2007年1月8日設置
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なぜ・・・武器を全部ぶん投げたのか・・・
上図は、往年の聖闘士星矢ファンなら誰でも一目でわかるあの嘆きの壁の超絶感動シーン5分前時点の略図なんですが。
私はね、刀剣男子を色々描いたりそのために殺陣の動画見たりしてるうちに思ったんです。
ああ、武器と言うものはそれぞれ目的に沿った形をしているのだと。だからその目的に沿った持ち方をしてその目的に沿った使い方をするべきものなのだと。
なんであいつら全員槍から盾までぶん投げたかな。
天秤座の聖衣は何のために6種類の形をしてたのかって話ですよ。
剣、槍、トンファー、ツインロッド、トリプルロッド、盾。
まずトンファーで殴って壁をもろくする、剣と槍で突いて崩す、全体脆くしたところでロッド2種をぶつける、衝撃波に備えて盾で我が身を守る、そういう段階を踏んだ使い方をするわけにはいかなかったんでしょうか。ヨシ!で全部投げて全部跳ね返って事故に繋がってるわけですよ、現場猫かよ。
大体こんな使い方するなら武器の形なんていらない、溶かしてまとめて天秤マークの岩にでもしておけば良かった。
一体いつから天秤座の聖衣は雑な使い方をされるようになってしまったのでしょう。
私は原作を読み返してみました。
初めて天秤座の武器を使ったのは、もちろん皆様ご存知十二宮編の天秤宮、フリージングコフィンされた氷河を救出するシーンです。
このシーンを改めて読み返すと無駄に完璧に四角い氷に恩師のこだわりと愛が感じられますが、そう言えば外伝のブルーグラードの話で少女ナターシャが自然に凍りついた時はもっと不定型な氷だったので、やはり天然の氷と人工の氷では物が違うということでしょうか。
それは今は置いておきます。
あの時、すっ飛んできた天秤座の聖衣は自らの意思で剣を紫龍に与えました。
紫龍は見事に巨大氷を一刀両断、氷河を取りだすことに成功します。氷が両断されているのに氷河が無傷なのは桃太郎もそうだったので問題ないです。
このように、初回はきちんと使うべき武器を正しく使って「斬って」いたわけです。投げたりしてない。良い意味で普通だったんです。
どこらへんからおかしくなったかというと、もう次の登場からなんですが、ポセイドン編・海底神殿の柱の撃破に使い始めたところから。
この時も、移動にこそ貴鬼の足を使いこそすれ、武器の選択は天秤座の聖衣がリードしていて、聖闘士側は与えられた武器を使うのみです。
で、その天秤座聖衣が最初に星矢に与えた武器が「盾」と。
ここからおかしい。なんで盾行った。星矢は単純だから渡されたら「え?これって防具じゃね?」とか思わないよ。疑うことなく投げて柱ぶっ壊して「これが盾の威力か」とか言ってますよ。紫龍を矛盾理論で倒した人が盾の威力とか言わないで欲しい。
こうして見て行くと、投げるような使い方をさせてしまったのはそもそも天秤座の聖衣自身と思われます。
・・・しかし本当にそうでしょうか。天秤座の聖衣はそんな脳筋なのか。
私は聖衣というものを信じています。聖衣の方が中身より思慮深く、彼らが行動するときは何らかきちんとした考えがあるはずなのだと。
だってそこ信じなかったら、言い方綺麗すぎるけど蟹の死が無駄になる。本当に。
さて、そう考えつつ天秤座聖衣の星矢以外への対応を見て行きますと、瞬にはツインロッドを渡し、さらに紫龍には剣を与えています。
これは、使い慣れたアンドロメダチェーンや、既に一度使っている経験+エクスカリバー持ちに寄せて行く配慮を見せていると言っていいのではないでしょうか。
二人とも天秤座の期待に応えて正しく使ってます。投げていません。
氷河にもトンファーを与えていますが、これも氷河は正しく使っており、投げていません。
なぜ星矢には盾を与えたのか?
もしかして、星矢に他の武器は無理だと踏んだのではないか?
その仮説を裏付けるかのように、天秤座の聖衣はもう一人の聖闘士に非常に興味深い対応をしています。
もう一人の聖闘士、そう不死鳥一輝。
彼はカーサの守る南氷洋の柱を破壊するにあたり、天秤座から槍を渡されていますが、まさに間髪入れず次のコマでそいつを柱に向かって投げつけています。
槍っつっても投げ槍用の槍じゃないですからね。三又の、明らかに持って突く用の槍ですよ。なんで投げるんだよ。
で、その結果どういう事になったかと言いますと、一輝がカノンを下して北大西洋の柱を破壊する際には、投げるならこっちにしてくれと言わんばかり渡される武器が盾に替わってます。
・・・天秤座の聖衣も槍の時にびっくりしたんでしょうね。きっと、一番年長者だし大人の落ち着きがあるからって武器にしては格の高い長物与えてやったんですよ。そしたらいきなりぶん投げられたんですよ。えっ!?お前そういう使い方する人なの!?みたいな気持になっても無理は無いんじゃないでしょうか。私は聖衣に同情します。
つまり、天秤座の聖衣的には、武器の使い方ロクに知らなそうな聖闘士には盾を渡しとく事になってるんでしょう。一番頑丈そうですし。
星矢に盾を渡したのも、星矢には他の武器が使えそうもない・何渡してもぶん投げるであろう事をいち早く見抜いたのだと思います。射手座の弓は星矢が使ってたんじゃなくて射手座の聖衣が使っていた説。
天秤座も聖衣としての経験が長いですから、前の聖戦の時に盾を投げる聖闘士がいたとかでピンと来たんですよ。
それが誰だったのか今となってはわかりませんが、今回の聖戦、嘆きの壁の前で盾を担当していたのは童虎でした。
嘆きの壁の前で黄金聖闘士に武器を与えたのは聖衣の意思だったんでしょうか。
どっちかというと童虎の意思のようにも見えますが、しかし聖衣にしても、まさか二十歳過ぎた大人達がいっせいに自分をぶん投げるとは思っていなかったでしょう。
十代の少年達が正しく使ってくれてたのに何でお前ら全部投げるのみたいな感じだったのではないでしょうか。
ただ、天秤座の聖衣も、聖闘士を信じてたかというとそうとも言い切れない。
その証拠に、原作通して一番難易度高そうなトリプルロッドを誰かに与えた事は一度も無い。(南大西洋の柱は武器不明なので可能性あるけれども)
ツインロッドと被るからという天秤座の武器の中の邪武みたいな扱いで干されたのかとも思いましたが、まあ、難しいからなんでしょうね・・・主が盾投げる人なんだもの、もう聖闘士に過度な期待はしないようになっていたんだろう・・・
嘆きの壁では無理な使い方をしたせいで(?)武器が壊れましたが、正しい使い方をしていたらどんな結果になっていたのか、気になるところです。
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あるところに下山咲(しもやまさき)という場所がございまして・・・
森があり、林があり、野原があり、川があり、人間の町のある場所にしてはよく自然が残っておりましたが、その自然のあちこちにキノコ達が生えては楽しく暮らしておりました。
キノコはどうして生えるのでしょう?
彼らは人が植えたわけではありません。どこからともなくやってきて、いつのまにかそこにいるのです。
人間の中には、雨が多いとキノコが生えるように思う者もいるようです。
しかし、本当にそうでしょうか。
雨がキノコを呼ぶのか、あるいは・・・・
菌土曜連続深夜ドラマ
キノコな僕ら
第八話「雨とキノコ」
「オニフスベ!!」
シロフクロタケを追いかけて来たドクツルタケは、やがて色だけ同じで全然違うキノコと鉢合わせ、腹立ち紛れに大きな声を上げました。
辺りはだいぶ日も落ちました。遠目に白い塊はどうにも紛らわしかったのです。
「な、な、な、なんでごわすか」
可哀想に、オニフスベは大きな体を緊張に膨らませてあきらかに挙動不審になりました。
猛毒菌に怒鳴られて怖かったのでしょう。
「こっちにシロフクロタケ来なかったか!?」
「し、しろ、シロフクロウ?はぁ、おいどんにはなんのことだかさっぱりでゴワス」
ドクツルタケはじっと彼を見上げました。
「・・・こっちに来たと思うんだけど。絶対見ただろ」
「!?み、見てないでごわす!フクロウなんておいどん、知らんでごわす!」
「フクロウじゃない、シロフクロタケ。知り合いだろ、なんでそんな不自然な聞き間違えするんだよ」
「へ?や、いやあ、シロフクロタケでごわすか!シロフクロタケならもちろん知り合いでごわす!ふ、不自然と言われるのは心外でごわす、ドクツルタケがいきなり怒鳴るから、何のことだかわからなかっただけでごわすど!」
「・・・・・。まあいい。シロフクロタケ、どっち行った?」
「ど、ど、ど、どっち?どっちって、どっちでごわす?」
「俺が聞いてんだよ!さてはあんた、シロに口止めされただろ!」
「いやいやいやいやおいどんは何も知らんでごわす!本当でごわす!ドクツルタケ、おいどんの目を見るでごわす!」
ドクツルタケはオニフスベの目を睨みました。
オニフスベはまたたくまに視線を逸らしました。
「逸らしてんじゃねーか!」
「こここここれは違うでごわす!ドクツルタケががっつい怖いで思わず逸らしただけでごわす!カエンタケより怖いでごわすど!」
「知らねえよ!くそっ!」
珍しく激昂して地面を蹴ったドクツルタケです。
オニフスベは怯えるあまり、体中に黄色い汗を浮かべています。さらにだんだん茶色くなってきました。
「おい!あっちか!?」
「し、知らんでごわす・・・」
「じゃ、こっちか!?」
「わからん、わからんでごわ・・・」
「じゃあそっちか!?」
「!!そそそそっちではないと思うでごわ」
「そっちだな!サンキュ、オニフスベ!」
荒げた声のままお礼を言って、ドクツルタケは駆け去って行きました。
緊張から解き放たれたオニフスベは、膨らみきった体を音を立ててしぼませていきました。
それと同時に煙のような胞子が彼の体から舞上がり、さらに背中の陰から、
「けほっ、げほえほっ・・・・ありがとう、オニフスベ。けほっ」
咳き込みながらシロフクロタケが現れたのでした。
「怖かった・・・怖かったでごわす・・・」
オニフスベは放心状態です。胞子だけに。
「ごめんね、急に隠れさせて欲しいなんて無理言って。でも、そこまで怯えなくても・・・胞子もこんなに飛ばさなくても」
シロフクロタケは言いましたが、ホコリタケ科のキノコの胞子が多いのは仕方がないことです。オニフスベはシロフクロタケの一万倍の胞子を作るのです。そういうキノコなのです。
気の毒なキノコは茶色醒めた顔で、それでもいくらか落ち着いたのか心配そうにシロフクロタケを見やりました。
「ドクツルタケは行ってしまいもしたが・・・じゃっどん、本当にこれで良かったでごわすか。おいどんが言うのもなんでごわすが、二菌でしち話しあった方が」
「嫌だ!」
「シロフクロタケ・・・」
「言ったよね?あいつは私を毒にしようとしてたんだ!」
「それはどっか誤解があって・・・」
「毒になるくらいなら乱獲される方がマシだ!あんなキノコだと思わなかった!ドクツルタケなんてもう、傘も見たくないっ!」
「・・・・・」
「隠してくれてありがとう、オニフスベ。もう行くね。・・・あ、それと、ごめん。ベニナギナタタケのこと、力になれなくて」
「!い、いいんでごわす。ベニナギナタタケさんは、やっぱりおいどんには過ぎたキノコでごわす。カエンタケが・・・カエンタケが相応しいとも思わんけんども・・・」
「うん・・・ごめんね。元気出して?」
「はぁ、シロフクロタケも」
「・・・うん」
こうして、シロフクロタケはオニフスベと別れ、また一本きりになって、今度はとぼとぼと歩き始めました。
日がすっかり落ちてもまだ歩いておりました。
森を抜けて、野原に出てもまだまだ歩いておりました。
その頃には自然と彼女の傘も俯きがちになって、独り言が増えておりました。
「・・・ドクツルタケなんか」
ぽつ。
「ドクツルタケなんか。こっそりスギヒラタケに会いに行くくらいなら、面と向かって私に言えばいいじゃないか。毒になれって。そりゃ、言われたらその場で張り倒すけど。でも、あんなこそこそするなんて!ドクツルタケの馬鹿!馬鹿キノコ!」
ぽつ、ぽつ。
「大体、何のために毒にならなきゃいけないのさ。そんなに私に間違えられて誤食されるのが嫌なのかな?二菌揃って毒になって誤食を無くそうってこと?そんなの間違ってる!食から毒に変わるなんて危険だし!気がつく前に人間は絶対食べちゃうじゃないか!」
ぽつ、ぽつ、ぽつ。
「友茸じゃないからって毒にまでしようとするなんて。ドクツルタケなんてもう知らない!ドクツルタケなんて・・・」
サァァァァ・・・
「・・・雨?」
シロフクロタケはようやく気づきました。
雨です。真っ暗な空から、砂でも落とすような音を立てて、柔らかく雨が降って来ています。
彼女は先ほど無数に空へと舞い上がって行ったオニフスベの胞子を思い出しました。
おそらくあれが上空数百メートルまで登り、バイオエアロゾルとなって低高度凍結、雨を呼んだものでしょう。
雨がキノコを育てるだけではありません。キノコが雨を育ててもいるのです。
「・・・・・」
シロフクロタケはぼんやりと見上げるばかりでした。
キノコとしていつもは嬉しい恵みの雨も、なぜか今日ばかりは湿っぽすぎるように感じました。
そしてそんな彼女のすぐそばに、また一本の傘が近づいてきていたのでした。
まこと、キノコとは天候までも左右する生き物なのでございます・・・
森があり、林があり、野原があり、川があり、人間の町のある場所にしてはよく自然が残っておりましたが、その自然のあちこちにキノコ達が生えては楽しく暮らしておりました。
キノコはどうして生えるのでしょう?
彼らは人が植えたわけではありません。どこからともなくやってきて、いつのまにかそこにいるのです。
人間の中には、雨が多いとキノコが生えるように思う者もいるようです。
しかし、本当にそうでしょうか。
雨がキノコを呼ぶのか、あるいは・・・・
菌土曜連続深夜ドラマ
キノコな僕ら
第八話「雨とキノコ」
「オニフスベ!!」
シロフクロタケを追いかけて来たドクツルタケは、やがて色だけ同じで全然違うキノコと鉢合わせ、腹立ち紛れに大きな声を上げました。
辺りはだいぶ日も落ちました。遠目に白い塊はどうにも紛らわしかったのです。
「な、な、な、なんでごわすか」
可哀想に、オニフスベは大きな体を緊張に膨らませてあきらかに挙動不審になりました。
猛毒菌に怒鳴られて怖かったのでしょう。
「こっちにシロフクロタケ来なかったか!?」
「し、しろ、シロフクロウ?はぁ、おいどんにはなんのことだかさっぱりでゴワス」
ドクツルタケはじっと彼を見上げました。
「・・・こっちに来たと思うんだけど。絶対見ただろ」
「!?み、見てないでごわす!フクロウなんておいどん、知らんでごわす!」
「フクロウじゃない、シロフクロタケ。知り合いだろ、なんでそんな不自然な聞き間違えするんだよ」
「へ?や、いやあ、シロフクロタケでごわすか!シロフクロタケならもちろん知り合いでごわす!ふ、不自然と言われるのは心外でごわす、ドクツルタケがいきなり怒鳴るから、何のことだかわからなかっただけでごわすど!」
「・・・・・。まあいい。シロフクロタケ、どっち行った?」
「ど、ど、ど、どっち?どっちって、どっちでごわす?」
「俺が聞いてんだよ!さてはあんた、シロに口止めされただろ!」
「いやいやいやいやおいどんは何も知らんでごわす!本当でごわす!ドクツルタケ、おいどんの目を見るでごわす!」
ドクツルタケはオニフスベの目を睨みました。
オニフスベはまたたくまに視線を逸らしました。
「逸らしてんじゃねーか!」
「こここここれは違うでごわす!ドクツルタケががっつい怖いで思わず逸らしただけでごわす!カエンタケより怖いでごわすど!」
「知らねえよ!くそっ!」
珍しく激昂して地面を蹴ったドクツルタケです。
オニフスベは怯えるあまり、体中に黄色い汗を浮かべています。さらにだんだん茶色くなってきました。
「おい!あっちか!?」
「し、知らんでごわす・・・」
「じゃ、こっちか!?」
「わからん、わからんでごわ・・・」
「じゃあそっちか!?」
「!!そそそそっちではないと思うでごわ」
「そっちだな!サンキュ、オニフスベ!」
荒げた声のままお礼を言って、ドクツルタケは駆け去って行きました。
緊張から解き放たれたオニフスベは、膨らみきった体を音を立ててしぼませていきました。
それと同時に煙のような胞子が彼の体から舞上がり、さらに背中の陰から、
「けほっ、げほえほっ・・・・ありがとう、オニフスベ。けほっ」
咳き込みながらシロフクロタケが現れたのでした。
「怖かった・・・怖かったでごわす・・・」
オニフスベは放心状態です。胞子だけに。
「ごめんね、急に隠れさせて欲しいなんて無理言って。でも、そこまで怯えなくても・・・胞子もこんなに飛ばさなくても」
シロフクロタケは言いましたが、ホコリタケ科のキノコの胞子が多いのは仕方がないことです。オニフスベはシロフクロタケの一万倍の胞子を作るのです。そういうキノコなのです。
気の毒なキノコは茶色醒めた顔で、それでもいくらか落ち着いたのか心配そうにシロフクロタケを見やりました。
「ドクツルタケは行ってしまいもしたが・・・じゃっどん、本当にこれで良かったでごわすか。おいどんが言うのもなんでごわすが、二菌でしち話しあった方が」
「嫌だ!」
「シロフクロタケ・・・」
「言ったよね?あいつは私を毒にしようとしてたんだ!」
「それはどっか誤解があって・・・」
「毒になるくらいなら乱獲される方がマシだ!あんなキノコだと思わなかった!ドクツルタケなんてもう、傘も見たくないっ!」
「・・・・・」
「隠してくれてありがとう、オニフスベ。もう行くね。・・・あ、それと、ごめん。ベニナギナタタケのこと、力になれなくて」
「!い、いいんでごわす。ベニナギナタタケさんは、やっぱりおいどんには過ぎたキノコでごわす。カエンタケが・・・カエンタケが相応しいとも思わんけんども・・・」
「うん・・・ごめんね。元気出して?」
「はぁ、シロフクロタケも」
「・・・うん」
こうして、シロフクロタケはオニフスベと別れ、また一本きりになって、今度はとぼとぼと歩き始めました。
日がすっかり落ちてもまだ歩いておりました。
森を抜けて、野原に出てもまだまだ歩いておりました。
その頃には自然と彼女の傘も俯きがちになって、独り言が増えておりました。
「・・・ドクツルタケなんか」
ぽつ。
「ドクツルタケなんか。こっそりスギヒラタケに会いに行くくらいなら、面と向かって私に言えばいいじゃないか。毒になれって。そりゃ、言われたらその場で張り倒すけど。でも、あんなこそこそするなんて!ドクツルタケの馬鹿!馬鹿キノコ!」
ぽつ、ぽつ。
「大体、何のために毒にならなきゃいけないのさ。そんなに私に間違えられて誤食されるのが嫌なのかな?二菌揃って毒になって誤食を無くそうってこと?そんなの間違ってる!食から毒に変わるなんて危険だし!気がつく前に人間は絶対食べちゃうじゃないか!」
ぽつ、ぽつ、ぽつ。
「友茸じゃないからって毒にまでしようとするなんて。ドクツルタケなんてもう知らない!ドクツルタケなんて・・・」
サァァァァ・・・
「・・・雨?」
シロフクロタケはようやく気づきました。
雨です。真っ暗な空から、砂でも落とすような音を立てて、柔らかく雨が降って来ています。
彼女は先ほど無数に空へと舞い上がって行ったオニフスベの胞子を思い出しました。
おそらくあれが上空数百メートルまで登り、バイオエアロゾルとなって低高度凍結、雨を呼んだものでしょう。
雨がキノコを育てるだけではありません。キノコが雨を育ててもいるのです。
「・・・・・」
シロフクロタケはぼんやりと見上げるばかりでした。
キノコとしていつもは嬉しい恵みの雨も、なぜか今日ばかりは湿っぽすぎるように感じました。
そしてそんな彼女のすぐそばに、また一本の傘が近づいてきていたのでした。
まこと、キノコとは天候までも左右する生き物なのでございます・・・
ならたけ にボコられたタマウラベニタケ。
*ナラタケ総称とナラタケ曹長が紛らわしいので、総称を平仮名表記することにしました。
樹木に寄生しともすれば枯死させる ならたけ ですが、彼らの犠牲は木だけでは無かった。
なんと罪も無いキノコにまで寄生し、ひどいめに合わせるという。
その犠牲者がイッポンシメジ科のキノコ、タマウラベニタケである。
彼は本来いかにもキノコらしい傘と柄のあるハラタケ型のきれいな姿なのだが、ならたけに寄生されると奇形化し、ボコボコした丸い団子の塊のようになってしまう。
2000年5月の記録によれば、ワタゲナラタケ、クロゲナラタケ、コバリナラタケ、キツブナラタケによる寄生が知られているとあった。
ボコボコが集まってくっついて溶岩状になった姿は、ならたけ贔屓の私ですらややドン引いたほどグロかった。ならたけ・・・お前ら・・・
タマウラベニタケの名前は、その団子というか「玉」の形状からつけられたものである。思わずタマウラ・ベニタケで切りたくなるが、タマ・ウラベニタケである。注意。
正しい幼菌か何かと誤解されて名前につけられたくらいなので、彼は発見されるたび、いつもボコられた状態でいるわけだ。なんで彼ばっかり。
ならたけは本当に正義の軍隊なのであろうか。おなじキノコまでこんな目に合わせるとはいくらなんでも酷くはないか。
もしかしたら森を守るための仕方のない犠牲なのかもしれないが・・・・しかしタマウラベニタケ、可哀想に・・・・
・・・・と、思われていたのだが。
近年の研究により、寄生されているのはならたけの方であり、タマウラベニタケだと思われていた奇形も、実は彼に侵されたならたけのなれの果てだったことが判明。
お前怖すぎだろうタマウラベニタケ。
ならたけどころではない完璧なキノコへの寄生菌で、ならたけの犠牲者のフリをしながらならたけを食っていたのである。こんな邪悪なキノコがいていいのか。
コロシテ・・・コロシテ・・・というならたけの呻きが聞こえてきそうである。
しかもそうすると何か?お前のその名前は結局お前自身の姿ではなく、お前の犠牲者の姿からつけられた名前だったということか?
どこの蟹座のデスマスクだよ。
キノコと聖闘士がとんでもないところでシンクロしたよ。なんでだよ。全ては蟹に通じる呪いでもかかっているのか私に。
植樹を滅ぼされナラタケに対し悪いイメージを持っていた人間は、樹にあんなことするならキノコにだってこんなことぐらいするだろう、とばかりならたけ側が加害者であると誤認してしまっていた。先入観というものがいかに恐ろしいかを本件は教えてくれる。
だがしかし、人類も愚か者ばかりではない。
山歩きを旨とする方の中には、実際に目で見たタマウラベニタケとナラタケの菌糸のあり方に違和感を覚え、「・・・ナラタケがタマウラベニタケに寄生していると言われているが、実は逆ではないかと私は疑っている」などブログに書き残した慧眼の士もおられた。
バイオハザードの日記か何かのようで、書き手の身を案じずにはいられない。
その一方で、ならたけを侵害するタマウラベニタケを見て、「こいつを上手く利用すればナラタケ病への抑止になるかもしれない」というキノコ研究者の記述もあった。
なんだかとても人類滅亡フラグの匂いがする。
大丈夫?ほんとに大丈夫?人間は本当にこんな邪悪なキノコを操れるの?
いやちょっと気になってるんですけどね、前述の通り、2000年5月の資料ではタマウラベニタケに寄生する(と見せかけて寄生されている)ならたけは、ワタゲナラタケ、クロゲナラタケ、コバリナラタケ、キツブナラタケなんですよ。
病原性の強いナラタケとナラタケモドキにはタマウラベニタケとの関係が記載されていないんです。
ということはですよ・・・・
もしかしたら、タマウラベニタケは病原性の強いならたけには寄生が難しいっていうことかもしれないじゃないですか。
で、さらにもしかしたら、タマウラベニタケに寄生されたくないがためにナラタケが病原性を強めた可能性もあるじゃないですか。
敵の敵は味方では無い。
タマウラベニタケによって色んな意味で操られているんじゃないのか、ならたけ。
そんな恐ろしいキノコを人間が手中に収めようとしても、はたして上手く行くのだろうか。タマウラベニタケが暴走して人類に寄生する事故とか起きないか。
心配でならない。
なお、タマウラベニタケにしろ ならたけ にしろ可食キノコなので、どっちがどうでも人間的には美味しく食べられる。
奇形になったのも、食感が変わっていてオツだと言う。
まあ・・・美味しいならいいか。別に。