るよね」
「ドクツルタケが可哀想だねえ?シロフクロタケと間違って食べられちゃうなんて」
「そ、うだね。言われてみれば、確かに・・・そうかも」
「でもシロフクロタケはいいね?ドクツルタケに似ていたら、人間は採らないねえ?」
「やっぱりそうかな?人間も注意はするよね」
「スギはね、似ているキノコってあんまりなかったの。ヒラタケもトキイロヒラタケも食用だから、だからひとりになったら誰も守ってくれなかった。自分でなんとかするしかなかった。それで、自分で、食べて食べて食べて・・・毒になったよ。毒になったらほっとしたけど、でも」
スギヒラタケの傘がわずかにまた、俯きました。
「でもね、泣けなくなっちゃった。泣くのが怖いの。泣いたらせっかく溜めた毒が外に出ちゃうよ。食べてる時、スギは泣かなかった。それどころじゃなかったから。毒になるのに一番大事なことは泣かないことなんだよ。だからシロフクロタケも泣いちゃだめだよ?泣かなかったら、ちゃんと毒になれるからねえ」
「わ、私は毒にならないよ?」
「なるよ。ドクツルタケがそうするつもりなら、ならなきゃだめだよ」
「違うんだ、あれは・・・あれは私が先にドクツルタケに毒キノコをやめろなんて言っちゃったからなんだ。だからドクツルタケが怒って言い返しただけで・・・いや、言い返したりも別にされてないや。うん?変だね・・・でもドクツルタケは私のこと、もう毒になんてしようとしてないと思うよ」
「・・・・毒キノコ、やめてって、それ、ドクツルタケに言ったの?シロフクロタケが?言ったの?」
「う、うん。ごめん」
「ドクツルタケ、なんて言ってたの?それ聞いた時」
「ええと・・・俺が毒キノコやめたらお前が人間に乱獲されるだろ、って、確かそんな風に言ってた」
「・・・・・そうなんだ」
つぶやいたスギヒラタケが、ぴたりと歩みを止めました。
シロフクロタケもつられて、その後ろに佇みました。
シロツメクサの花がふうわりと揺れて、振り向いたスギヒラタケはシロフクロタケではなく、その花を見ているようでした。
何か言わなければいけない気がして、シロフクロタケは一生懸命言いました。
「ドクツルタケって時々すごく優しいけどさ、でも、何考えてるかわからないところあるから、本気で言ったのかどうかはわからないよね。本音は、単にめんどくさいから嫌だっていうだけかもしれないし!」
「・・・・シロフクロタケはなんにもわかってないんだねえ」
「え?」
「ドクツルタケは、あなたを毒にするためにスギのところに来たんじゃなかった。自分が毒キノコをやめる方法を見つけたいから来たって、毒になる方法がわかるなら毒をやめる方法もわかるかもしれないから来たって、言ってた」
「・・・・え?」
「可哀想だねえドクツルタケ。本当に可哀想。シロフクロタケと間違われて人間に採られるのに、シロフクロタケのために傍にいたのに、それなのにシロフクロタケから毒をやめろなんて言われたんだ。ねえ、どうして?どうしてそんなこと言ったの?スギはドクツルタケのこと、毒のままでも好きだった。今でもずっと好きなのに」
「あ・・・・」
「なんであなたが傍にいるの。なんであなたがお花をもらうの。スギが泣いてもドクツルタケは出て行った。スギにはお花をくれたことなんてなかった。そんな事、これまで気にしたこともなかったのに。今はあなたのせいで、とってもとっても気になるんだよ。ねえ、返して?ドクツルタケ返して?返して?返して?」
「返してって、言われても・・・」
「返してよぉっ!!酷い事言ったんでしょ!?だったらいらないってことだよねえっ!?スギはそんなこと絶対言わない!なんでスギじゃなくてあなたなの!?なんであなたが嫌われないの!?スギは嫌いだよ!シロフクロタケなんか大っ嫌い!!返してよ!!ドクツルタケ返してよ!!あなたがいなければ、ドクツルタケはスギのものだったはずなんだよ!?あなたがいなければ!あなたさえいなければ!!いなくなってよシロフクロタケなんか・・・シロフクロタケなんかあっ!!」
スギヒラタケの絶望がひときわ高く響き、白いその両手が杉の枝をふりかぶるのを、シロフクロタケはただ呆然と眺めました。
鋭い刃が上がる様は、まるで夢の中のもどかしい動きのように現実味もなく、ゆっくりと感じられたのです。
しかし。
「!シロっ!!!!」
突然、横手から飛んできた声が彼女を動かしました。
「!ドクツ・・・」
「死んじゃええええぇぇえーっ!!!」
杉の枝が振り下ろされたのは、その瞬間でございました。
まこと、キノコ達はどうなってしまうのでございましょう・・・
人が何かを望むように、キノコも何かを望みます。
人とキノコ、そこにさしたる違いはございません。
中には、決して叶わぬ望みを抱くキノコもございます。
あきらめる、べきでしょうか。
あきらめない、べきでしょうか。
どちらでも苦しくて、どこにも行き場が無い時に、キノコの心が変わるのです。
想いが、突然変異を起こすのです。
菌曜連続に逆方向で近づきつつあるドラマ
キノコな僕ら
第十六話 スギヒラタケ狂詩曲
「おはよう、シロフクロタケ」
スギヒラタケがもう一度言いました。
シロフクロタケは慌てて挨拶を返しました。
「おはよう、スギヒラタケ・・・だったね?」
「うん。ありがとう、覚えててくれて」
スギヒラタケは嬉しそうに笑いました。その手に、大きく鋭い杉の枝を握りしめて。
シロフクロタケは先ほどから、その異様な持ち物に目を奪われていたのでした。
「あの、スギヒラタケ。それ、どうしたの?」
「これ?これは、スギの大事な物だよ。スギは女の子だから、お散歩する時はこういうのが無いと不安なの。そうでしょう?」
「そう、なんだ」
「スギねえ、シロフクロタケのことずっと気になってたの。気になって気になって・・・昨日初めて見た時から気になってたの。それで、会いたいなあって思ってお散歩してたのよ。ねえ、すごいよね?会えたよ。ちゃんと」
「そ、そうだね。すごい偶然・・・あ、昨日はごめんね。ドクツルタケと話してるところ、私が邪魔しちゃったよね?」
「!ううん、いいの。スギ、それは全然気にしてないよ」
ふわふわと、可愛いキノコはまた笑いました。
「シロフクロタケはどこに行くの?お散歩?」
「私はカエンタケのところに行くんだ。昨日あの後ちょっと色々あって、すごくお世話になったから、お礼をしに」
「ふうん?カエンタケって、猛毒のキノコだねえ。・・・シロフクロタケは偉いね。毒キノコとも仲良くしてくれるんだねえ」
「そんな、そんな差別・・・しないよ」
「しない?」
「うん。食キノコだとか毒キノコだとか、そんなことで差別しないって、決めたんだ。菌種差別は絶対いけないってわかったから」
「そうなんだ。へぇ。じゃ・・・ドクツルタケとも、仲直りした?」
「!あれは私が悪かったんだもん。仲直りどころじゃないよ」
「どうして?ドクツルタケがあなたを毒にしようとしたんだよ?」
「それは、そもそも私のせいだったんだ。私が、ドクツルタケに酷い事を言ったから・・・」
シロフクロタケはなぜか心が焦るのを感じました。
小さく傘をかしげてこちらを見ているスギヒラタケに、何をどう説明しても伝わらないような、不思議な気持ちがしたのです。
「つまり、ドクツルタケを怒らせたのが私だから、謝らなくちゃいけないのも私なんだ。・・・もう謝ったかもしれない。たくさん謝ったような気がする・・・たぶん、ドクツルタケも許してくれてるんじゃないかなって思うんだけど。これもくれたし。でももちろん、後でもう一回ちゃんと謝るよ」
何気なく傘に手をやると、ふっさりしたシロツメクサの花が頷くように揺れました。
スギヒラタケが、じっとそれを見ていました。
「・・・きれいなお花ね」
「うん。本当にきれいなんだ。私が飾るなんて変なんだけど、ツマミタケママが無理矢理」
「それ、ドクツルタケがくれたの?」
「うん」
「・・・・いいな。シロフクロタケ、似合ってるよ。すごく似合ってるよ。いいなあ。スギはお花もらった事、なかった」
「スギヒラタケこそ似合いそうだよね、こういうの」
「・・・・ありがとう。でも、スギにはドクツルタケは、くれなかったから」
「いや、ドクツルタケってそもそもキノコに花をあげたりするタイプじゃないし。これも何でくれたのかよくわからないけど、もしかしたらツマミタケママが何か言ったのかな?あ、でもスギヒラタケはドクツルタケのことよく知ってるんだよね?昨日、すごく仲良さそうに見えた」
「スギはドクツルタケが好きなの。昔から」
「そうなんだ。昔から仲良いんだね」
「うん。・・・カエンタケの家、あっちかな。歩こうよシロフクロタケ。一緒に歩きながら、お話しよう?」
なぜ、シロフクロタケは頷いてしまったのか、後になってもそれはよくわかりませんでした。
ただ、ひたとこちらを見て訴えるようにそう誘ったスギヒラタケが、ひどく寂しげに見えたのです。
なんとなく、放っておけない気がしましたし、シロフクロタケは他菌を放っておけない性格でありました。
そこで、うん、と言ったのです。
「スギのおうちはねえ、昔はドクツルタケのおうちの近くだったの」
歩きながら、スギヒラタケは夢を見るように語りました。
「だけどねえ、ドクツルタケがお引越ししちゃったの。いなくなっちゃったの。スギ、寂しくて毎日泣いてた。そのうち、スギがおうちにしていた樹がすっかり腐って崩れちゃって、スギもそこを離れるしかなくなったの。そうしたら、スギはたくさんの人間に食べられるようになった」
「スギヒラタケも食キノコだったんだね。私もだよ。って、もう知ってるんだよね。スギヒラタケはどんな料理になるのが好きだった?私はやっぱりキノコ鍋・・・」
「スギはいや!!」
「!」
「人間に採られるのなんていや!いや!いや!」
「そ、そうなんだ。ごめん・・・」
「違うところへ行ってわかったの。それまでスギのところに人間が来なかったのは、そこがテングタケの土地だったからなのよ」
「テングタケ、ってあの毒キノコの名門の?」
「そう。ドクツルタケのおうちがテングタケ家なのよ。あれえ?知らなかったの?ドクツルタケはテングタケ科の中でも一番強い毒キノコだよ?」
「し、知らなかった・・・考えた事もなかった。そっか、ドクツルタケってテングタケ科・・・エリートじゃん。意外!」
「そうなの。ドクツルタケはすごいのよ。うふふふ・・・だけど、おうちのえらいキノコと喧嘩して出て行ったの。スギはずっとドクツルタケを探してた。ずっと。ずぅっと。ここにいるってようやくわかったときは本当に嬉しかった。すぐにここへ来て・・・来て・・・昨日まで、会わなかった。だって、ドクツルタケに会いに来て欲しいでしょう?スギがいるってわかったら、ドクツルタケはきっと会いに来てくれるはずでしょう?スギに会いたいって思っててくれたはずなんだよ。絶対に・・・だからね、スギ、待ってたんだよ」
パサッ!
行く先に枝垂れていた草の葉先を、スギヒラタケは鋭い枝で切り払いました。
わずかに残っていた朝露が飛んで、シロフクロタケの頬をかすりました。
「ねえ?待ってる間に、スギはいっぱい噂を聞いたの。ドクツルタケがこっちの方で生えてるって言う事も、シロフクロタケと仲が良いって言う事も、知ってたよ?よく誤食されるんだってねえ?」
「あー・・・うん。本当によく間違われるんだ。困るよね」
「ドクツルタケが可哀想だねえ?シロフクロタケと間違って食べられちゃうなんて」
「そ、うだね。言われてみれば、確かに・・・そうかも」
「でもシロフクロタケはいいね?ドクツルタケに似ていたら、人間は採らないねえ?」
「やっぱりそうかな?人間も注意はするよね」
「スギはね、似ているキノコってあんまりなかったの。ヒラタケもトキイロヒラタケも食用だから、だからひとりになったら誰も守ってくれなかった。自分でなんとかするしかなかった。それで、自分で、食べて食べて食べて・・・毒になったよ。毒になったらほっとしたけど、でも」
スギヒラタケの傘がわずかにまた、俯きました。
「でもね、泣けなくなっちゃった。泣くのが怖いの。泣いたらせっかく溜めた毒が外に出ちゃうよ。食べてる時、スギは泣かなかった。それどころじゃなかったから。毒になるのに一番大事なことは泣かないことなんだよ。だからシロフクロタケも泣いちゃだめだよ?泣かなかったら、ちゃんと毒になれるからねえ」
「わ、私は毒にならないよ?」
「なるよ。ドクツルタケがそうするつもりなら、ならなきゃだめだよ」
「違うんだ、あれは・・・あれは私が先にドクツルタケに毒キノコをやめろなんて言っちゃったからなんだ。だからドクツルタケが怒って言い返しただけで・・・いや、言い返したりも別にされてないや。うん?変だね・・・でもドクツルタケは私のこと、もう毒になんてしようとしてないと思うよ」
「・・・・毒キノコ、やめてって、それ、ドクツルタケに言ったの?シロフクロタケが?言ったの?」
「う、うん。ごめん」
「ドクツルタケ、なんて言ってたの?それ聞いた時」
「ええと・・・俺が毒キノコやめたらお前が人間に乱獲されるだろ、って、確かそんな風に言ってた」
「・・・・・そうなんだ」
つぶやいたスギヒラタケが、ぴたりと歩みを止めました。
シロフクロタケもつられて、その後ろに佇みました。
シロツメクサの花がふうわりと揺れて、振り向いたスギヒラタケはシロフクロタケではなく、その花を見ているようでした。
何か言わなければいけない気がして、シロフクロタケは一生懸命言いました。
「ドクツルタケって時々すごく優しいけどさ、でも、何考えてるかわからないところあるから、本気で言ったのかどうかはわからないよね。本音は、単にめんどくさいから嫌だっていうだけかもしれないし!」
「・・・・シロフクロタケはなんにもわかってないんだねえ」
「え?」
「ドクツルタケは、あなたを毒にするためにスギのところに来たんじゃなかった。自分が毒キノコをやめる方法を見つけたいから来たって、毒になる方法がわかるなら毒をやめる方法もわかるかもしれないから来たって、言ってた」
「・・・・え?」
「可哀想だねえドクツルタケ。本当に可哀想。シロフクロタケと間違われて人間に採られるのに、シロフクロタケのために傍にいたのに、それなのにシロフクロタケから毒をやめろなんて言われたんだ。ねえ、どうして?どうしてそんなこと言ったの?スギはドクツルタケのこと、毒のままでも好きだった。今でもずっと好きなのに」
「あ・・・・」
「なんであなたが傍にいるの。なんであなたがお花をもらうの。スギが泣いてもドクツルタケは出て行った。スギにはお花をくれたことなんてなかった。そんな事、これまで気にしたこともなかったのに。今はあなたのせいで、とってもとっても気になるんだよ。ねえ、返して?ドクツルタケ返して?返して?返して?」
「返してって、言われても・・・」
「返してよぉっ!!酷い事言ったんでしょ!?だったらいらないってことだよねえっ!?スギはそんなこと絶対言わない!なんでスギじゃなくてあなたなの!?なんであなたが嫌われないの!?スギは嫌いだよ!シロフクロタケなんか大っ嫌い!!返してよ!!ドクツルタケ返してよ!!あなたがいなければ、ドクツルタケはスギのものだったはずなんだよ!?あなたがいなければ!あなたさえいなければ!!いなくなってよシロフクロタケなんか・・・シロフクロタケなんかあっ!!」
スギヒラタケの絶望がひときわ高く響き、白いその両手が杉の枝をふりかぶるのを、シロフクロタケはただ呆然と眺めました。
鋭い刃が上がる様は、まるで夢の中のもどかしい動きのように現実味もなく、ゆっくりと感じられたのです。
しかし。
「!シロっ!!!!」
突然、横手から飛んできた声が彼女を動かしました。
「!ドクツ・・・」
「死んじゃええええぇぇえーっ!!!」
杉の枝が振り下ろされたのは、その瞬間でございました。
まこと、キノコ達はどうなってしまうのでございましょう・・・
とりあえず3日間、死んだように寝てました。
寝溜めはできないと識者は言う。
しかし経験上、寝不足は絶対溜まるのでどこかで解消しなくてはいけない。
キノコを片付けてからにしようと思っていたが、ちょっともう耐えられなかった。
さー連休開始だー
寝溜めはできないと識者は言う。
しかし経験上、寝不足は絶対溜まるのでどこかで解消しなくてはいけない。
キノコを片付けてからにしようと思っていたが、ちょっともう耐えられなかった。
さー連休開始だー
わけもなくどうしても荀攸さんに会いたくなって、久しぶりに無双8をプレイしてみました。
荀攸に会いたいだけなので今回戦はどうでもいい。時間もそんなに無いし。
野郎の口説き文句を聞くためだけに作ってあった甄姫データをロードして、と。
隠れ処に荀攸を呼んで、□ボタン押して親愛台詞を聞いて惚れ直して、ふと、画面を見たら。
見たことの無いボタン表示が。
□ 話す
△ 連れていく
なにこの連れて行くってなに
どういうことどういうことどういうこと!!?
連れていけるの荀攸を!?え!?マジで!!?
三度見して半信半疑な心持のまま△を押したところ、「荀攸を戦に連れて行きますか?」という確認が!
マジかああああああ行く行く行く連れていきます!「はい」!!
「荀攸が仲間になりました」!
そしてすぐそこにいた荀攸が消えた!
数十年前のFFか何か?
カインが仲間になったりやめたりしてたあの頃を思い出した。
連れていくってこういう事!?パーティーの中にいるみたいな!?
何か役に立ちますかそれ!
Rボタンで操作武将を切り替えられるとかかな・・・?
でもそれ戦国無双の特徴だから三国には入って来ないと思うんだけど・・・ちょっと外に出てみよう。隠れ処にいるから隠れてしまったのかもしれない。戦場では出てくるのかもしれない。
外に出てLボタンRボタンを押しまくってみましたが、切り替わる様子はありません。
久しぶり過ぎて操作方法を大体忘れている自分を発見するばかりです。
えーと・・・マップはこれか。とりあえず、荒れてそうなところに行って戦ってみようか。
ぎこちなく走り出して、方向転換した瞬間に地面に映る背後の人影。
後ろにいたァ!!怖い!!
振り向けば荀攸!心なしか逆光!怖い!何考えてるかわからないキャラがそういう事をしてはいけない!そしてそうか、外ではちゃんと「連れていく」感じになるのね!連れていくっていうか、つけてくるみたいになってるけどね!
つまり無双7の護衛武将みたいなものかな。(30分後に調べて判明したがアップグレードで追加された護衛武将機能そのものである)
だったら尚更戦場に行かなければ。どこだ戦場。あ、そういえば馬を呼べたんだった。
でも、こっちが馬に乗ったら護衛武将って一方的に置いて行かれるんだよねー・・・仕方ないけどねー馬と人の足じゃ・・・
と思っていたら、甄姫の後ろから颯爽と画面に入ってくる騎乗の荀攸の姿が。
やばい、手綱さばきが死ぬほど格好良い。
無双8ィィィィ!!!ステージがだだっ広くて密度が薄くて今ひとつ戦闘に燃えなくて正直ダメ作だと思ってて本当すまなかった!!お前は神だ!!
勝手に馬まで駆って動く荀攸が激烈格好良い!!大好き!大好き!!大好き!!!
・・・戦場が近くに無かったのでとりあえず手近にいた盗賊を襲撃しました。
ああ、馬下りて戦う荀攸も格好良いなあー!
・・・盗賊?狩り?・・・そうだ、確か私は昔このゲームで、狼とか虎とか熊とかにボコボコにされていたような・・・うっ頭が・・・
!あ、戦場離れると荀攸に話しかけることもできるんですね!
ボタンが出てきたわ。話しかけ・・・
□ 話す
△ 別れる
言い方よ。
「別れる」て。二人に何があったのよ。盗賊狩りで致命的に無理な荀攸の性格が露呈でもしたの?そんなことある?こっちからはただひたすら格好良かったようにしか見えなかったけど、何が甄姫の気に入らなかったの。まさか荀攸も臭いとか?
・・・
・・・いや、深く考えるのはよそう。別れよう。きれいな思い出のままで。
別れてみました。
何か一言くれるかなと思ったんですが、すごくシステマチックに消えて行きました。
荀攸さん・・・
無双8は、調べてみたら4月4日にアップグレードしてたんですね。護衛武将機能とか色々追加してるようで、ありがとうコーエー。楽しいです。
荀攸さん、臭くないよね・・・?
荀攸に会いたいだけなので今回戦はどうでもいい。時間もそんなに無いし。
野郎の口説き文句を聞くためだけに作ってあった甄姫データをロードして、と。
隠れ処に荀攸を呼んで、□ボタン押して親愛台詞を聞いて惚れ直して、ふと、画面を見たら。
見たことの無いボタン表示が。
□ 話す
△ 連れていく
なにこの連れて行くってなに
どういうことどういうことどういうこと!!?
連れていけるの荀攸を!?え!?マジで!!?
三度見して半信半疑な心持のまま△を押したところ、「荀攸を戦に連れて行きますか?」という確認が!
マジかああああああ行く行く行く連れていきます!「はい」!!
「荀攸が仲間になりました」!
そしてすぐそこにいた荀攸が消えた!
数十年前のFFか何か?
カインが仲間になったりやめたりしてたあの頃を思い出した。
連れていくってこういう事!?パーティーの中にいるみたいな!?
何か役に立ちますかそれ!
Rボタンで操作武将を切り替えられるとかかな・・・?
でもそれ戦国無双の特徴だから三国には入って来ないと思うんだけど・・・ちょっと外に出てみよう。隠れ処にいるから隠れてしまったのかもしれない。戦場では出てくるのかもしれない。
外に出てLボタンRボタンを押しまくってみましたが、切り替わる様子はありません。
久しぶり過ぎて操作方法を大体忘れている自分を発見するばかりです。
えーと・・・マップはこれか。とりあえず、荒れてそうなところに行って戦ってみようか。
ぎこちなく走り出して、方向転換した瞬間に地面に映る背後の人影。
後ろにいたァ!!怖い!!
振り向けば荀攸!心なしか逆光!怖い!何考えてるかわからないキャラがそういう事をしてはいけない!そしてそうか、外ではちゃんと「連れていく」感じになるのね!連れていくっていうか、つけてくるみたいになってるけどね!
つまり無双7の護衛武将みたいなものかな。(30分後に調べて判明したがアップグレードで追加された護衛武将機能そのものである)
だったら尚更戦場に行かなければ。どこだ戦場。あ、そういえば馬を呼べたんだった。
でも、こっちが馬に乗ったら護衛武将って一方的に置いて行かれるんだよねー・・・仕方ないけどねー馬と人の足じゃ・・・
と思っていたら、甄姫の後ろから颯爽と画面に入ってくる騎乗の荀攸の姿が。
やばい、手綱さばきが死ぬほど格好良い。
無双8ィィィィ!!!ステージがだだっ広くて密度が薄くて今ひとつ戦闘に燃えなくて正直ダメ作だと思ってて本当すまなかった!!お前は神だ!!
勝手に馬まで駆って動く荀攸が激烈格好良い!!大好き!大好き!!大好き!!!
・・・戦場が近くに無かったのでとりあえず手近にいた盗賊を襲撃しました。
ああ、馬下りて戦う荀攸も格好良いなあー!
・・・盗賊?狩り?・・・そうだ、確か私は昔このゲームで、狼とか虎とか熊とかにボコボコにされていたような・・・うっ頭が・・・
!あ、戦場離れると荀攸に話しかけることもできるんですね!
ボタンが出てきたわ。話しかけ・・・
□ 話す
△ 別れる
言い方よ。
「別れる」て。二人に何があったのよ。盗賊狩りで致命的に無理な荀攸の性格が露呈でもしたの?そんなことある?こっちからはただひたすら格好良かったようにしか見えなかったけど、何が甄姫の気に入らなかったの。まさか荀攸も臭いとか?
・・・
・・・いや、深く考えるのはよそう。別れよう。きれいな思い出のままで。
別れてみました。
何か一言くれるかなと思ったんですが、すごくシステマチックに消えて行きました。
荀攸さん・・・
無双8は、調べてみたら4月4日にアップグレードしてたんですね。護衛武将機能とか色々追加してるようで、ありがとうコーエー。楽しいです。
荀攸さん、臭くないよね・・・?
あるところに下山咲(しもやまさき)という場所がございまして・・・
今日も人間と同じように、キノコ達が朝を迎えておりました。

菌曜連続に次こそ戻りたいドラマ
キノコな僕ら
第十五話 シロツメクサの朝
鳥の囀りは、人と同じようにキノコをも目覚めさせるものでございます。
都市ではめっきり見かけなくなったとも言われるスズメ達が、下山咲にはまだたくさんおりました。
チュン、チュン、チュン。
馴染みの爽やかな声でございます。
「シロちゃぁ~ん。朝よーぅ。そろそろ起きなさぁ~い?」
・・・前言撤回いたします。シロフクロタケを起こしたのは鳥でも爽やかでもなんでもなく、ツマミタケママの酒に焼けた声でした。
「ん~・・・ん?う、ん?あれ?ここは・・・あっ」
目覚めたシロフクロタケは戸惑いながら傘を起こし、人間であればこめかみにあたる部分に走った激痛に、そのまま蹲りました。
ツマミタケがひょいと入口から托枝をのぞかせました。
「おっはぁ~シロちゃん。頭イタイイタイでしょ~ぉ?あんなに飲むからよぅもう」
まるでシロフクロタケが飲む姿を眼前で見ていたかのごとく言うママです。
白いキノコは困惑しております。
「ツ、ツマミタケママ?ここ・・・ママのうち?」
「ていうか、お店ぇ?二階のお泊り部屋よぅ。あ、お泊りって言っても、そういうコトじゃないのよ。そういうコトに使ったりしてないから大丈夫。アタシ、そういうの結構潔癖なの。お酒の上で寝るなんて、駄目よ」
「・・・・えっと・・・」
「あらシロちゃんにこういうお話早かったかしら。もう、ごめんなさいねぇ~?とにかく、シロちゃんは昨日はここにお泊りしたのよぅ。覚えてないのぉ?」
「ん・・・」
シロフクロタケはちょっと考えました。頭が痛みます。
「カエンタケとカラカサタケとお鍋を食べて・・・それから、あんまり覚えてない」
「そこからッ!?じゃあ、ドクツルちゃんが心配してたことはッ!?」
「・・・・覚えてない」
「ドクツルちゃんがお店まで運んでくれたこともッ!?」
「・・・・・・・・・・覚えてない」
「んもぉぉぉぉぉう!シロちゃんもぉぉぉぉおおおう!!」
ツマミタケママはウシガエルのように慨嘆しました。
「シロちゃん酷いわッ!女の子の無自覚ってなんて残酷なのッ!ママもう目眩でダメ、今日お店開けらんないかもしれないワ、ああ・・・!」
「ツ、ツマミタケママ!大丈ぶ・・・!った~・・・」
「あら、シロちゃん。そうね、二日酔いだったわね可哀想に。ちょっと待ってらっしゃいねぇ、ママ特製の枯葉汁作ってあげるッ。あれを飲めば二日酔いなんて一発よぉ~ぅ!」
そんなわけで、半時も後にはシロフクロタケはお店のカウンターにちょんと座り、温かい枯葉汁をすすっていたのでした。
「シロちゃんどぉ~?その御汁、ちょっと味濃くなかったぁ~?」
「ううん、すっごく美味しいよ!ママ、ありがとう」
「ねぇ?最初は食べる気しないと思っても、これは飲めちゃうでしょ~う?シロちゃん、傘色もだいぶ良くなったわよぅ。安心したわぁ、ママ」
「ありがとう・・・その、ごめんなさいママ。心配かけて」
「いいのよぅ。キノコって助け合うものだから。きっともうすぐドクツルちゃんも来るわよぅ。シロちゃん、あれを見て?」
ツマミタケが指すのは、花瓶にいけたシロツメクサの花でございました。
人間にとってはそれは親指の先ほどの小さな花ですけれども、キノコにとっては小ぶりの牡丹ほどにも思われる大きさでございます。お店の中でもその白い花穂は際だっておりました。
「きれい・・・」
「あれねぇ、ドクツルちゃんがシロちゃんにって、帰り際にとって来てくれたのよぉ。アタシ、あんな綺麗なお花って見たこと無いわ。想いが籠ってるのよぅシロちゃん。わかる?」
「・・・ん。ドクツルタケ、私のこと許してくれた、のかな」
「馬鹿ねッ、それだけじゃないわよ~ぅ。シロツメクサの花言葉って知ってるッ?Think!of!me!よ!ハァァアァァァン!もう、胸がキュンキュンしちゃうわアタシッ!」
「・・・シンク??」
シロフクロタケは生粋の日本育ちでございました。英語はまったくいけませんでした。
「ハイハイハイ、シロちゃん、ちょっと動かないでねェ?アタシ、この花は絶対シロちゃんの傘に飾ってあげなきゃって思ってたのッ」
「!い、いいよ、そこに飾ってあるのが綺麗だよ」
「駄目よッ!ドクツルちゃんが来た時にシロちゃんがお花じゃないと駄目なのよッ!!ママに任せて!じっとしてッ!」
「・・・・・。ねえママ、私、昨日のこと全然覚えてないんだけど、何があったか聞いてもいい?」
「もちろんよ~ぅ。シロちゃんは、カエンタケちゃんに負ぶわれて帰って来たのよぅ」
「カエンタケに!?・・・あ、でも、それはなんとなく思い出せるような」
「あれもイイ男ね。アタシ、見直したワ」
「カエンタケがお店に連れて来てくれたの?」
「違うわよう。カエンタケちゃんはベニちゃんのおうちに連れて来たのよう。ていうか、カエンタケちゃんのおうち?それで、ママ達はシロちゃんを探してちょうどそこにいたから、めでたしめでたしってワケ。お店まで連れて来たのはドクツルちゃんよ~ぅ?シロちゃん、おうちに帰りたくないって泣くんだもの~」
「え!?そんなこと言ったんだ私・・・ドクツルタケ、きっとまた怒ったね」
「ンなワケないでしょぉ~う!?このお花を見て頂戴!怒ってる相手にお花なんて取ってきてあげるわけないじゃない!ドクツルちゃんは言ってたわ、『これ、シロが目覚ましたら、あげて』。ハァ~ッ、アタシ、カエンタケちゃんもいいと思ったけど、やっぱりドクツルちゃんだわぁ。ドクツルちゃんイチオシッ!シロちゃん、ママも長い事この業界やってるけど、あんなイイ茸見た事ないわよ、シロちゃんどう思うのッ?」
「私?もちろんそう思うよ、ママ。ドクツルタケは本当にいい茸だよね!」
「それだけッ?」
「うん!絶対にいい茸だもん、他に無い!」
そうではない、そうではないのでございます。
「シロちゃん・・・そう、いいわ。それがシロちゃんだもの、いつか目覚めるってママ信じてる。さ、できたわよぅ。とってもかわいいわぁ~ン!」
シロフクロタケの傘に、ぽんと白い花がつきました。シロフクロタケは自分では良く見えませんけれども、少し頭を動かして、花の揺れるのを感じました。
はにかんで笑う姿を、ドクツルタケこそが見るべきだったでしょう。しかし彼はいません。
「ママ、ありがとう!」
「お礼はドクツルちゃんに言わなくちゃねッ。・・・それにしても遅いわネ。まだかしら」
「あ、そうだ。カエンタケにもお礼言って謝らなくちゃ。連れて来てくれたの、カエンタケなんだもんね」
「お店まではドクツルちゃんよ」
「ちょっと私、行ってくる!すぐ戻るから、ドクツルタケが来たらママよろしく!」
「エッ!!?ちょっと待ってシロちゃんッ!ドクツルちゃんが来てから一緒に行けばいいじゃないの、ねえッ!」
「だって私が悪いんだもん!ドクツルタケまでつきあわせられないよ!行ってくる!」
「シロちゃん!シロちゃぁ~んッ!!」
シロフクロタケは行ってしまいました。シロツメクサをふわふわ揺らしながら。
そして大体こういう時にはそういうものですが、正に入れ替わりでありながら決して鉢合わせはしないというタイミングで、ドクツルタケが店にやってきたのでした。
「はぁっ、はぁっ、寝坊したっ!ママ、おはようっ。シロはっ!?」
「・・・丁度今さっき、行っちゃったわ」
「っ!どこに!?」
「カエンタケちゃんのとこ。お礼言いに行くって」
「っっっ!!なんで待たねぇんだよあいつっ!」
「許してあげて・・・シロちゃん、走るキノコなのよ」
「なんだよそれ・・・」
「まぁ、すぐに戻るっていってたワ。ドクツルちゃんも、枯葉汁どぉう?飲んでゆっくり待ってなさいよぅ」
「いや、俺腐生菌じゃないからそういうのは・・・」
「ママ、おっはぁ~!!」
「あら、カニちゃん。早いわね」
ドクツルタケは思わず恨めしげに、出勤してきたカニノツメを見やってしまいました。これがシロフクロタケならどんなに良いかと思ったのでした。
似ても似つかぬキノコが、その視線に気づいてどぎまぎと頬を染めております。
「やだ、なに、ドクツルタケちゃん、そんなにアタシのこと見つめて・・・メイク、変?」
「いや・・・別に」
「別になによう、照れちゃう。あ~ン、ドクツルちゃん朝からイイ男!」
「・・・・・。ママ、俺もカエンタケのところ行ってくる。それじゃ」
「えっもう行っちゃうの?うっそぉ~いけずぅ!あ、気をつけてね。回り道して行った方がいいわよぉ、念のためだけどっ」
「・・・なんで?」
「ん~、なんかね、スギヒラタケがいたのよね、真っ直ぐ行ったところに」
「!」
「別に何がってことないんだけどぉ、ヤな感じがしたのよぉ~。向こうはアタシのこと気づいてなかったんだけどぉ、でも普通、歩きながら一菌でニヤニヤしてたら変じゃなぁい?しかもこぉんな長い尖った杉の枝持って、あの子何しに行くつもりなのかしらってアタシ・・・あッ!?」
カニノツメは盛大に尻もちをつきました。
ドクツルタケが傘の色を変えて彼女(♂)を押しのけ、店を飛び出したのです。
さらに続けてツマミタケも、
「カニノツメッ!ちょっとお店頼んだわッ!!」
「え?え?なに?どうしたのよママ~っ!」
「枯葉汁食べちゃってていいわよーぅッ!あんたの好きなウッドチップ入ってるわぁーッ!」
飛び出して行きました。
カニノツメは呆然と、見送るばかりでございました。
ちょうどその時、カエンタケの家を目指していたシロフクロタケは、大きな椎の木の横を曲がろうとしておりました。
「えっと、ここを曲がって真っ直ぐ行けば、と・・・」
「見ぃつけた」
「!あ、君は」
「スギだよ。おはよう、シロフクロタケ」
それは、あってはならない出会いでありました。
まこと、キノコとは風雲急を告げるものでございます・・・
今日も人間と同じように、キノコ達が朝を迎えておりました。
菌曜連続に次こそ戻りたいドラマ
キノコな僕ら
第十五話 シロツメクサの朝
鳥の囀りは、人と同じようにキノコをも目覚めさせるものでございます。
都市ではめっきり見かけなくなったとも言われるスズメ達が、下山咲にはまだたくさんおりました。
チュン、チュン、チュン。
馴染みの爽やかな声でございます。
「シロちゃぁ~ん。朝よーぅ。そろそろ起きなさぁ~い?」
・・・前言撤回いたします。シロフクロタケを起こしたのは鳥でも爽やかでもなんでもなく、ツマミタケママの酒に焼けた声でした。
「ん~・・・ん?う、ん?あれ?ここは・・・あっ」
目覚めたシロフクロタケは戸惑いながら傘を起こし、人間であればこめかみにあたる部分に走った激痛に、そのまま蹲りました。
ツマミタケがひょいと入口から托枝をのぞかせました。
「おっはぁ~シロちゃん。頭イタイイタイでしょ~ぉ?あんなに飲むからよぅもう」
まるでシロフクロタケが飲む姿を眼前で見ていたかのごとく言うママです。
白いキノコは困惑しております。
「ツ、ツマミタケママ?ここ・・・ママのうち?」
「ていうか、お店ぇ?二階のお泊り部屋よぅ。あ、お泊りって言っても、そういうコトじゃないのよ。そういうコトに使ったりしてないから大丈夫。アタシ、そういうの結構潔癖なの。お酒の上で寝るなんて、駄目よ」
「・・・・えっと・・・」
「あらシロちゃんにこういうお話早かったかしら。もう、ごめんなさいねぇ~?とにかく、シロちゃんは昨日はここにお泊りしたのよぅ。覚えてないのぉ?」
「ん・・・」
シロフクロタケはちょっと考えました。頭が痛みます。
「カエンタケとカラカサタケとお鍋を食べて・・・それから、あんまり覚えてない」
「そこからッ!?じゃあ、ドクツルちゃんが心配してたことはッ!?」
「・・・・覚えてない」
「ドクツルちゃんがお店まで運んでくれたこともッ!?」
「・・・・・・・・・・覚えてない」
「んもぉぉぉぉぉう!シロちゃんもぉぉぉぉおおおう!!」
ツマミタケママはウシガエルのように慨嘆しました。
「シロちゃん酷いわッ!女の子の無自覚ってなんて残酷なのッ!ママもう目眩でダメ、今日お店開けらんないかもしれないワ、ああ・・・!」
「ツ、ツマミタケママ!大丈ぶ・・・!った~・・・」
「あら、シロちゃん。そうね、二日酔いだったわね可哀想に。ちょっと待ってらっしゃいねぇ、ママ特製の枯葉汁作ってあげるッ。あれを飲めば二日酔いなんて一発よぉ~ぅ!」
そんなわけで、半時も後にはシロフクロタケはお店のカウンターにちょんと座り、温かい枯葉汁をすすっていたのでした。
「シロちゃんどぉ~?その御汁、ちょっと味濃くなかったぁ~?」
「ううん、すっごく美味しいよ!ママ、ありがとう」
「ねぇ?最初は食べる気しないと思っても、これは飲めちゃうでしょ~う?シロちゃん、傘色もだいぶ良くなったわよぅ。安心したわぁ、ママ」
「ありがとう・・・その、ごめんなさいママ。心配かけて」
「いいのよぅ。キノコって助け合うものだから。きっともうすぐドクツルちゃんも来るわよぅ。シロちゃん、あれを見て?」
ツマミタケが指すのは、花瓶にいけたシロツメクサの花でございました。
人間にとってはそれは親指の先ほどの小さな花ですけれども、キノコにとっては小ぶりの牡丹ほどにも思われる大きさでございます。お店の中でもその白い花穂は際だっておりました。
「きれい・・・」
「あれねぇ、ドクツルちゃんがシロちゃんにって、帰り際にとって来てくれたのよぉ。アタシ、あんな綺麗なお花って見たこと無いわ。想いが籠ってるのよぅシロちゃん。わかる?」
「・・・ん。ドクツルタケ、私のこと許してくれた、のかな」
「馬鹿ねッ、それだけじゃないわよ~ぅ。シロツメクサの花言葉って知ってるッ?Think!of!me!よ!ハァァアァァァン!もう、胸がキュンキュンしちゃうわアタシッ!」
「・・・シンク??」
シロフクロタケは生粋の日本育ちでございました。英語はまったくいけませんでした。
「ハイハイハイ、シロちゃん、ちょっと動かないでねェ?アタシ、この花は絶対シロちゃんの傘に飾ってあげなきゃって思ってたのッ」
「!い、いいよ、そこに飾ってあるのが綺麗だよ」
「駄目よッ!ドクツルちゃんが来た時にシロちゃんがお花じゃないと駄目なのよッ!!ママに任せて!じっとしてッ!」
「・・・・・。ねえママ、私、昨日のこと全然覚えてないんだけど、何があったか聞いてもいい?」
「もちろんよ~ぅ。シロちゃんは、カエンタケちゃんに負ぶわれて帰って来たのよぅ」
「カエンタケに!?・・・あ、でも、それはなんとなく思い出せるような」
「あれもイイ男ね。アタシ、見直したワ」
「カエンタケがお店に連れて来てくれたの?」
「違うわよう。カエンタケちゃんはベニちゃんのおうちに連れて来たのよう。ていうか、カエンタケちゃんのおうち?それで、ママ達はシロちゃんを探してちょうどそこにいたから、めでたしめでたしってワケ。お店まで連れて来たのはドクツルちゃんよ~ぅ?シロちゃん、おうちに帰りたくないって泣くんだもの~」
「え!?そんなこと言ったんだ私・・・ドクツルタケ、きっとまた怒ったね」
「ンなワケないでしょぉ~う!?このお花を見て頂戴!怒ってる相手にお花なんて取ってきてあげるわけないじゃない!ドクツルちゃんは言ってたわ、『これ、シロが目覚ましたら、あげて』。ハァ~ッ、アタシ、カエンタケちゃんもいいと思ったけど、やっぱりドクツルちゃんだわぁ。ドクツルちゃんイチオシッ!シロちゃん、ママも長い事この業界やってるけど、あんなイイ茸見た事ないわよ、シロちゃんどう思うのッ?」
「私?もちろんそう思うよ、ママ。ドクツルタケは本当にいい茸だよね!」
「それだけッ?」
「うん!絶対にいい茸だもん、他に無い!」
そうではない、そうではないのでございます。
「シロちゃん・・・そう、いいわ。それがシロちゃんだもの、いつか目覚めるってママ信じてる。さ、できたわよぅ。とってもかわいいわぁ~ン!」
シロフクロタケの傘に、ぽんと白い花がつきました。シロフクロタケは自分では良く見えませんけれども、少し頭を動かして、花の揺れるのを感じました。
はにかんで笑う姿を、ドクツルタケこそが見るべきだったでしょう。しかし彼はいません。
「ママ、ありがとう!」
「お礼はドクツルちゃんに言わなくちゃねッ。・・・それにしても遅いわネ。まだかしら」
「あ、そうだ。カエンタケにもお礼言って謝らなくちゃ。連れて来てくれたの、カエンタケなんだもんね」
「お店まではドクツルちゃんよ」
「ちょっと私、行ってくる!すぐ戻るから、ドクツルタケが来たらママよろしく!」
「エッ!!?ちょっと待ってシロちゃんッ!ドクツルちゃんが来てから一緒に行けばいいじゃないの、ねえッ!」
「だって私が悪いんだもん!ドクツルタケまでつきあわせられないよ!行ってくる!」
「シロちゃん!シロちゃぁ~んッ!!」
シロフクロタケは行ってしまいました。シロツメクサをふわふわ揺らしながら。
そして大体こういう時にはそういうものですが、正に入れ替わりでありながら決して鉢合わせはしないというタイミングで、ドクツルタケが店にやってきたのでした。
「はぁっ、はぁっ、寝坊したっ!ママ、おはようっ。シロはっ!?」
「・・・丁度今さっき、行っちゃったわ」
「っ!どこに!?」
「カエンタケちゃんのとこ。お礼言いに行くって」
「っっっ!!なんで待たねぇんだよあいつっ!」
「許してあげて・・・シロちゃん、走るキノコなのよ」
「なんだよそれ・・・」
「まぁ、すぐに戻るっていってたワ。ドクツルちゃんも、枯葉汁どぉう?飲んでゆっくり待ってなさいよぅ」
「いや、俺腐生菌じゃないからそういうのは・・・」
「ママ、おっはぁ~!!」
「あら、カニちゃん。早いわね」
ドクツルタケは思わず恨めしげに、出勤してきたカニノツメを見やってしまいました。これがシロフクロタケならどんなに良いかと思ったのでした。
似ても似つかぬキノコが、その視線に気づいてどぎまぎと頬を染めております。
「やだ、なに、ドクツルタケちゃん、そんなにアタシのこと見つめて・・・メイク、変?」
「いや・・・別に」
「別になによう、照れちゃう。あ~ン、ドクツルちゃん朝からイイ男!」
「・・・・・。ママ、俺もカエンタケのところ行ってくる。それじゃ」
「えっもう行っちゃうの?うっそぉ~いけずぅ!あ、気をつけてね。回り道して行った方がいいわよぉ、念のためだけどっ」
「・・・なんで?」
「ん~、なんかね、スギヒラタケがいたのよね、真っ直ぐ行ったところに」
「!」
「別に何がってことないんだけどぉ、ヤな感じがしたのよぉ~。向こうはアタシのこと気づいてなかったんだけどぉ、でも普通、歩きながら一菌でニヤニヤしてたら変じゃなぁい?しかもこぉんな長い尖った杉の枝持って、あの子何しに行くつもりなのかしらってアタシ・・・あッ!?」
カニノツメは盛大に尻もちをつきました。
ドクツルタケが傘の色を変えて彼女(♂)を押しのけ、店を飛び出したのです。
さらに続けてツマミタケも、
「カニノツメッ!ちょっとお店頼んだわッ!!」
「え?え?なに?どうしたのよママ~っ!」
「枯葉汁食べちゃってていいわよーぅッ!あんたの好きなウッドチップ入ってるわぁーッ!」
飛び出して行きました。
カニノツメは呆然と、見送るばかりでございました。
ちょうどその時、カエンタケの家を目指していたシロフクロタケは、大きな椎の木の横を曲がろうとしておりました。
「えっと、ここを曲がって真っ直ぐ行けば、と・・・」
「見ぃつけた」
「!あ、君は」
「スギだよ。おはよう、シロフクロタケ」
それは、あってはならない出会いでありました。
まこと、キノコとは風雲急を告げるものでございます・・・